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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 『私、お母さんになりますー』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 『私、お母さんになりますー』

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●夜:空京

 パラミタ一の規模を誇る空京の街も、夜の闇が深くなるにつれて通りを歩く人の姿も少なくなり、昼間とはまた違った雰囲気を醸し出す。
 何か不思議な出来事が起こるとしたら、この時間をおいて他にないだろう。

「それにしても、驚いたわ。あのゲームでレベル96って、相当上の方じゃない」
「魔穂香だって、一週間でレベル75でしょ? 後1ヶ月もあれば追いつくって」
 そんな中、豊美ちゃんにお願いされる形で夜のパトロールに出た馬口 魔穂香だが、昼過ぎに「私も『魔法少女マジカル美羽』として豊浦宮に所属させて下さい」と豊美ちゃんにお願いしにやって来た小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が自分と同じネトゲをプレイしていることを知るやいなや、出動間近まで一心不乱にプレイしていたのであった。馬口 六兵衛が呼びに来なければ何時までもやっていた……は流石にないとしても、出動が1時間2時間は遅れたかもしれない。
「ごめんなさい、美羽、あのゲームのことになると目がなくて……」
「あぁ、いいッスよ。魔穂香さんがあれだけ積極的に誰かと話すの、久し振りに見たッス。よければこれからも仲良くしてやってほしいッス」
 申し訳なさそうに頭を下げるコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)に頷いて、六兵衛はふと、共に歩く者たちのことを思う。
(……まぁ、何があったか知らないッスけど、この前のようなことにならなければいいッスねぇ……)

「んー、操られていた契約者ねぇ。魔穂香くんが特別恨まれるような存在でもないように思うしねぇ」
「この前魔穂香ちゃんが遭遇した時は、「見つけたぞ!」って言われたんだよね。魔穂香ちゃんを狙ってたのか、それとも、魔穂香ちゃんが魔法少女だから狙われた?
 ……うーん、まだまだ分かんないことだらけだね」
 桐生 円(きりゅう・まどか)七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が、今回街を騒がせている事件について意見を交わし合う。
「まほーしょーじょは、むりょくなひとたちをまもるのがしめいなの。
 あるちゃんはまほーしょーじょをうねうねぬちゃぬちゃするのがしめいなの!」
 そして二人の後ろを、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)がちょうど讃良と同じくらいの年格好になって付いて来ていた。外見こそ立派なようじょだが、言ってることも物騒なら触手を常に這わせている姿も物騒だ。思わず某マスターがようじょ嫌いになるくらいである。
「ねぇ、アルコリアさんはどう思う?」
「えー、あるちゃん5さいだからわかんなーい」
「……ボクは何もツッコまないよ――あー、突っ込まれるのも遠慮したかったなー。しょくしゅこわい」
 真面目に事件のことを考えている歩、戯れに円を触手で貫くアルコリア、ビクンビクンと身体を震わせつつ話に合わせる円。
 とっくに、不思議な出来事は起きてしまっているようである。

「いおりんはこの事件、どう思いますか?」
「うーん……確か魔穂香さんは恨みっぽい台詞を聞いた、って言ってましたです。もしかしたら操られていた契約者は、最初のツアーに参加して行方不明になった契約者さんじゃないでしょうか」
「うっ……た、確かにその可能性はゼロじゃないですね。流石いおりん、鋭いです」
「……って、いおりんって何ですかー。確かに不本意ながら僕の魔法少女名ですけど、なんかむず痒いですー」
 『マジカルいおりん』こと土方 伊織(ひじかた・いおり)の訴えに、『スピー』こと空澄 スバル(からすみ・すばる)が意見を口にする。
「今は魔法少女としての活動ですから、魔法少女名を使うべきと思いますよ。大丈夫です、すぐに慣れます」
「そうです、お嬢様でしたらすぐにでも、魔法少女として立派に使命を果たされます。
 ご安心下さい、お嬢様のご勇姿は不詳私がこのビデオカメラで一秒たりとも逃しません。そしてこの映像を地球の旦那様方やセリシア様に……」
「はわわー、べディさん何やってるですかー。せ、セリシアさんにだけは黙っておいてくださいー」
 ビデオカメラを構えたサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)へ、伊織が必死の抵抗を見せる。まあ、セリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)であれば楽しそうに見ているだけかもしれないが、一応伊織も男の子である。一応。
「貴公らは何をしているのだ。俺にこのような奇天烈な服を着せて連れ出している以上、必ず世を騒がせている事件を解決するぞ」
 戯れている三名を叱るように、馬謖 幼常(ばしょく・ようじょう)が声を発して振り返り、先へと進む。ちなみに何故幼常が伊織と同じ魔法少女な格好をしているかというと、ベディヴィエールが『今回の事件を調査するためにはこの服を着なくてはならない』と(もちろん嘘だが)言い、渋々幼常が従ったという次第である。幼常としてはそれもあるが、『魔法少女は道士と同じようなものである』と思い込んだことも一因にあった。まぁ、当たらずといえども遠からず、かもしれない。
「契約者が操られているのであれば、その近くに黒幕がいるのではないか?
 というわけでだ。伊織、貴公が襲われたら俺が注意深く周囲を探してやる。いや、俺が見つけ出せるようにわざと襲われろ」
「はわわ、な、何を言うですかようじょさんー」
「そうです、お嬢様を囮になど言語道断。やるならようじょ、お前がやるのです」
「まあ、二人でしたら確かに適任のように思いますが……」
「そこなぬいぐるみ、お前もお嬢様を囮にすると言うのですか。もしお嬢様の身に何かあれば、お前の綿を全部引っこ抜きますよ」
「ごめんなさいもう言いません」

(はぁ……こんなんで事件、解決出来るンスかねぇ……)
 先行きに非常に不安を覚える六兵衛であった――。

「魔法少女……悪者をやっつける! つまり、正義の味方なのだな!
 これは我輩達もやるしかないのだ! ほら、カレン殿! 美空殿! 共に行くのだ!」
「おわわっ、ちょ、待て、待てっての! ……ったく、何だってんだよいきなり……」
「…………」(まぁ、瑠璃さんの思いつきは今に始まったことではありませんわ。悪いことをするわけではありませんし……少しくらい、お付き合いいたしましょうか)

 そうして夜の街に繰り出していった木之本 瑠璃(きのもと・るり)カレン・ヴォルテール(かれん・ゔぉるてーる)相田 美空(あいだ・みく)を、相田 なぶら(あいだ・なぶら)は物陰から密かに見守っていた。
(あの三人、こんな夜遅くに出て行ったと思ったら……。そういえば何か街を騒がしてる事件があるって言ってたな。
 それにしても、魔法少女って……瑠璃はともかくカレンと美空は明らかに少女じゃ――おっと、誰か来たようだ」
 新たな気配を感じ、なぶらが身を隠す。通りを歩いていくのは、どう見ても就学前にしか見えない、でも立派な魔法少女なので大丈夫ですとは本人談のノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)であった。
「きっと今回の事件は、悪の使徒が契約者を操って皆を困らせているに違いありません。正義の魔法少女の出番です。
 ……ふわぁ……夜は眠くなります……うとうと……はっ! だ、ダメです、寝ちゃダメですっ」
 時折ふらつきながら自らの使命を果たそうとするノルンに、なぶらは自分のパートナーを重ねる。
(ん……? 通りの向こうに、誰か居るな……?)
 そちらへ視線を向けると、ちょうど今のなぶらと同じように物陰からノルンを見つめる少女、神代 明日香(かみしろ・あすか)の姿があった。
(私が悪者だー!! って名乗る者が現れて、それを皆で懲らしめ改心させてめでたしめでたし、って話なら簡単なんですけどねぇ)
 そう思う明日香だったが、「魔法少女の出番ですね!」と目を輝かせて言うノルンの前で口にすることも出来ず、結局最初こそ同行していたものの今は物陰からそっと見守る形を取っていた。気分は子の成長を願う親といった所だ。
(……あら、向こうに誰か居ますね。……他にも人影……なるほど、私と同じ考えをした人がいたわけですか)
 明日香もなぶらの姿を認め、同じ事をしている人はいるものだな、と思い至る。もしかしたら他にも、パートナーが魔法少女として頑張ろうとしているのを見守る、そんな人がいるんじゃないかなとも思う。

「こ、こっちでいーんでございやがりますか、バカマモ!」
「お、おうよ……これに入れた情報だと、こっちのはずだぜ」
 その頃、別の場所ではジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)新谷 衛(しんたに・まもる)がおっかなびっくり、夜の街をパトロールに出ていた。
「まったく……二人ともお化けの類が苦手なのに、何でこんなの請け負ったんだ?」
 すっかりへっぴり腰、しかも普段の二人からは考えられない、ぴったりくっついて歩く様をおかしく見つめながら、林田 樹(はやしだ・いつき)が問いかける。
「いっ、樹様! ワタシ、魔法少女なんですよ! 困った方がいらっしゃったら助けなければいけませんっ!」「い、いっちー! オレ様教導団員だぜ! 困ったヤツが居たら助けなきゃいけねーじゃん!」
 強化人間もビックリのハモリっぷりに、尋ねた樹は「そうだな」と答えつつ、笑いを堪えるのに必死だった。
「コホン、と、とにかく、操られた方がいらっしゃったら、片っ端から攻撃して正気を取り戻して差し上げますっ!」
「あ〜なんだ、操られたヤツが居たら、まずは場所をこいつに記録して、そんでもって片っ端からぶちのめせばいいんだろ?」
「……って、こっち寄るんじゃねーでございますよバカマモ! ワタシの真似しやがらねーでくださいますか!?」
「何だよ、オレ様によっかかってんのはじなぽんだろ〜が! それにこれはオレ様が前々から考えてた作戦だ、断じて真似じゃね〜!」
 げしげし、と衛を足蹴にするジーナ、踏みつけられつつ抵抗する衛に、樹はいつ堤防が決壊してもおかしくない状態だった。
(何だかんだいって、ぴったりなんじゃないか、この二人は。
 ……まあなんだ、何も起きなければそれでよし。何か起きるようなら……背中を守ってやらないとね)
 笑いの波を鎮めるのに必死になりつつも、樹は周りの殺気を感知し、二人に危険が及ばないようにする努力を忘れない。今日という日が過去のものになっても、その時感じたこと、経験したことはきっと後の糧になる、そう思いながら。