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ゾンビ トゥ ダスト

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ゾンビ トゥ ダスト

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「なんだか遠くの方でゾンビの断末魔の声じゃない叫び声が聞こえるような……」
「なに、気のせいじゃろう。それよりも前の敵に集中しなくてはな、油断は大敵じゃぞ?」
「そう、だな。ああ、さあいこうか」
 ゾンビを前に驚きもせず堂々と立つのは桜葉 忍(さくらば・しのぶ)とそのパートナーの織田 信長(おだ・のぶなが)だ。
「しかし、長年戦場にいるが死者と戦ったことはなかったのう。楽しませてもらうとしよう」
「楽しめるとは思えないけど、俺もこの大地が緑に生い茂る大地になるのを俺も見てみたいからな。頑張らないとな」
「別にお主は後ろにいてもらっても構わんぞ? 私と私が率いる織田軍団があれば事足りるだろうしな!」
「この数相手じゃ織田軍団だけでも足りないだろうって。とりあえず、自慢の軍団を出したらどうだ?」
 不敵に笑う信長に笑って返す忍。
「はっはっは! それもそうじゃな! ではお言葉に甘えて。いでよ、我が最強の軍団よ! 屍どもにもう一度安らぎを与えてやれい!」
 そう言うと、織田と忍の前にはゾンビの数にも負けない織田軍団が現れる。その光景はまさに戦。
「さあ、行くぞ! 私に続け!」
 【チルー】で織田軍団に光輝属性を付与させ、自身は『アーマードユニコーン』に乗り込み先陣を切る。ゾンビたちを『蒼炎槍』斬り倒していく姿はまさに一騎当千。
 しかし、前に突っ込みすぎた信長の横からゾンビが襲い掛かる。だが、それを見ていた忍はそうはさせなかった。
「悪いが、総大将を討ち取らせるわけには行かないな!」
 【絶零斬】を使用して信長の周りに群がるゾンビたちを一瞬で凍らせる忍。
「うむ、よい働きじゃ! うちの大将にはならんか?」
「遠慮しとくよ、それよりあまり前に出すぎるなよ? お前がいなくなったら軍団もいなくなって不利になるんだからな」
「そうじゃったな! しかし私はうつけじゃからのぅ、そうなってしまうかもしれんのう! はっはっは!」
 ゾンビの群れの真ん中で豪快に笑う信長に、少々呆れる忍。
「さあ、演者は揃ったのう! 行くぞ屍ども!」
「生者と死者が役者の舞台なんて誰も見たくないだろうから、さっさと幕は引くけどな!」
 気合十分にゾンビ軍団と相対する二人と織田軍団だった。

「おらよ! ブリザード!」
 戦闘を開始していたのはグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)とそのパートナーたちであるロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)だった。
 辺りにはグラキエスの【奈落の鉄鎖】で速度が落ちているゾンビや【ブリザード】で凍りついたゾンビなどが点々といた。
「あまり無理はしないでくださいね?」
 【機晶爆弾】【戦闘用イコプラ】を【サイコキネシス】で操り、グラキエスの援護をするロアが心配そうに話しかける。
「平気平気、あいつら動きは遅いし二人の援護もあるからそうそうやられたりしないって」
「だが油断は禁物だぞ。あまり我の後ろから出るではないぞ」
 ゴルガイスがグラキエスに釘を刺す。
「わかってるよ、二人がいてこそ俺は暴れられるんだからな。そこらへんは大丈夫だって」
 三人が離している間にも像を目指すゾンビの群れ。しかし、ゴルガイスの【ドラゴンアーツ】によって怪力を込めた【煉獄斬】や【迅雷斬】の攻撃のせいで歩きにくくなった地形や、未だに熱や電気が残っている地面のせいで中々進めないでいたのだ。
「これだけやればゾンビたちもそうそう前にはいけないはずだ」
「……ならいいのですが、そうもいかないようですね」
「だな」
 思っても見なかった二人の反応にグラキエスが前に振り返り直ると、先ほどの戦っていたゾンビたちの倍のゾンビの群れが見えたのだ。
「これは……」
「まだまだ終わりは先のようですね、やはり無理をせず戦っていきましょう。でなければこの長丁場、乗り切れませんよ?」
「ああ、ロアの言うとおりだ。戦法は今までどおり、俺が盾となり、グラキエスが魔法を、ロアが後方支援。この形を崩さずに行くぞ」
「わかった、なるべくこっちのほうに誘導させながら戦おう。必ず二つの像の思いをかなえるんだ!」
「エンドの願いは私の願いです」
「俺もここがどのような過程で変わっていくのか興味があるからな。負けるわけには行かぬ」
 三人の意思は噛み合い、そのままゾンビへと相対していく。
「悪いがここは通せないし、他のところも通行止めだ。大人しく帰るんだな」
 三人の息ぴったりの攻撃の前に何もできずにただやられるだけのゾンビ。地形もがたがたになっているためゾンビは歩くことすらおぼつかない。
 それでもゾンビの数は目に見えて増していく。他の前線で戦うものたちのところでもゾンビは増加していく。それでも彼らは戦い続ける。

「くっくっく、フハハハハ! 我が名はドクターハデス! 聞け、ゾンビ諸君!」
 そう、ゾンビの前で高らかに笑い宣言するのはドクター・ハデス(どくたー・はです)だ。彼は今回ゾンビと争いに来たのではない。
 彼らの場所を提供することで秘密結社オリュンポスの参加になるように、ゾンビに交渉しにきていたのだった。
「住み慣れた土地を追われるお前たちの気持ちは、悪の秘密結社の大幹部であるこの俺にはよくわかるぞ!」
 ゾンビたちはお構いなしに向かってくるが、それもお構いなしでハデスは話を続ける。
「そこでだ! ゾンビ諸君をオリュンポスの戦闘員として雇おうではないか! そうして、我らと共に世界征服をして、この土地よりももっと諸君の暮らしやすい土地を探しだそうではないか!」
 相手が人間であればこの交渉は成立するかもしれないのだが、残念ながらゾンビ相手だ。交渉は成立しない、というか成立することができない。
「俺は戦闘員がほしい、お前たちは場所がほしい。ならばこの話、悪い提案ではなかろう? ……ってこら、なぜ襲ってくるのだっ!?」
 契約は成立するものばかりだと思っていたハデスにとっては予想だにしないことだった。ゾンビの知能ではハデスの言葉すら理解することはできなかったのだ。
「ちょ、ちょっと、兄さんっ! こ、こんなにゾンビが一杯いる前で何をしてるんですか! ゾンビにそんな交渉成立するわけがないって、きゃあああああっ! こっちにもきてるじゃないですかー!」
 そう言ってハデスの行動に巻き込まれているのは高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)だ。今日も今日とて、ハデスと行動を共にし、変なことに巻き込まれる苦労人である。
「落ち着け! 素数を数えるのだ!」
「そんな場合ですか! 新しい発明品かなにかでこのゾンビたちをどうにかするのではないのですか!」
「いや、そんなことはしないが」
「私の期待を返してくださいー!」
 襲い来るゾンビの群れをなんとかかわし、逃げながら会話をする二人。その後ろではオリュンポスの参謀である天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)が冷静に場を見ていた。
「ハデス君の作戦は悪くはありません。悪かったのは相手がゾンビだったということだけでしょうね」
 いつもどおり冷静に分析をする十六凪。彼は参謀として、今自分にできることをしていたのだ。
「(消耗戦となった場合の戦闘データは、今後の世界征服作戦の役に立つはずです。悪いですが、今回は他の契約者たちのデータも取らせてもらいましょう)」
「おい十六凪! 一人で考え事をしていないで助けろ!」
「ああ、すいません。ですが私は参謀なので戦闘に参加すると作戦がガタガタになりますよ?」
「ん、そうか。ならだめだな」
「そんなこと言ってる場合ですか! 何とかしてください!」
「仕方ない、真の力を出すときが来たようだな! 喰らえ、ゾンビたちよ!」
 振り返ったハデスのメガネがキラっと光る。
「ふむ、あいつらは俺たちを襲おうと考えているな」
「よりによって行動予測ですか! 兄さんのバカー!」
 為すすべなく逃げ回る二人。しかし、ソンビたちも二人を追い掛け回すことになったので結果的には防衛の役目を果たしていたのだった。