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蒼空ヒーロー大戦・魔法少女DX!!

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〜 STEP 3 ヒーロー・トレーニング 〜


 4日前 蒼空学園・トレーニングルーム 


 「喰らいなさい!フェニックス・スプラァァァァァァッシュ!!」

あらゆる戦闘やアスリートトレーニングに対応している蒼空学園のトレーニングルーム
飛行スキルを保有する生徒も多いので、校舎内でも1〜2を争う天井の高さなのだが
そんな高さをものともせず、天高く九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が舞い上がる

その体を高速回転したボディプレスが
たった今結城 奈津(ゆうき・なつ)の炎の空中殺法との凌ぎ合いが終わり
下で仁王立ちになって見上げているラルフ モートン(らるふ・もーとん)に轟音と共に炸裂した

大迫力の衝撃が走るかに見えたが、意外にもラルフは余裕で立ち上がる
だがその顔はしっくりいかない様子で、埃を払いながら二人に文句を言う

 「……なんか、やる度に衝撃が強くなっているんだがよ……ノリノリ過ぎだぜお二人さん」
 「だって肉弾戦はわかりやすくて一番の盛り上がりどころでしょ?
  出来る限り最高の演出で盛り上がりたいじゃない!……ねぇ?」
 「おうよ!プロレスラーってのは観客の為に闘うもんだ!
  ならこのヒーローショーだって観客の為に盛り上げなきゃな!そうだろ師匠?」

そんな彼に動じずに抗議する九条と奈津
だがそんな奈津の問いかけに、傍らで見ていたミスター バロン(みすたー・ばろん)が注意をした

 「気持ちはわかるが、見に来るのは子供達、そしてこれはプロレスではない、お芝居だ
  貴様が勝手に動くとこの興行が台無しになる。それでは俺もお前を守る鎧にはなれんぞ
  いいか、盛り上がるのはいいがくれぐれもアドリブで何とかしよう等と考えるなよ
  アドリブってのはあくまで非常時の対処手段にすぎんと知れ」
 「はーいはい、まったくいつもと違ってやりづれぇなぁ」

両腕を頭の後ろに回してブーブー文句をいう奈津に九条が笑いながらフォローを入れる

 「それでもまだ肉弾戦はパワーセーブがしやすいし、頑丈なら耐えられるからマシだと思う
  武器とか使うと大変だと思うよ、あっちなんか4対2というか1というか……ねぇ?」

そう言って彼女が指差したフロアの一角では
戦闘員役相手に空中を利用したリネン・エルフト(りねん・えるふと)の剣殺陣稽古が
悪の女幹部役のアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)の動きを差し挟みながら繰り広げられていた



 「郁乃、着陸後からの3手目の剣の合わせがちょっと遅い感じがするの
  もうちょっと頑張れる?多分もう少しギアをあげて早くした方が盛り上がると思うから!」
 「ええ〜!まだ早くなるの!?ご、ごめんちょっと休ませて〜」
 「もう?まだ稽古初めて2時間よ……今からそんなにバテで大丈夫?」
 「いや、問題なのは時間じゃなくてペースと回数ですから……大丈夫ですか?郁乃」

リネンの言葉を受け
すでに何十回も同じ殺陣の練習を繰り返している芦原 郁乃(あはら・いくの)が荒い息と共に休憩を提案する
まだまだ元気な言葉を放つリネンにフォローを入れながら蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)
ひっくり返っている郁乃にドリンクを持って近寄っていった
その様子を見ながら、同じくリネンの相手をしていたアンタル・アタテュルク(あんたる・あたてゅるく)が苦笑する

 「なんせ相手は百戦錬磨の『シャーウッドの天空騎士』だからな。
  芝居とはいえ、それの全力に合わせるのは骨が折れるだろうよ。それにこっちも派手に動いてるわけだからな
  ま、これくらいの方が盛り上がっていいだろ?なぁ偲」
 「ええ、侍の私としても刀で立ち回れるのは好都合ですから
  それに良くやっていると思いますよ、リネンさんも……アリッサさんの自由な動きに手綱をとっている」
 「それは思うな。っつーか、むしろ自由人に手馴れてるオーラを感じるんだが」

鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)と話をしつつ、当の天空騎士を見ていると
なにやら彼女の芝居の相手の文句に対応している様子、だが確かにそれが苦である感じでもないようだ

 「やっぱりなんかリネンちゃんのほうが目立ってる気がする!
  アリッサちゃんも下に降りて一緒に戦いたいよ〜!チャンバラするするっ!」
 「何でも沢山暴れればいいってわけじゃないわよアリッサ
  それにあなたの得意なのは射撃なんだから、下手に混ざるよりそっちの方がお客さんには安全なの
  大丈夫、あなたの空中からの射撃が際立つように、先に降りて下で私が戦ってるわけだし
  大事なところをアリッサに任せるようにしてるんだから
  変に下にいると目立たなくなるわよ?それでもいいの悪の幹部さんが?」
 「あう……そう言われると、納得せざるをえないというか……ゴニョゴニョ」

言葉巧みにアリッサを難なく説得出来るあたりは、所属の空賊で副長をやっているゆえの技量か
……そもそも、彼女の出番は序盤で派手に暴れた後、強敵にピンチになる前半のみの引き立て役
それをワザワザ自己申告してくるあたりが彼女らしい抜け目の無さだと、見ている偲も思わず苦笑する
まぁそんな生真面目さとかそういう彼女の空気そっちの気で、これからの展開を楽しむ輩もいるのだが……

 「ふふふ、そうやって盛り上がる演出をどんどんつけるがいい
  所詮は芝居や、この後負ける展開が待っているんやからな!それでこそ盛り上がるってもんや!なぁ悪役2号」
 「勝手に名前をつけないで下さい、裕輝
  しかしその意見には賛成です。力で叶わない相手に知恵で対抗してねじ伏せる……それが悪役の醍醐味です」
 「……素直に卑怯って言ったらええやん
  さて、勝つ手段は台本公認で決まってるから、決めるのはピンチの演出……ぶっちゃけリンチ!
  業界公式用語の名の下にどうやっていじめ……いやいや盛り上げてやろうか………手下1号」
 「だから勝手に手下にしないで下さい!こちらの最終兵器でねじ伏せますよ
  奥の手なのでまだ非公開ですが……アレは危険です、最高のピンチを演出します、楽しみにしてるがいいです」
 「おお!いいワルっぷりが板について……ほんにお主もワルよのう〜」

あっはっはっは……と片隅で
鈴木 麦子(すずき・むぎこ)と共に、ほの暗い大変似合った笑いを浮かべる自分のパートナー
瀬山 裕輝(せやま・ひろき)の姿を見て、溜息をつく偲なのであった



そんなこんなで殺陣を中心に稽古が続く一方で、別方向からの練習に熱心に励む面々もいる

ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)飛鳥 桜(あすか・さくら)もそんな中の二人
稽古しているのはヒーロー……もといヒロインに必要不可欠な見栄きり……業界で言うところの【名乗り】である

 「魔砲少女・ジナ!」
 「同じくヴァルキュリア・サクラ!」
 「「ふたりはバニ☆パニ」」

小さい女の子達と大きいお友達が喜びそうな【ぶっちゃけありえない♪】感じのユニット名を堂々とポーズと共に名乗る
もっとも、出で立ちはやや武闘派なのだが、そのまま決め台詞に移行するべくジナを筆頭にポーズと共に台詞は続く

 「悪い奴はワタシたちがゆるしません!」
 「さあ、正義と自由のジャッジを始めるよ!」
 「「この世にヒーローがいる限り、悪が栄えたためしはない!」」

ピカァァァァ!と最後の言葉と共に上空から星屑のような光が降り注ぐのは
閃光効果と攻撃力を最大かつ最小に調整したジナのスキル【シューティングスター☆彡】の賜物である
もう何回も練習し練りこまれたであろうポーズを終えながら、尚も彼女らの探求は続く

 「最後のところはバッチリですけど、最初の名乗り……もうちょっと言葉増やしません?桜様」
 「いやいや、ここは言葉はシンプルな方が子供には馴染みやすいと思うんだ
  むしろ僕達のそれぞれの名乗りに到達するまでに派手に動くとかどうよ?
  ホラ最近の戦う女の子アニメだってクルクル入れ替わって動き回るじゃん?あんな感じでさ〜」
 「……アレを3次元でやるのは無理がある気もしますけど……でも楽しそうですね、試してみましょうか!」

そして再び煌びやかに繰り返される彼女達の練習を遠くで羨ましそうに見つめる小さい姿がある
歌姫ヒロインを名乗り出たラブ・リトル(らぶ・りとる)である

 「いいないいな〜!なんかすっごいキラキラしていいな〜!あたしも練習しようかな〜!
  ああいうの見てると凄い自分のが気にならない?あたしたちもやろうよニャンコ!」
 「ラブはもうバッチリだニャ
  それよりラブに大事なのは歌なんだよ?誰もやらない分、一番の注目どころなんだから練習を続けるニャ!」
 「ぶ〜〜〜〜〜〜」

自分の提案を超 娘子(うるとら・にゃんこ)にたしなめられ、口を尖らす小さな妖精、もといラブ
そんな彼女の頭をよしよし…と撫でた後、娘子は軽やかにステップを踏んで宙返りと共に彼女を励ます

 「ニャンコはラブの歌にノッて戦うんだから、ラブがしっかり歌ってくれないと頑張れないし動けないの!
  戦うのは男の子は好きだけど、女の子は歌や踊りがやっぱり大好きだからここは一緒に頑張るニャ!」
 「わかったよぅ。そこまで言ってくれたら頑張るしかないじゃん
  えっと【アイドル魔法少女・プリズム★ラブちゃん】だっけ?気合入れて練習練習っ!」

元気な声とともに、再びくるくると中に舞うラブ
その二人の練習の様子を見て、楽曲確認に来ていた音響スタッフの一人
リーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)が安心したように立ち上がり、譜面と楽曲データーをしまう

 「二人ともありがとう。歌の具合も十分にわかったわ
  サビの振りは子供でも一部参加できそうだから、中盤にレクチャー入れて最後一緒にお客さんも参加できそうね
  人手具合で何とかなるなら、折角だから生演奏つけられるように頑張ってみるわ」
 「ホント!?なんかワクワクしてきた!」
 「でも演奏って……誰がやるのニャ?」

ラブの喜びの声と娘子の質問を受け、リーシャが悪戯っぽい笑みと共に返事をする

 「もちろん、私よ♪それ位裏方がやってもバチは当たらないでしょ?」

そう言ってトレーニングルームを出た彼女の本音が【実は自分もキャストで出たかった】と言うのは
彼女だけの内緒である……