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夏初月のダイヤモンド

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【序章】

 ぽかぽかと良い陽気の昼下がり。
 マグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)は大きな丸い花壇を中央にした公園で、羽ばたく小鳥やそれを追いかける子供達の姿を見て居た。
――絵に描いた様な穏やかな休日だ。
 もし彼の身体が人のそれのように自由に動くのならば、マグナは柔らかく微笑んでいた事だろう。
 ふと振り返った方、道路を挟んだ公園の向かいに大きな建物が目に入る。 
――今頃買い物を楽しんでいるのであろうな。
 マグナが思い描くのは、建物の中で買い物をしているであろうパートナーリーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)の姿だ。
 何時も通りならば文句の一つも言わずに彼女の買い物に付き合ったところだが、今回は少し勝手が違う。

 アーチ型の屋根が目立つこの新しいショッピングモールは、主に女性をターゲットにした商業施設だ。 
 一階に色々な種類のチーズケーキばかりがある店、最近人気だというドーナツ屋やおしゃれめな和菓子屋等の飲食系店舗が並び、
 二階には若い女性向けのブランドやファンシーショップ等が入っている。
 此処までなら通常のショッピングモールと変わりないのだが、ここには少し変わったフロアが存在していた。

 三階の男子禁制フロア。
 延べ床面積10万平方メートルを誇るこの建物の三分の一全てを使用したそこには、
空京一の品揃えを誇るという巨大なランジェリー(下着)専門フロアが存在していたのだ。
 
 ここを除けば男性客も一階、二階、屋上の三つのフロアを利用可能だったが、
 サーモンピンクの壁にミントグリーンのアクセントが入っている建物は見るからに女性向けで、マグナが彼の3メートルの巨体を揺らして堂々入店するには色々とハードルが高い。
「気にしないで入ればいいのに」
 と笑うリーシャには済まない気持ちもあったが、ここで留守番させて貰っているのだ。

――さて、これからどうしたものだろう。
 建物の入り口で別れる際にリーシャが興奮した様子でマグナに話していた買い物のリストは、
下着だけでなく新しいトップスにボトムにと多岐に渡っていたから恐らく直ぐに帰っては来ないだろう。
 公園に居るだけでは時間が余ってしまうかもしれない、どこか他に時間を潰す場所をとマグナが周囲を見回した時だった。

 唐突に大人数の足音と悲鳴の混じった声がショッピングモールから流れてくると、
静かな公園に数千人は居るだろうモールの客達が雪崩のように駆けこんでくる。
「怖かったぁ〜」
 マグナの横の地面に座り込んだ女性のグループが一息ついて鞄からミネラルウォーターを出している。
「てゆーか何? 強盗とかマジあり得なくない?」
「強盗ってガチの強盗? うち何も分かんないまま逃げてきたんだけど」
「え? 強盗だったんですか?」
 マグナの隣の女性がキャップを外し飲み口に唇をつけようとしたところで、不安そうに建物を見て居た別のグループの女性が声を掛けた。
「私達が聞いたのは下着を狙う変態だって話しですよ」
「何それ超キモいんですけど」
 今の話しの何処に笑うポイントがあったのか分からないが、ミネラルウォーターの女性とそのグループが笑いだしていた。
 彼女達の反対側のマグナの横では、男性のグループが興奮した様子で声を高くして話している。
「つか見た!? 裸の女の子が上から走ってきたの」
「馬鹿お前それ裸じゃねーよ、下着だったろ」
「マジで? うっわガッカリしたわー……でも下着でもレアなのは確かだよな。もっとちゃんと見とけばよかったなぁ」
 暫く聞き耳を立てて見たものの若者たちの話しはイマイチ主体性が乏しく、的を射ないのでマグナにこれといった情報を与えてはくれなかった。
 しかし”ショッピングモールの”、”恐らく三階で”何かが起こった。
 それは強盗だか変質者に関連している。それだけで十分に異常な事が起こっているのは窺い知れる。

「……一体何が起こったんだ?」

 マグナ・ジ・アースは一人呟く様にそう言うと、ショッピングモールの三階を見上げて何時の間にか人で溢れた公園に佇んでいた。