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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 3/3

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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 3/3

リアクション

ページ5

5−1

「だよねぇ。たしか、あんたは・・・」

時尾が言い終える前にあなたは、本能的に身の危険を感じ、彼女に背をむけて駆けだした。
あなた自身、理由はよくわからないが、この場にいては危険な気がしたのだ。

「待て。どこへゆくつもりだ」

トレンチコートの少年があなたの腕をつかもうと、手をのばす。
あなたは体をひねって、どうにか彼の手をかわした。
バランスを崩して、転倒しかけたあなたを抱きとめ、支えてくれたのは、フード付きの長衣を着た小柄な女性だ。

「名無しさん。
私はヒルデガルト・フォンビンゲン(ひるでがるど・ふぉんびんげん)
ここにはあなたの未来はありません。余計なことをせずに立ち去りなさい。
私はそれを決して外部の肉の眼で見たのではございません。
私には見えるのです。
あなたのあるべき姿が」

「きみは、修道女か、なにかか」

「ええ」

ヒルデガルトが頷く。
知性と聖性を感じさせる彼女の物腰に、あなたはいらだちをおぼえた。

「私はヒルデのパートナーの愛のピンク・レンズマン 月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)よ♪
ヒルデの言葉の意味はあなた自身がよくわかっているはずよ。
あなたはいったいなにをたくらんでるの。
私達があなたの好きにはさせないわ」

ヒルデガルトの隣にきたのは、ピンクの髪のツインテールが印象的なメガネの少女だった。
レンズマンと名乗るだけあって、彼女の手の甲には、レンズ型のアクセサリーが輝いている。


「聖ヒルデガルト。ピンクレンズマン。
きみたちがどれだけ徳の高い人間かは知らないが、忌まわしいゆりかごにふさわしくないのは、ボクよりも神に仕えるきみの方ではないのかな」

「いいえ。私には使命があります。
純粋なエーテルの中の暗雲を取り去る時が来たのです。
私の言葉に従わず、コリィベル内を逃げまわったとしても、もはや、あなたの居場所はありません」

「私達に幸運あれ。クリア・エーテル!
闇ははらわれる運命にあるのよ」

二人に断言されたあなたは


もう少し話を聞く→10−7 

5−2

「ほう。私の思い違いか。
最近、すっかり記憶力が衰えてね。悲しい限りさ。
原因は加齢よりも食生活にあると思うんだ。
医食同源という東洋の食育健康法思想があるんだが、そのバリエーションに、自分が健康にしたい箇所と同じものを食べるスタイルがある。
胃を強くしたければ、豚の胃を食す。
精力の減退を感じていれば、睾丸やペニスを食すという非常にストレートなメソッドだ。
長年、私はこれを自分流の解釈で活用して、脳細胞の減少、縮小を防止してきたんだが、やはり、ここにきてからは、必要な食材がなかなか手に入らなくてね。
もし、きみが新鮮な脳を入手できるルートを知っているなら、ぜひ、教えて欲しいところだよ」

冗談か本気かわからない薄気味の悪い申し出に、あなたは首を横に振った。
クロードは、さも残念そうにため息をつく。

「ここにいたのね…クロード・レストレイド。
あなたに、会いたかった」

厨房に新たな来客がきた。
東洋人の少女だ。黒髪の彼女は具合が悪いのか、ふらふらとしていて、話すのもやっとの感じである。

雪 汐月(すすぎ・しづく)か。
きみの治療をした医師として意見を述べさせてもらうと、いま、きみが自分の足で立って歩いている姿をみるのは、けっしてうれしくはないな。
きみが死んでしまうと、私の労力が無駄になるだろう。
なぜ、ベットに横になっていないんだ。
きみが治療ではなく、調理されたいのなら、はじめからそう教えてもらえれば、余計な手間がかからずにすむものを。これはマイトの判断ミスだな」

クロードは冷ややかに彼女を一瞥した。
二人は、すでに知り合いのようだ。

「……マイトくんは、なにも、悪くないの。
私があなた聞きたいと思っただけ……
ノーマン・ゲインのことを」

汐月が床にしゃがみ込む。
そこにさらにもう一人、

「へぇ〜。大事件の裏側で意外なドラマが進行してる感じだねぇ♪
ここにきたのは、正解だったかな。
ヤッホー、百合園推理研のウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)のロキの方だよ〜☆
コリィベル2で助けをただ待ってるのもつまんなくって、口八丁手八丁でなんとかかんとか抜けだしてきちゃった。
クロード叔父さん、ボクはきみの甥っ子のマイトとは友達なんだ★
だからさぁ〜、ボクとメル友になってよ♪
多重人格探偵のボクとしては、叔父さんといろいろお話してみたいんだよね〜☆」

ニコニコと笑みを浮かべながら入ってきた、瑠璃と緋色の瞳のオッドアイの少女、ロキはこの状況を楽しんでいる様子だ。

「私と友達になるためのハードルは普段はかなり高いんだが、今日はスペシャルだ。
彼を拘束して、逃げられないようにしてくれ。
そうすれば、きみと私は心おきな会話を楽しむことができる。
雪 汐月(すすぎ・しづく)と彼もね」

言い終えると、クロードは突然、あなたに包丁を投げつけてきた。
避けようとしたあなたは、ロキに抱きとめられる。

「速攻、キャッチしちゃったよん♪」

ロキは至近距離からあなたに毒虫の群れを浴びせ、動きをとめると、厨房の引き出しからテープをとりだし、あなたをぐるぐる巻きにして床に倒した。

身動きのとれなくなったあなたに、汐月が這いよってくる。
「お願い……私のことを教えて」

END

5−3

「あんたがそう言うならいるのかもね。
あたしはあいつを倒すために悪魔の王様、金色の魔王の力を借りるつもり。
神様の相手なら魔王がふさわしいでしょ。
でね、呪文の試し撃ちをしたいの。
悪魔の存在を信じるあんたに、魔王の力、受け取ってもらうわ」

ジョゼフィンは両手を頭上にあげ、呪文を唱えはじめた。

「闇よりもなお暗き・・・夜よりもなお深き・・・混沌の海・・・」

彼女の手の平に、急速に禍々しいエネルギーが集まってゆく。

「ジョゼフィンさん、やめてください」

呪文が発動する前に、ジョゼフィンに舞が抱きついて、詠唱をやめさせた。

「私、魔法のことはよくわかりませんけど、見ていてジョゼフィンさん自身が、自分の身を危険にさらしているような気がして、お願いですから、危ない呪文を唱えるのはやめてください。
せっかく、具合がよくなったばっかりじゃないですか」

「舞。ごめん。
本番の前に試しときたくてさ」

ジョゼフィンは、涙目の舞の髪をなでている。

「作戦の指揮官として言っておくわ。
いい、ジョゼフィン。今回の作戦で危険な攻撃魔法は使用禁止よ。
推理研は頭脳派集団なの。
武力じゃなくて、知性で勝負よ」

びしっ!

青いドレスの少女、ブリジットは、ジョセフィンを指さす。
ジョセフィンは、不服そうに頬をふくらませたが、半泣きの舞にもお願いされ、しかたなさげに頷いた。
あなたは

ブリジットに話しかける→6−3 

推理研の他のメンバーに声をかける→2−5 

5−4 

医者もしくは医者の卵だろうか、開けっ放しの口から、各種の医療器具がみえる黒革の大きな鞄を傍らにおいた白衣の女性が、倒れている男の診察をしている。
聴診器を彼の胸にあて、心音をきいたり、手首を握って、脈をはかったりだ。
彼女の側でその様子をみていたが、なかなか成果があがらないというか、やはり男は意識を失ったままなので、彼女のまわりにいたものたちも、一人減り、二人減りで、結局、ここには、あなたと彼女、倒れている男の三人しかいなくなった。

「きみは医師なのかい」

「私は九条ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)。就職活動中の医大生だよ」

「九条さん。それで、彼はどうなんだい」

「彼は。
私がみたところ、肉体は正常だと思う。さっき、あの☆が輝いてからは、普通の睡眠をしているのと同じ状態になった」

「なら、あとは起こせばいいのでは」

「うん。理屈はね。彼は、起きないんだ」

長髪を首のうしろで一つにまとめた九条は、かぶりを振る。

「そういえば、きみは誰だい」

「僕はただの通りがかりさ。天ヶ原明がどうとか、☆がどうとか。たまたまカリギュラくんから話を聞いて、きみが彼になにをしているのか興味を持ったわけなんだが」

「そうか。じゃ、きみはおもしろいものがみられるかもしれないね。
ちょうど、周囲に人もいなくなったことだし、私は試そうとしていたところなんだ」

がさごそと鞄の中を探り、九条は直径30〜40センチぐらいの金属のリングを二つ取りだした。

「以前、マジェスティックのストーンガーデンで事件に巻き込まれた時にね、私は、目の前の現実以外のIFの世界を旅したんだ。信じてもらえないかもしれいけど、その時、IFの世界で手に入れたのが、これさ」

「それをどうする」

「私と彼の頭につけることで、二人は意識を共有できる。
IFの世界では、心を閉ざして、自分だけの世界に入ってしまった精神病患者の治療に使われていた。
実は、あっちの世界の私がコレを使っていて、すすめられて一つ持ってきたんだけどね。
まさか、役に立ちそうな場面に遭遇するなんて。
かさばるけど、鞄に入れておいてよかったよ」

リングの電源を入れ、動作確認をすると、九条は天ヶ原の頭にリングをはめた。
飾りのなにもない細い銀色の輪だ。

「危険はないのか」

「その点については、あっちの私を信用するしかないな」

「僕はどうすればいいんだ」

「ここにいて見学してもらってかまわないよ。退屈ならよそへいってもいいし。
私の意識はなくなるわけではないんで、身の危険はそれほどないと思う」

自分の頭にもリングをはめると、九条は目を閉じた。
あなたは

二人をおいてどこかへゆく→3−7 

治療を見守る→7−4 

5−5

「自分にできることがあるのなら、協力するつもりだ。
僕は、百合園推理研のファンなんだよ。
ほら、あの、めい探偵のお嬢さんは、今日は一緒じゃないのかい」

「ブリジット代表か、マジカル・ホームズ霧島春美のことかな。
いまは別行動をとっているけど、彼女たちもコリィベルにきているよ」

蒼也は一呼吸おいてから、あなたに作戦を話しはじめた。

「俺と三船は、情報提供者とここまできたんだ。
でも、彼とははぐれてしまって。
どうしようか、と考えている時に、さっき、大石の館内放送をきいて閃いたんだよ。
コリィベルは2つあるなら、3つあってもおかしくないよな、って」

納得した素振りで蒼也の話をきき続ける→8−3

三船に話しかける→3−5 

5−6

「戦えばいいじゃないか。コリィベルを知り尽くした天ヶ原がここにいるんだろ。
半壊した状態で逃げても、逃げ切れるわけはないさ」

計算なしに今後の展開がおもしろくなりそうな意見をあなたは口にした。
異議を唱えるものは誰もいない。
制御盤の前に立った天ヶ原は、冷静に指示をだした。

「コリィベル2に突撃して、強引に1と2を合体させる。
いまのこいつの状態でできる攻撃はそれだけだ。
くっついてしまって白兵戦になった方がゆりかご同士で戦うよりも、分があると思う」

「了解した」

「わかったわ。チャンスはそうないわね」

「そんな大技狙えるのはせいぜい一回だろ。相手にバレたら、逃げられておじゃんだ」

「2が次の砲撃をはじめる寸前に、シールドを展開しながら、全速力でぶつかる。
みんな、いまから、僕の言う通りにやってくれ」

四人はそれぞれ制御盤にむきあい、室内に緊張感がみちる。

(足のはえた刑務所同士の喧嘩か。それもそれでおもしろい)

あなたは壁によりかかって、なりゆきを眺めていた。

数分後、コリベル2への体当たりに成功した天ヶ原たちは館内放送で、全館にそれを告げ、今度は白兵戦に備えて、制御室での立てこもりの作戦をたてはじめた。
あなたは彼らにあいさつもせずに部屋をでる。

(凄絶な肉弾戦が見られるかもしれぬのに、あんなところにいてどうする。
コリィベル同士の激突は、ひどく揺れただけでつまらなかったな。
やはり、血や苦痛に歪む表情がなければ)

あなたは戦争らしい凄惨さを求めて廊下を歩いた→3−3 

5−7

「入所経験はないが、この種の建造物の構造、設備の使用方法はだいたい把握している。
私はここで、大石鍬次郎(おおいし・くわじろう)たちに投降を呼びかける。
あなたは、私の側にいてくれればいい」

空部屋に入ったクレアは、そこのインターフォンを使って館内放送をはじめるつもりだ。

「クレアさん。
あなたの目的を教えてもらえますか」

「部外秘だ」

「ですよね」

彼女には硬質な物言いが似合う。

「だが、話しても問題ないだろう。
ここにいるヨン・ウェズリーという人物を探している。
彼と接触し、連れて帰る予定だ」

「ヨンさんは、囚人ですか」

「犯罪者とも救国の英雄とも言われている。
地球では不敗の悪魔と呼ばれた軍人だ」

「あなたのお知り合いですか」

「面識はない。説明は以上だ。私は交渉に入る、静かにしていてくれ」

あなたが頷くとクレアは、受話器を手にした。
館内のスピーカーからクレアの声が流れだす。

「私は、シャンバラ教導団大尉、ロイヤルガードのクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)だ。
大石鍬次郎(おおいし・くわじろう)。聞こえているか。
私は本件のすみやかな終息を望んでいる。
人質の開放と貴殿らの投降だ。
これは無論、国軍の意向でもある。
貴殿がなにを望んでこのような行動にでたのかは知らないが、私は貴殿との話し合いで事態の解決をはかりたいと考えている。
正直、時間的な猶予はこちらにもない。
貴殿から私の申し出に返答がなければ、国軍は強攻策にでるだろう。
私は、不必要な流血は望まない。
大石鍬次郎(おおいし・くわじろう)
手段は私と同じくこの館内放送で構わないので、返事をして欲しい。
早急にだ」

話し終えるとクレアは、部屋をでた。

「移動する。一箇所にいるのは危険だ。
次の連絡は別の部屋からする」

クレアとあなたは、廊下を早足で進む。

「交渉が成功するといいですね」

「それはないだろう」

クレアは自嘲気味に微笑んだ。

「これは時間稼ぎだ。大石が私に付き合えば、ヨンや他の連中が動きやすくなる」

「ヨンさんに期待しているんだ」
「期待もなにも、いまの状況で私にできるのは、これしかないのだよ」

次の空部屋を見つけ、あなたたちが中に入ると、館内のスピーカーを通じ、大石からの返事がきた。

「ロイヤルガードのクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)
大石だ。聞いてるか。
無視してやってもいいんだが、おしゃべりしてやるよ。
心配するな。俺らは、てめぇを探さない。
そんなヒマはねぇんだ。
それからよぅ、国軍がどうのって話なんだが、てめぇら兵隊さんがゆりかごに乗り込んでくる理由なんざ、お目当ては、あいつだろ、ヨン・ウェズリー。
それなら話は早ぇぇんだよ。やつは、俺の横にいるぜ。
まだ殺してねぇ。
会いたきゃこいよ。俺は、コントロールルームにいる。
あー、声をきかしてやりてぇが、やつは危険だ。わかるだろ。へたにしゃべらせるわけにゃいかねぇ。
話はそれだけだ。
クレアさん、待ってるぜ。クククッ」

「罠だ」

クレアはつぶやく。

「気にせずに交渉を続けるべきだ。しかし、万が一、ヨンが身柄を拘束されているとしたら」

彼女はまぶたを閉じ、眉間を指でおさえた。
あなたは

ヨンを探しにゆく→6―6

クレアを見守る→7―3

リカイン・フェルマータに秘密の番号を教えてもらっている→

5−8

床に伏せたBBはすでに絶命しているようだ。
周囲の少女たちは、無言で彼を眺めている。
あなたは彼女らから少し離れたところで全体の状況を俯瞰し、場を支配している沈痛な雰囲気に満足をおぼえた。

「殺人事件発生かな。
彼はここでは有名人で、多くの人からうらまれてもいただろうから、いつこうなってもおかしくない人生だったはずさ。
お気に入りのきみらに看取られて、彼は幸せだと思うよ」

「てめぇ、誰だ。なに言ってやがる。人が死んだんだぞ」

気の強そうなつり目の少女、若松未散(わかまつ・みちる)があなたに近づき、胸ぐらを掴んできた。

「怪しい野郎だな。ここへなにしにきた」

「未散さん。気持ちはわかりますけど、あんまり感情的になるのはよくないですよ。
でも、そうですよね。
これがあなたの言うように殺人事件なのだとしたら、一番の容疑者は、最後にやってきて御影さんにお菓子を与えたあなたなのでは、ないでしょうか。
違いますか」

未散の隣にきたロリータドレスの少女、茅野瀬 衿栖は冷然とあなたを問い詰めてくる。

ふふ。

まったく世界は名探偵であふれている。行く先々に探偵がいる。
あなたは思わず笑いをもらしてしまった。

「ジョンさん、どうしたのですか」

「みかげは通りすがりの人からもらったクッキーをビックブラザーのお兄ちゃんにあげる前に、やっぱり、どうしても食べたくなって、一個だけならいいかと思って、袋を開けて食べようとしたにゃー」

オルフェリアと御影もあなたの側へやってきた。

「そうしたら、通りすがりの人のクッキーはへんなにおいがしたにゃ。
腐ってる気がしたにゃ♪
御影は、食べていいのかどうかわからなくなったので、ビックブラザーのお兄ちゃんに相談してみたのにゃー」

「余計なことをしてくれて、ありがとう」

あなたは御影に礼を言ってから、背をむける。
走りだそうとしたあなたと頭部を鈍い衝撃が襲った。
仰向けに倒れたあなたは、仁王立ちであなたを見下ろす彼をみた。
死んでいなかったのか。
僕はだまされたのか、ハハ。
金属バットを手にしたBBは、少女たちの制止を振り切り、怒りの表情であなたをバットでメッタ打ちにした。

END

5−9

「まぁ、ミステリはキライではないけど」

あなたの返事に舞は深く頷く。

「そうなんですよ。
私もキライではないのですけれど、ミステリーばかりを読んでいるってわけでもないんですよね。
小説って、自分以外の人の視点で世界を体験できておもしろいですよね」

舞がミステリを読むとしたら、ガチガチの本格パズル小説ではなく、アガサ・クリスティに代表されるイギリスの田園、田舎町を舞台にしたいわゆる紅茶とケーキ派の作品、コージーミステリが似合っているのではないか、あなたがそう言うと話は思わぬ方向に展開した。

「紅茶とケーキといえば、私、紅茶が大好きなんですけど、パラミタでは地球とはまた違った茶葉があると思うんです。
お茶のブレンドにしても、こちら独自のレシピがあるのかな、って。
私が知らないだけで、きっと、ありますよね。
ブリットの実家では、ヴァイシャリー地方の銘菓としてカ○ルパイを作って売っているんです。
私は、その、あれをちゃんと味わって食べたことはないのですけど、けっこう人気があるらしいですから、当然、あのお菓子に会うお茶もあるでしょうし」

パラミタのお茶とお菓子について舞の考察は、ほんの数メートル先で戦闘が始まろうと、とまらなかった。

それでも舞と話し続ける→7−1 

5−10 

戦部と大石、どちらについてもよいことはなさそうだと思ったあなたは、二人がにらみ合っている隙に、その場を離れた。
人気のなさそうな部屋へと忍び込む。
大型の流し台とガスコンロ、各種の調理器具。
ここは調理室らしい。室内は暗く、誰もいないようだ。
両手を縄、口をタオルで縛られているあなたは、床を這って、とりあえず、縄を切る刃物を探す。
こんな場所でも、堂々と立って歩くのは危険な気がする。
ここになら、刃物はいくらでもあるだろう。

「うわー。なんかヘンなやつがいるよ。
こいつはきっと、イモ虫男だね」

「えー、リンおねーちゃん。危ない人とはしゃべっちゃダメだし、目も合わさない方がいいんだよー。
ワタシは見習いだけどコリィベルのスタッフなんだから、リンおねーちゃんの安全を守る責任も、たぶんあるんだからね。
イモ虫おにーちゃんには、ワタシが先に話しかけていいよね」

「あたし、別にこいつの興味ないから、どうでもいいよ。
でも、もし、こいつがノーンやあたしに危害を加えようとしたら、本当に手足のないイモ虫にしちゃうかもね」

二人の少女があなたを見つけ、騒いでいる。
コック服を着た身長1メートルほどの少女とダークブラウンの髪、マントをはおったおそらく少女魔法使いだ。コック服の子は幼く、十歳前後にみえる。
魔法使いは、中学生くらいのティーンエンジャーだ。

「すまない。きみらに迷惑をかけるつもりはないんだ。僕は」

「なぁに。ワタシはなんにも困ってないよ。
困ってるのはイモ虫おにーちゃんの方だよね。ワタシは、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)。隣のリンおねーちゃんは」

「イモ虫に名前なんか教えなくてもいい気がするんだけけど、あたし、リン・リーファ(りん・りーふぁ)

「きみたちはここでなにを」

「ワタシはお腹が減ったから、なんか、作ろーと思って」

「あたしは、お茶会とかバタバタであんまりお菓子食べれなかったから、甘いもの希望だなー」

「刑務所丼を作ろう思うんだけど、リンちゃんはいらないかな」

「そんなの名前からしてまずそうじゃん。ぜーったい甘いものだよ」

「刑務所丼は、牛肉と卵で、コリィベルでも生き抜けるように、スタミナ抜群なんだよ。
けど、甘いものか、それも悪くないなー」

あなたは二人の会話をきいているうちに、眠くなってきた。
食べ物の話題で二人は盛り上がり続けている。

(この話題でこんなにしゃべり続けるのが、理解できないな)

あなたが目を覚ましたのは、コリィベルでの事件が解決した後だった。
お腹いっぱい食べすぎて動けなくなっていたノーンとリンを探しにきたパートナーたちが、偶然、あなたも発見したのだ。
寝起きのぼんやりした頭に少年の声が響く。

「ノーンのパートナーの御神楽 陽太(みかぐら・ようた)です。
うちのノーンがお世話になったみたいですね。
ところであなたの護送場所は、マジェスティックのスコットランドヤードでいいですか。
あなたの場合、余罪がたくさんあって、取り調べには時間がかかると思いますから、いまは、ゆっくりしていてくださいね」

END

5−11

「じゃ、お言葉に甘えて、一杯、ごちそうになるよ。
ミルクも砂糖もいらない。ん。なかなか香り高いね」

「数種類の豆があったので、私がブレンドして手挽きミルでさっき挽いたばかりです。
パラミタの豆は、地球のものとは一味違うと思います」

カップに口をつけて、ちょうどいいあたたかさのコーヒーを口に含む。
ほどよい苦味と香ばしさ、さらに砂糖を入れていないのに、かすかな甘味もある。

「おいしい、です」

「よかった。香りがよいから安心はしてたけど、人からそう言われるとうれしいものですね」

「ああ」

あなたは残りを一気に飲み干して、急に力を失い、前のめりに床に倒れた。
苦しさはない。ただ頭が重くて、意識が遠のいていく。

「舌触りはいいにしても、薬の量がちと多すぎましたかね。イレブンさんに眠ってもらうためのコーヒーなんです。ごめんなさい」

ステラの説明を聞きながら、あなたは眠りに落ちた。

END

5−12

「オレに話を聞くよりも、リネンの作戦を聞いてくれよ。
オレはフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)。みればわかるだろうけど、リネンの男だ。
リネンはそこのまじめそうなかわい子ちゃんだ。知ってるだろ」

どう見ても露出癖のある少女にしかみえないフェイミィにそう言われ、あなたは、首をひねった。

「まぁ、オレとリネンは一心同体だから、オレが説明してやってもいいけどさ。
リネンの合図でオレはイレブンの気をひくためにステージにあがる。
でその隙にリネンが別方向からイレブンの水晶玉を奪いに行くってわけだ。
わかったか。だったら、オレたちの足を引っ張らないように、おとなしくしててくれ」

フェイミィから作戦の内容を教えられたあなたは、

リネンにも話をきく→8−12 

他の人の話も聞きたいのであわてているのかきょろきょろと周囲を見回し、その場で足踏みをしている少女と人形を胸に抱え、鋭い目つきであなたを眺めている幼い女の子の二人連れに声をかける→9−12