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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』
終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』 終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』

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『平和を願う歌劇』

「音響設備の準備を急げ! ここで遅れると、後の進行に響く!」
 レオンの指示で、人手として駆り出された飛装兵が忙しく飛び回り、大小様々なスピーカーを設置していく。『846ライブ』のためでもあり、また社から相談を受けた朱里たちの歌劇のためでもあった。
(ステージを最高の状態に保つのが、私に課せられた役目。そのために全力を尽くす!)
 準備が進められる一方、控え室では朱里、アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)ピュリア・アルブム(ぴゅりあ・あるぶむ)ハルモニア・エヴァグリーン(はるもにあ・えばぐりーん)がそれぞれ演ずる役柄の衣装に身を包み、支度を整えていた。
「わー、パパもママも、すっごい似合ってる!」
「ありがとう、ピュリア。あなたたちもよく似合っているわ」
 『地の姫』役の朱里と『天の皇子』役のアイン、『翼の天使』役のピュリアと『花の精霊』役のハルモニア、それぞれの衣装は朱里がイナテミスで経営する仕立屋『ガーデニア』で繕われたものであり、各人の特徴を見事に捉えていた。
「朱里さん、ステージの準備が出来たそうです。いつでも始められるそうです」
 ステージのスタッフから準備完了を告げられたことをハルモニアが告げ、頷いた朱里がアインと共にステージへ向かう。
(人と精霊と魔族の共存……実現して欲しいと思うわ。
 この劇が、三族を繋ぐ架け橋になってくれるなら、私はとても嬉しい)
 『ザナドゥ魔戦記』後、和平への道は進んではいるものの、朱里が思うほど速くはなかった。互いがそれぞれの尊厳を守りながら歩み寄ることは、想像する以上に難しいことなのかもしれない。
 でも、だからこそ、今回の公演が皆の心に何かを残すきっかけになれば、そんな思いで朱里は開演を待つ――。

『天の国と地の国 二つはいつ終わるとも知れない争いを続けていた
 ある日天の国の皇子と地の国の姫 偶然の出会いから恋へと落ちる』


 『咲くや此の花』と題打たれた、歌劇の上映が始まる。手を取り、やがて身を寄せ合う天の皇子と地の姫。
 幸せの絶頂にある二人、だがその時間は長くは続かない――。

『長き戦は互いへの憎しみを生み 皇子と姫は迫害を受ける
「ここから出ていけ!」
 石を投げつけられながら 二人はあてのない荒野を彷徨う』


 受けた傷は日に日に悪化し、皇子と姫はやがて歩くのも困難になっていく。
 それでも二人は互いを見捨てず、支え合いながら安住の地を求めて歩き続ける――。

『ようやく見つけた安住の地で 皇子と姫は寄り添う二本の樹となった
 大樹はやがて白い花を咲かせ その実を食べた鳥達が種を運ぶ』


 ステージの中央で寄り添う皇子と姫、脇から翼の天使と花の精霊が現れ、ダンスを舞う。
 皇子と姫はもう、この恵みある大地を見ることはない。しかし二人の思いは花となり、種となって世界へと広がっていく――。

『自分達を迫害した人々のことを 皇子と姫は責めなかった
 傷つけ合う彼らの中にも 愛する人を失う悲しみがあることを知っていたから』

『どうか天と地に愛された『子の花』が、人々の心の慰めとなることを祈る――』


 夜空に瞬く星のような光が満ちる中、機晶妖精の舞う幻想的なステージに、ピュリアとハルモニアの歌声が響く。
 咲くや 咲かせや 千万(ちよろず)の花
 天の輝き 地の恵み あまねく愛を受けし子ら
 百年(ももとせ)千年(ちとせ)かかれども
 争いの無き世を願い 哀し心を慰めや


 皇子と姫を包むように、一条の光が差し込み、それはステージ全体へと広がっていく。
 『花』に象徴される愛、その愛が世界に、人々の心に広がっていくことを願った歌劇が幕を閉じ、会場から惜しみない拍手がもたらされる――。

「テーマがよく伝わって来る、いい上映だったわね。これもブログにアップしておこうかしら」
 劇を観賞したアーミアが、内容をテキストにまとめ、写真を添えてブログに載せる。


『846ライブ』

「だからあっしは言ってやったんすよ、ここは危ないから早く行け、と。
 そしたら見事に置いて行きやがりましてね! もう散々な目に遭いましたよ」
 ステージ上では、若松 未散(わかまつ・みちる)の落語が披露されていた。これは茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)とのユニット、『ツンデレーション』のステージの一種でもあるのだが、今回が初めての客はともかく、何度も彼女たちのステージを見ている客は、「未散ちゃん早く歌って〜」「ツンデレまーだー?」と声を飛ばすのがお決まりになっていた。
「うるさいな、黙って聞けよ! 私はアイドルじゃなくて落語家だって何度言ったら分かるんだ!
 ……まあ、今日は特別だ。未来の売れっ子達のために、先輩として歌ってやるよ!」
 未散が宣言すると、フッ、と照明が落とされる。スポットライトが2つの、『846ライブはじまるよ』の垂れ幕を持った人形を照らす。

「あなたのために歌うんじゃないんだからねっ!」

 人形がバッ、と光を放つと同時、色とりどりの照明が点灯する。ステージ上でアイドルコスチュームに変身した未散と衿栖が、お決まりのポーズと台詞を放つ。
「みんなー! 今日は思いっきり楽しんでいってねー!」
 アップテンポのナンバーがかかると、会場は早速ハイテンションの波に包まれる。
「すごい歓声……! 未散さん、これから続く皆の為にも、もっともっと盛り上げようね!」
「私は気乗りしないけどな! あくまで新人のためだからな!」
 そして、二人のステージが始まる――。

「未散ーーー! わー、華やかなステージ!」
 観客席から声援を送るルカルカの、賑やかな様子をダリルは見た目静かに、ステージで歌う未散を見守る。
(己が道を行く時、人は機能的で美しい。今の未散は、最も輝いている)
 その思いが果たしてどこから来るのか、ダリルには理解できなかった。ただ一つ分かっているのは、一緒に居ると楽しいと思うし、幸せになってほしいと思っている、それだけ。
(……後で、挨拶をしておくか)
 振り付けを真似するルカルカの腕が、ダリルの顔面を掠める。挨拶をする前にノックダウンされてはたまらないと、ダリルは気を張る。

「いらっしゃい、いらっしゃーい! 846プロの関連グッズはこちらの売店で販売してるよ〜。
 数量限定の商品もあるから、お買い上げはお早めにね〜!」
 ステージ近くでは、茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)会津 サトミ(あいづ・さとみ)が846プロ所属の関連グッズを売る出店の売り子をしていた。
「あはは、未散、すっごいやる気なさそ〜。でもあれが魅力になっちゃってるんだから、面白いよね」
 サトミの指摘通り、未散の振る舞いは一見アイドルらしくないが、客の反応は「ツンデレキターーー!!」「やっぱ未散ちゃんはこうでなくっちゃ」と上々であった。そういう意味では未散も立派なアイドルであろう。本人は決して認めないだろうが。
「それより何より……本当、未散と衿栖ちゃんは仲良しだよね……気に入らないよね……。朱里ちゃんもそう思うでしょ?」
「ええ、これが嫉妬の炎というのかしら、燃えたぎるような熱さ……あぁ、今なら触れただけで写真を燃やせそうだわ」
 ふふふ、と笑みを浮かべる二人。向こうがツンデレならこっちはヤンデレ、そしてやっぱり一定の人気を持っているのだから、アイドルという世界は中々に理解しがたい。
「あっ、みくるの人形! こっちは千尋のもー! みくる、衿栖の人形大好きー!」
 若松 みくる(わかまつ・みくる)の無邪気な声が聞こえると、ハッ、と呪縛が解かれたように二人のヤンデレ状態が解除される。
「……今は、やめとこっか」
「……そうね」
 みくるに変な影響を与えてはならないとの思いで一致した二人が、元の仕事に復帰する。
「はーい、今回の目玉商品は、ライブ参加ユニットの直筆サイン入り人形!
 あーほらほら、ちゃんと列を作って並んで! 商品は逃げないよー」
 朱里の声も数量限定商品の前にはさしたる効果を発揮しなかったが、出店の設置場所を事前に把握していた静麻が臨時のスタッフ(道路建設の際に手伝ってもらった精霊が主だった)に列整理をさせることで円滑に処理する。
「あっ、そろそろみくるの出番だね。千尋ちゃんと一緒に、頑張ってきてね」
「うん! 千尋と一緒にうー、にゃー! ってやるんだよー」
 腕を縮めて伸ばす動作をして、そしてみくるが準備のためにステージへと向かう。

「『846プロ』の皆様を食の面でプロデュースさせて頂くのが、ワタシの仕事ですっ!」
 そう明言したジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)が、屋台の中を忙しく動き回り、ステージに立つアイドルをイメージしたメニューを作っていく。
(毎度毎度のこととはいえ、『魔法少女』としてのジーナの行動力には頭が下がる思いだ。正直、感心するよ)
 ジーナの働きぶりを見守りながら、林田 樹(はやしだ・いつき)がパソコンと向き合う林田 コタロー(はやしだ・こたろう)に呼びかける。
「コタロー、ステージの演奏、こっちにも流れるように出来たか?」
「あい! ばっちりこんちょろーるしてましゅ!」
 最新の技術を組み込まれた、でもベースは『シャンバラ電機のノートパソコン』を操作すると、スピーカーから音楽が流れてくる。
「こたちゃん、ありがと! これは若松様と茅野瀬様の『ツンデレーション』ですね!
 お二人をイメージした中華風おやきは、若松様の方は小麦粉の生地にニラの粉を混ぜたもの、茅野瀬様の方は白い生地に焦げ目を付けて……っと」
「……なあじなぽん、それ、餃子をでっかくしたヤツじゃね?」
 横から首を突っ込んできた新谷 衛(しんたに・まもる)へ、ジーナがキッ、と険しい顔を向ける。
「黙らっしゃいバカマモ! 餃子の具に似てますが、刻んだ蝦を入れてありやがるのですっ!」
 餃子に似てると思われたのは、作っているのが中華風だから、というのもあるだろう。本来のおやきは小麦粉・蕎麦粉などを水で溶いて練り、薄くのばした皮で小豆、野菜などで作ったあんを包み、焼いた食品である。気候や地形の関係上稲作が難しかった地域でよく作られ、長野県では全域で作られ名物となっている……は、地球の話である。
「後は、具を生地でくるみ中華鍋で焼き目をつけて……できあがりです!」
 完成した2つのおやきを皿に盛った所で、白玉粉を水でこね、餡とバナナをくるみ、ごまをまぶして揚げ、ごま団子を完成させた樹から呼ばれる。
「ジーナ、これは3つほど串刺しにして売るんだったな?」
「はいっ樹様、ごま団子は柳玄様のイメージなのですっ!」
 ジーナの言う通り、樹は団子を3つずつ分け、トレイに盛る。
「いらしゃいましぇ〜、いらしゃいましぇ〜! 846ぷりょの、あいどりゅいめーじ、ちゅうかやたいは、こちられす〜。
 しぇーれーしゃんも、まぞくしゃんも、たべてくらしゃい!」
 コタローが売り子を担当し、段々と人の数が多くなっていく。各人がせわしなく仕事をこなす中、衛だけはどうも気が乗らなかった。
「ウサギ型水餃子、『ジェミ☆ジェミ』のイメージか。うーん、ちっぱいには興味ねぇなぁ。
 つうか、今回の846プロの面々はちっぱいだらけ! ええ乳しとるねーちゃんはおらんのかいっ!」
 その叫びが通じたのか、樹たちの屋台をルーレンに連れられる形で、サラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)セイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)が訪れる。
「ここは随分と賑わっているようだな。……なるほど、ステージ中のアイドルをイメージしたメニューか」
「見た目も美しいですわね。香りもまた、食欲を刺激しますわ」
「いくつか買っていこうか! フィリップへのお土産にするんだ〜」
 すると途端に、衛がやる気を出して目の前の水餃子を仕上げてしまう。視線はしっかり、御三方の胸に据えられていた。
(おぉ!! まさに絶品、至高の胸っ! しかも三対、よりどりみどり!!
 これは揉まねばならぬ! まずは怪しまれぬようお近づきに――)
 手をわきわきさせている時点で既に十分怪しいが、そんなことはいざ知らず、衛が三人の元へ近付こうとする。

「バーカーマーモー?」

 まるで地の底から響くような声に、ビクッ、と衛の身体が震える。
「いや、じなぽん、これは違うんだ。オレ様じなぽんがぺったんとかそういうつもりでこんな事してる訳じゃなくて――」
 素直に謝ればまだ何とかなったかもしれないのに、うっかり口を滑らせて特大の地雷を踏んでしまう衛。
「……選択肢くらい用意してあげようと思ったワタシがバカでしたわ!
 ここで脳みそぶちまけやがりなさい!」
「い、いっちーーー!!」

 ジーナの振り下ろした中華鍋が鈍い音を響かせるのを、樹はコタローには聞かせまいと耳を塞ぎ、目を背けさせる。衛はまぁ、魔鎧だ、ちょっとやそっとのことでは死ぬまい。
「……これはいっそ、『撲殺魔法少女』に改名した方がいいんじゃないか?」
 樹の呟きは、とりあえずその場の誰の耳にも届かなかった。……だが後になって、豊美ちゃんの名の下にジーナに『撲殺魔法少女』という魔法少女な二つ名が用意されたのをみるに、案外誰かが聞いているものである。
「……ふぅ、すっきりしましたわ。さーって、じゃんじゃん焼き上げていきますよ!」
 ピクピク、と断末魔の痙攣を起こしている衛を放置して、ジーナが清々しい顔で仕事に戻る――。