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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』
終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』 終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』

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『お祭りを楽しもう!』

●氷雪の洞穴

「みんなー、ひさしぶりー! 元気してた?」
「おかえり、ノーン! うん、こっちは元気だよー」
「ねえねえ、何か面白い話あったら聞かせてー」

 久し振りに里帰りを果たしたノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の元へ、氷結や舞雪の精霊たちがわっと集まる。契約者と契約しない限りはそれほど遠出をしない(もちろん個体差はあるが)精霊にとって、ノーンの話はとても興味を惹かれた。『個々の経験で得た知識は共有される』とはいえ、実際に本人から話を聞いた方が何かと面白いのだ。
「あら、ノーンじゃない。今日は一人で来たの?」
「カヤノ様、おひさしぶりです! えっと、おにーちゃんと環菜おねーちゃんはおしごとで、舞花おねーちゃんがちょっと遅れて来るって言ってました。カヤノ様は、お客様の案内ですか?」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)御神楽 環菜(みかぐら・かんな)御神楽 舞花(みかぐら・まいか)のことを口にしたノーンが、カヤノの後ろに控えるネスティ・レーベル(ねすてぃ・れーべる)太陽の東月の西 三匹の牡ヤギブルーセ(たいようのひがしつきのにし・さんびきのおすやぎぶるーせ)の姿を認めて、尋ねる。
「イナテミスで会って、ここに来てみたいって話だったから。ちょっと距離あるしね」
「わー、不思議な感じ。壁も床も天井も氷なのに、少しひんやりするくらいで寒くない!」
 初めての場所で初めての出会いを、ネスティは難なく受け入れた一方で、ブルーセは少々圧倒されていた。
「あなたも契約者? ねえねえ、どこを旅してきたの? 何を見てきたの?」
「あ、あの、ええと……うぅ、ネスティ〜」
 精霊長同様、良く言えば元気、悪く言えば落ち着きが無い精霊たちに囲まれて、ブルーセがネスティに助けを求める。
「あーほらほら、怯えさせちゃってどうすんの。そんくらいにしときなさいって」
 カヤノが命じて精霊たちを散らすと、ブルーセはほっ、とした表情を浮かべる。
「この間は、一緒に歌ってくれてありがとーね! で、わたし、お祭りのステージで歌うんだけど……また一緒に誰か歌ってもらえるかな?」
「聞いた聞いた、街の方でお祭りだよね。うん、いいよー」
「歌詞とかメロディとか、すぐ覚えられる?」
「あたしたち精霊だよ? なんとかなるなる。あっ、ステージ衣装、用意しないと!」
 ノーンの呼びかけに、ノリのいい仲間がすぐに応え、準備のために飛び去っていく。
「あ、ノーン歌うの? あたいも混ざっていい?」
「はい、もちろん大歓迎です! ……でもカヤノ様、おしごとは大丈夫ですか?」
「トヨミたちがいるし、大丈夫でしょ。サラとセイラン、セリシア、ケイオースも今日はフリーみたいだし。
 そうそう、ステージでノーン、とっておきを見せてあげるわ。覚悟しときなさいよ?」
「へ? カヤノ様、何するんです?」
 ノーンが尋ねても、カヤノははぐらかして答えない。その内ステージに参加予定の精霊たちの準備が整い、連れ立って出発することになる。
「あんたたちも送ってってあげるわ。ついでにステージ見てく?」
「面白そうだね〜。それじゃ、付いていこうかな」
「お、お願いします」
 ネスティとブルーセを加えて、一行は氷雪の洞穴を発つ――。

(かつていがみ合い、殺し合いにまで発展した仲同士が、こうして祭りを開くことが出来る。
 種族間の様式の違い、考え方の違い、小さなイザコザなど問題は多々あるのでしょうが……そういったのを繰り返してやがて大きな絆を生んでいくのでしょうね)
 賑わう路地を、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)がぼんやりと考え事をしながら歩いて行く。その隣で医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)が、どうも居心地が悪いような素振りを見せる。
「どうしましたか? ……そういえばいつもの房内さんらしくないですね」
「じゃろ? さすが分かっとるなぁ主様。
 いやな、この街の雰囲気はどうも、しようと思っておった『エッチな悪戯』が合わぬのじゃ。あれほど若い子がおって、きわどい衣装を纏っている者もおるというに、なんとも不思議でならん」
 言うそばから、精霊長の二人、サラとセイランが歩いてくる。確かに房内の言う通り若く、しかもサラの方は肌の露出が多いにも関わらず、『エッチな悪戯』が相応しくないと思わせてしまう。これには人間と精霊、魔族の性に対する考え方の違いが影響しているのだが、貴仁はともかく房内は知る由もない。
「こんにちは。今日の祭りは魔族を歓迎する意味もあるそうですが、三族が共存するというのは想像以上に大変ではないかと思うのです」
「ええ、仰る通りですわ。わたくしたち精霊がかつてこの街の方々と共存を決めた時も、互いの考え方や様式の違いに戸惑いました」
「だが、今では互いに歩み寄れている。同じ地に生きる者であるなら、魔族とも歩み寄ることはいずれ出来ると思うのだ」
 一つの話題をきっかけに、貴仁とサラ、セイランとで話が弾む。
(祭りは騒いで、笑って、楽しんでなんぼじゃと思うんじゃがなぁ。
 ……ま、やむを得ん。今日は主様のしているように過ごしてみるかの)
 房内が心の中で呟いて、どうやらステージに向かうつもりであろう一行の後を付いて行く。

 そのステージでは、各人が目を引くコスチュームやパフォーマンスを交えつつ、歌声を響かせていた。
『人間・精霊・魔族、彼らを結びつけるものは……歌。
 見た目やものの考え方が違っていても、歌が届ける思いは、それらを超えて伝わる』

 その言葉を胸に抱き、今日の感謝祭でより多くの人に伝われば。……そうして彼女たちは、ステージに立つ――。

「さあ、君も一緒に、歌って踊っちゃおっ!」
 ステージに上がった騎沙良 詩穂(きさら・しほ)の合図で、七色の光が会場を照らし出す。

 ずっとそのままの輝きで
 僕らに希望を残すComet☆Day
 光放て運命のその日まで
 僕らに希望をください

 いつ出会えるか分からない運命の歯車が回りだす
 刻一刻と迫る希望の光が動き出す
 守るべき大切な人と手をつなぎ微笑みかける

 ずっとそのままの輝きで
 僕らに希望を残すComet☆Day
 光放て運命の日まで
 僕らに希望をください

 夜空で出会う美しきComet
 世界を変えるミラクル
 時間の中で芽生えるハート
 僕と君とをつなぐイベント

 この広い宇宙の中でCometにめぐり合えた偶然
 愛してると誓いながら君と二人で帰ろう

 一生に一回のComet☆Day
 君と一緒に見れたダブル・ミラクル
 僕は絶対に忘れはしない
 この瞬間を……

 どんなに辛い出来事が僕らを引き裂いても
 あの瞬間がつなげてくれる! ありがとう希望のComet

 ずっとそのままの輝きで
 僕らに希望を残すComet☆Day
 光放て運命の日まで
 僕らに希望をください


 『みんなとの出会い』をテーマにした詩穂の『Comet☆Day』の次は、富永 佐那(とみなが・さな)……もとい、『マジカルレイヤー海音☆シャナ』の『スキップジャック・フィーバー』が続く。
「しゃなっしゃなにしてやんよ〜☆」
 持参した鰹型キーター(ショルダーキーボードのこと)を奏でながら、スキップジャック=鰹をフィーチャーした曲を熱唱する海音☆シャナ。かつて地球で広く浸透し、2022年現在でも派生系が誕生しているヴァーチャル音声ソフトで作られた歌に、このような不思議系ソングが多く見られるが、まさにそのノリである。
 お好み焼きの上で踊るキミ〜♪
 海音☆シャナの凄いのは、そのような歌を肉声で歌ってしまう点もそうだが、『マジカルレイヤー』の名の通りか、声まで様々なレイヤーをかけられる=自在に声を操れる点だった。
 会場の観客は、歌の歌詞の意味に疑問符を浮かべながら(えてして不思議系ソングは、一見意味の無いように見える歌詞を用意していることが多い)、しかし演奏の巧みさと声の変化していく様に魅せられていく。
 ワタシの赤身を召し上がれ♪ フィーバー!!
 
「そうじゃそうじゃ、やはり祭りとはこのように、騒いで笑うものじゃ」
「活気があるのは、悪いことではありませんね」
 ステージを観覧する貴仁と房内の前で、盛大な爆発の演出でステージを終えた海音☆シャナへ、大きな拍手と歓声がもたらされる。
「あっ、次はアリッサちゃんの番ですね。
 頑張ってください、アリッサちゃん!」
 観客席の別の場所では、「アリッサちゃんも感謝祭で歌いたい!」と言ってステージ参加を決めたアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が応援する。アリッサの考えていることなどいざ知らず、ぽやぽや脳天気に声援を送るフレンディスを前に、アリッサは――。

えへへー♪ 鎧型アイドル・マジカルアーマーアリッサちゃん、今日も元気に見参だもんねー☆
 元祖かつアイドル魔法少女は10歳って相場が決まってるんだもん、最近流行な14歳以上のそろそろ少女と呼ぶには苦しい魔法少女達には負けないんだよ?」
 アリッサがそう口にした瞬間、豊美ちゃんを始め大勢の魔法少女がくしゅん、とクシャミをしたようだ。うっかり豊美ちゃんに聞かれようものなら「いくつになっても魔法少女なんですー!」とお仕置きされそうだが、アリッサは全く恐れる素振りを見せない。本人の姿さえ見えなければ怖いものなし、である。
「というわけでー、アリッサちゃん頑張っていーーっぱい唄って踊っちゃうよーー!!」
 アリッサがステージに立った途端、どこからともなく着ぐるみが大量に現れ、ある者はバックダンサーになったり、ある者はサイリウム装備で応援をし始める。
「おい、何でオレたちこんな所でこんなことやってんだ?」
「わ、分からねーけど身体が勝手に動くんだ」
 彼らは空京での暴走族事件の時、アリッサに介抱(正確にはフレンディスがやった)されて仲間にさせられた元『ビッグ・ベアー』のメンバーであった。無論本人たちは踊る気も応援する気もなかったが、着ぐるみなので不満の表情は分からない。
 そのチャックを 剥いでやろうか ああ楽しみだ
「「ヒイッ!?」」
 おまけに、アリッサが物騒な歌詞を口にするものだから、彼らはすっかり震えてそれ以後、全力で強いられた役目を果たす。彼らもゆる族、その愛らしい姿に多くの観客が惹きつけられる。
「最後は打ち上げ花火、どかーーん!!」
 アリッサが拳を上に突き出すと、ステージ傍の地面が割れ、そこから溶岩……ではなく、赤い光が打ち上げられ、上空で爆ぜる。きっと皆、魔法を駆使して派手なアピールをすることが分かっていたので、ステージには色々細工が施されていたようであった。

 会場に来た所で、ステージに立つカヤノとノーン、精霊たちと別れたネスティとブルーセが、そのままステージを観賞する。
「うぅ……魔族がいるよ……怖いよ……」
 が、氷雪の洞穴と違い、ここは三族が織り成す場。特に魔族が怖いようで、ブルーセはネスティにしがみついて震えていた。
(うーん、このままじゃよくないよね〜。
 いっそ思い切って接してみたら、案外よくなるかもしれないけど……)
 そう思い至るが、だからといって粗暴な感じの魔族では逆効果だ。ここは性格の穏やかそうな人を選んで……とネスティが視線を辺りに向けるが、ネスティも魔族をそんなに見ていない以上、見た目だけで性格を判断するのは難しい。
(魔神さんが来てたらね……お?)
 ネスティの目が、ある一人の少女を捉える。一見普通の魔族の女の子だが、何か高貴な雰囲気を感じさせた。近寄り難い感じだが、少なくとも軽くあしらわれることはないような気がなんとなくした。
「せっかく魔族もいるんだし、お話してみよう! 行くよブルーセ」
「え、ぼ、ボクはいいよ――うわぁ」
 ブルーセを引きずるようにして、ネスティが魔族の女の子に話しかける。
「こんにちは〜。お祭り楽しんでますか〜?」
「……ええ、まあね。そちらの後ろの方は、何か怯えているみたいだけど……」
 チラ、と女の子が視線をブルーセに向けると、ひいっ、と悲鳴を上げてブルーセがネスティの後ろに隠れる。それだけで女の子(ロノウェ)はだいたいを察するが、同時にこういう反応をされるのも自分たちの所為が招いたことと受け入れる。
「ごめんなさい、責めているわけじゃないの。言い方が悪かったわね」
「まぁ、本当のことだからね〜。気を使ってくれてありがと」
 二人の間にふふ、と笑みが生まれる。その時ステージで新たな光と演奏が生じる――。

(そろそろノーン様のステージ、急がなくては……っ)
 今しがたイナテミスに到着した舞花が、ノーンのステージを見逃すまいと駆け足で会場へ向かう。着いた頃にはちょうど、ノーンとカヤノ、仲間の精霊たちがステージに立ち、思い思いに演奏やパフォーマンスをしていた。
(あの方は、確か氷結の精霊長様。知らぬ間に仲良しになられていたのですね)
 ノーンの性格を思えば、噂に聞いているカヤノの性格と合いそうだなと思いながら、舞花がステージを観賞する。

「それじゃ、あたいのとっておき、いっくわよー!」
 一番が終わった所で、カヤノがそう宣言すると、身体が幼女のそれから少女のものへと変化する。ここまではまあ、何度か見られた現象だが、ここからが違った。
「ノーン、あなたもよ!」
「え? えぇ?」
 カヤノがノーンに手をかざせば、何と、ノーンの身体までもがカヤノと同じくらいの少女のものへと変化する。衣装も雰囲気に合ったものに再構築されているおまけ付きだ。
「わぁ〜、遠くの向こうまでよく見える! すごーい!」
 初めて味わう視界に、感動で胸がいっぱいになる。見れば他の仲間たちも、カヤノによって姿を変化させられていた。どうやらこれがカヤノの『とっておき』らしい。
「さ、続き、やるわよ!」
「はーい!」
 演奏が二番へと続く――。

 きらめくハート 精霊ガール!
 ドキドキ
 ワクワク
 夢の舞台(フロンティア)に飛び出す
 アドベンチャー!

 世界の果てまで 響く 情熱の歌声!
 宇宙の果てまで 届く 浪漫の調べ!

 エレメンタルフィナーレ!!


(……驚きました。一時的であれ、ノーン様が成長なされるとは。
 これを陽太様や環菜様が見たら、どう思われるでしょうね)
 ステージの様子を撮った画像を陽太の端末へ転送して、舞花はステージを終えたノーンを労いに控え室へ顔を出す。
「あー……流石に全員はキッツいわー。ちょーっとはしゃぎ過ぎたわねー」
「カヤノ様、無理し過ぎですよっ。……でも、とーっても楽しかったです!」
 魔力を大分消耗したらしく、ソファに横になって他の精霊たちの介抱を受けているカヤノに微笑んだノーンが、舞花の姿を認める。
「舞花おねーちゃん! わたしのステージ、見てくれた?」
「ええ、とても華やかでした。あのサプライズには私も驚かされました。
 差し入れにお菓子を用意しました、皆さんでどうぞ」
「わーい!」
 お菓子を囲んで、皆、わいわいとした時間を過ごす。舞花がメールを確認すると、案の定、陽太の驚いた様子の返信が返って来ていた。
(詳細は後ほど、ノーン様からお聞きいただければ、と……)
 返信を送って、舞花が話の輪に加わる――。

「魔族さんと話してみて、どうだった〜?」
 魔族の女の子と別れ、しばらく歩いた所で、ネスティがブルーセに問いかける。
「うーん……怖いのは変わらないけど……魔族全部が怖い人、じゃないのかな、って思う、かな」
 小さな声で自信なさそうに言うブルーセ、でも、少しは進歩があったのは確かだった。