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リアクション
フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)とセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)
二人の騎士がアジトの奥で対峙している頃
同じ建物の奥の薄暗い部屋の一室の扉がゆっくりと開けられた
薄暗い灯りの中メンテナンス・オーバーホール(めんてなんす・おーばーほーる)が見渡すと
傷だらけのまま動けずにいる三人の姿が目に入った
それでも、彼の来訪に気がつきゆっくりと頭をもたげる一人の姿に彼は感嘆の声をあげる
「ほう、あれだけの仕打ちを受けてまだ睨む気力があるか……流石だな天空騎士」
慇懃無礼な仮面の男の言葉にリネン・エルフト(りねん・えるふと)の眼光が一層鋭くなる
フリューネの救出に失敗した彼女とフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が再び捕まり
この部屋に運び込まれてから、二人に行われた行為
それは部屋の先住人である瓜生 コウ(うりゅう・こう)と等しく同じものであった
逆に強靭にもそれに耐える二人のお陰で、コウに対する負担は減ったとも言える
とにかく、コンスタントに苦痛を与えられた二人の体力は確実に削ぎ落とされていった
寧ろ、その痛みをバネにして気力だけは失わないと機を狙って耐えてきたとも言える
そんな彼女達の決意など、どこ吹く風といった様子で
仮面の男は壁に貼り付けになっているリネンの前まで歩み寄り、その顔を覗き込んだ
「感心なものだな、愛しい者が魔獣の餌と化す日も近いというのに
その体で何を諦めないでいるのか……違うな、そうでもしないと耐えられないと言ったところか」
「何とでも言ったら?……フリューネだって諦めない、魔獣程度のケダモノに絶対負けない
だから……諦めるもんですかっ……!」
「健気だな……まるで戦場から帰ってこない兵の帰還を待つ恋人の様だぞ?
そんな前向きに生きたからとて、屍も残らず死んだ相方の無念は消えるはず無いのに……」
何か濡れたものが当たる音と共に
そこまで話していたメンテナンス……もとい『カイナス』の言葉が不意に止まる
音のした仮面の頬に手を当てると、濡れた感触がある
それは動けないリネンが抵抗といわんばかりに飛ばした唾だった
その嫌味なまでに冷静な様をせめて崩す事で気力を振り絞ろうとした彼女の抵抗だったのだが
そんな事でこの仮面の男の感情は揺さぶられる事はなく、溜息と共にそれを拭き取り
礼とばかりに床で動けないフェイミィの足首を踏みつける
苦悶の声をあげるフェイミィだったが、それでも叫ぶ事無く無理矢理笑顔を作って彼を睨みつけた
「けっ……やるならもっとやってもいいんだぜ、だがお前が気に入る声なんて挙げてやるもんか!
オレをいたぶればリネンが揺れると思ったら大間違いだぜ……覚悟なんてできてるんだからな!」
「………その様だな、これ以上無駄な事に労力をかけるのも時間の無駄のようだ
だから、こちらももっと原点に戻ろうと思う。小手先の揺さぶりはもう終わりにするよ」
仮面越しの言葉の真意がわからず、リネン達二人が怪訝な顔をしていると
『カイナス』の後ろから新たな来訪者が姿を現した。その姿にリネンの表情が変わる
「あなたは!?」
「お久しぶりですねリネン・エルフト……その節はお世話になりました」
言葉と共にその姿が露になる
怪異を孕んだ異質の空気と匂いを纏い、隣の仮面以上に異形を象る死霊術師
彼……エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)の姿にフェイミィも驚きの声を挙げるのだった
「なん…で!お前が……ここにっ!?」
「只の雇われ用心坊ですよ、旅の手持ち代稼ぎみたいなものです
それ以上に縁はありませんよ、お陰でここの品の無さにウンザリしているんですけどね
そんな風に不満を漏らしていたら、彼から面白いイベントの話を頂きまして
急ですが前座として参加する事にしたのですよ……例の【魔獣ショー】に」
「「なっ!!?」」
予想だにしてない言葉と流れにリネン達二人が絶句する
只でさえ危険な魔獣との戦いの前に前座……しかも【人間】が相手だという
【魔獣ショー】そのものの意義が変わる変更など予想できる訳がない
その反応にようやく満足した様子で『カイナス』が会話を続けた
「俺が提案したのだよ、思った以上にギャラリーが増えそうでな
どうせやるならフリューネに恨みつらみある連中に、今までの恨みの解消をさせた方がいいだろう?
魔獣をお披露目したいなら、それこそ援軍でも足せばいい人員なら腐るほどいるのだからな
そう提案したらあっさり通ったよ、これもフリューネの人徳だな。喜ばしいじゃないか」
「きっさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
冷静に保とうとした何かがリネンの中で砕け散る
我も忘れて叫び『カイナス』の仮面に少しでも近づこうと暴れる彼女を無常にも鎖が喰いとめる
そんな彼女にウンザリしたように、彼は会話の相手をフェイミィに変える
「もちろん、そんな輝かしい晴れ舞台を見ないのは残念だろうから、特別席を用意してやろう
完全防音の部屋だから、思う存分応援も出来るはずだ……楽しむがいい」
「どうしようもないクズだな……お前……」
「よく言われるよ、まぁ大概お前達のようなクズにも何も出来ない連中にだがな」
「そこまでにしましょう、前哨戦は終わりです」
泥を投げつけるような言葉の応酬が続くのを見て、ややウンザリ気味にエッツェルが割って入る
外套の上からもわかる異形の左腕を翳しながら彼は言葉を続けた
「ここで品の無い会話をしても不毛じゃありませんか
動くのは私です、存分に楽しませて貰うとしましょう」
「……ひとつ質問していい?死霊術師さん」
暴れて叫ぶのも疲れたのか力無くうなだれた頭をそのままに、リネンがエッツェルに問いかける
その様子に彼が眉を潜めているのも構わず、彼女は質問を続けた
「あなた……フリューネに恨みなんてあったっけ?」
「そうそう面識は無いので具体的には皆無ですね
強いて言うなら……タシガンの私掠船の騒ぎでしたっけ?
あの時大変お世話になったので、あの【お礼】……と言った所です」
「…………そう、そんな事かぁ………ふふふふ」
エッツェルの返答を聞き、項垂れたままリネンの口から微かな笑い声が聞こえはじめる
フェイミィ、そして意識を取り戻したコウが怪訝にそれを見つめる中、その声は大きくなる
「ふふふふふふ……くっくっくっくっくっく………あははははははは
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
遂には常軌を越えた不快感を孕む笑い声が部屋中に響き渡り
それがピッタリ治まったあと、不意にリネンが顔を挙げる
まるで壊れた人形の電源が入ったような不自然さと、その表情にフェイミィ達が戸惑う中
信じられない言葉が彼女の口から放たれた
「……私が、戦う………エッツェルだっけ、その役……代って貰ってもいい?」
「お、おい待てよリネン!?裏切るのか!?」
「裏切る?何言ってるのフェイミィ……裏切りたくないから戦うんじゃない
…………私以外にフリューネは殺させない………殺させないんだから………うふふふふふふ」
「ふむ……これは……」
壊れたようにずっと笑い続けるリネンに興味を持ちつつ
判断にあぐねて仮面の男はエッツェルを見る、対して彼は興味無さ気にその態度に返答する
「構いませんよ、より盛り上がるカードをお好みでしょう?
彼女に譲ります、念の為戦闘中は傍で見守ってましょうかね……何かあった時の為に」
男達が段取りを取り決めている間も、リネンの壊れた笑い声は続く
その部屋の外まで聞こえる笑い声に、働かされている囚人メイド達も身を竦ませるのであった
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