リアクション
『おうちにかえろう』
「せんしぇいさよーなら!」
「さよーなら!」
「さようならカー君、ぶんちゃん」
バスに乗り込んで行く鴉君と文長ちゃんに、先生達は手を振ります。
「おにーちゃんはきくちゃんのおとなりにすわって!」
「ああ、バスが動いたらな」
海先生に頭を撫でられて、菊ちゃんは嬉しそうに笑いました。
「きっと鉄棒の練習で疲れたのね、海先生、お願いします」
胸の上でウトウトしているルイ君を海先生に引き渡すジゼル先生。
その横を、シェスティンちゃんが雫澄君の耳を引っ張りながらすり抜けて行きます。
「いたた、いたいよシェスティン!」
「うるさい! おくれてはずかしいおもいをするのは、われなのだぞ!」
「ふたりとも、また明日ね」
いつも喧嘩しているみたいなこの子達ですが、返事は元気よく二人合わせて「はーい!」と返ってきます。
そこでふと、ジゼル先生はエプロンを掴んでいる小さな手に気がつきました。
「せんせい……」
真君はなんだかしゅんとして、いつもの元気がありません。
ジゼル先生は指切りの小指を真君の前に出します。すると真君の顔が少し明るくなりました。
「真君、また明日ね」
「またあしたー!!」
指切りをし元気に挨拶が出来た真君は、バスに走って乗り込みました。
涼司先生の運転するバスが走り出します。
シャンバラ幼稚園の終わりの時間がやってきました。お友達はお家に帰る時間です。
――明日はどんな一日になるのかしら。
ジゼル先生がそう思って空を見上げると、そこには雲一つない蒼空が広がっていました。
――そうね、今日みたいな楽しい一日だといいわ。
ジゼル先生は小さく微笑んで、教室に戻って行きました。
*
「と、言う夢を見たのよ」
「変わった夢ねぇ……」
ある日の蒼空学園。
中庭のベンチで雅羅とお昼をしていたジゼルは、不思議な夢を話し終えると、制服のポケットをまさぐり小さな瓶を取り出した。
その小瓶に付いた「試供品」の文字が書かれたテープの下には、”人の夢を共有する香り”というラベルが貼られている。
「昨日ドラッグストアで買い物したら貰ったの。
夢を共有するなんて……って半信半疑で試して見たんだけど――」
ジゼルは空を見上げます。
そこにはまるで夢の中で見た様な、雲一つない蒼空が広がっています。
「私は一体、誰の夢を見たのかしらね」