百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

空が見たい!

リアクション公開中!

空が見たい!

リアクション

 第二章

 
 コンコンとノックの後、どうぞとなげやりな声が返ってきたのを確認してトリネルは扉を開けた。

「ルルド、遅くにごめんね……って何してるの?」
「見りゃ分かるだろ? 外に出る準備だよ」

 棚の中身を片付け、大きなリュックに荷物をつめ。明らかにどこかに行こうとしているのが見て取れる。

「外って、まだあきらめてなかったの?」
「あきらめられるか! そういうお前だってあきらめてるわけじゃなさそうだけどな」
「でも……33坑道の話だってどうせどこにも繋がってないんでしょ? 最近はドラゴンだって起きたばっかりだし、次に目が覚めたら村が全滅してしまうかもしれないっていってるのよ?」

 胸に抱えた本をぎゅっと握りながらトリネルは言う。
 外に対する憧れはあきらめきれていない。それは確かだ。
 今日もこうして外の様子が書かれた本を読み、風や太陽に思いを馳せている。

「長老たち爺様たちはそれでいいと思ってるんだろ。だけど、俺はそんなのごめんだ。ずっとこの村で暮らしてきたから今の地上がどうなってるかなんて誰も知らない。皆はそれでいいのかもしれないが俺は嫌だ。こんなに知りたいことがあるのに」

 片づけを止めてベッドに身を投げ出し、天井を見つめてルルドは呟く。

「この狭くて暗い世界の中で一生過ごして死んで行きたくなんかないんだ」

 お前もそうだと思ってたといわれてトリネルは言葉につまる。
 そうだよと。一緒に外に行こうと言ってしまいたい。
 それでも、自分はこの育った世界を投げ出してしまうようで、憧れは憧れのまま、夢は夢のままでいるほうがいいんじゃないかとトリネルは思ってしまう。

「それにな、地上の連中だっているんだ。今回は一人じゃない」
「まさか、あの人たちまで巻き込むの?」
「巻き込むんじゃない。協力するんだ。お互いのために」



「じゃあ、今日はこの辺りを頼むよ。それじゃあよろしく」

 キンッ、カキン、とつるはしが岩盤を打つ音が坑道内に響いている。

「さーって今日も張り切って掘っていこうー! ハイホー、ハイホー、鉱石を掘れー、みぃすたーまぁーいんくらぁーふとぉーっとくらぁ」

 つるはしを勢い良く振り下ろすトゥマス・ウォルフガング(とぅます・うぉるふがんぐ)。こっちは任せとけ! とこっそり告げた後、歌を歌いながら陽気に振り下ろす彼を見てこれなら大丈夫そうだと、ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)はルルドに教えてもらった場所へとこっそりと向かった。


 近付かないようにと言われている第33坑道。
 ルルドが言うにはそれは迷信でも冗談なんかでもなく、本当に外へと道が繋がっているのだという。
 彼がもっと小さかった頃に坑道内で迷子になったことがあったそうだ。
 そして遠くに見える明かりに、村が近付いたと思い走っていくと、機晶ランプとは比べ物にならないほどの眩しい世界が広がっていた。
 頬に当たる風の感触。太陽の温かさ、草木の匂い。
 岩と土に囲まれた世界では味わえないものがその目の前に広がっていた。

 第33坑道の近くを通る第31坑道。
 先日のドラゴンの件で第33坑道への道はふさがってしまっている。が、第31坑道のほうは無事なようだ。
 しかもルルドが言うにはちょうど第33坑道へとつながるだろう部分が落盤によって薄くなっているという。
 本当に繋がっているのか怪しいし、どこまで掘れば反対側に到達するのか正直見当がつかないが、それでも何もせずに手をこまねいているよりはよっぽどマシだと、この話に乗ったのだ。
 さっさと掘り進めてしまいたいが、狭い坑道内であまり派手に音を立てれば気付かれてしまう。少しずつ、だが確実に掘っていかなければならないのだ。
 幸運なことに、33坑道へと繋がっているだろう部分はちょうど横穴のようになっていて、ドワーフたちにすぐに見つかる心配はない。
 けれども、側を通りかかられてしまえば見つかってしまう可能性が高い。
 外との繋がりを極端に嫌っている彼らに、今まさに外と繋がる道を作ろうとしているところを見られでもしたら、ドワーフの牢獄に入れられてしまう。
 ここよりもさらに地下深くにあるという牢獄。
 近くにはモンスターも多いというそんな場所に誰が入りたいものか。

「よし、アリアンナ。始めますよ」
「うん。頑張ろうロレンツォ」

 しかし、そこまでしてでも外との関係を絶ちたいのには何か理由があるのではないだろうか。
 ロレンツォは少しずつ崩れていく岩盤を見ながら思った。
 すでに何度か長老と話をしても頑なに外に出ることは許さないという姿勢。
 もしかしたらこのドワーフの村には過去に何かあったのかもしれない。
 そう思えて仕方ないのだった。