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リアクション
教導団の機体、そしてグレート・ドラゴハーティオンが戦っている場所から離れたヒラニプラの荒野の一角。
「相変わらず派手ですねぇ。まるで夕方のアニメみたいです」
光龍とスマラクトヴォルケが会敵した瞬間から黄龍合体の瞬間まで一部始終を輸送用トラックの横に立ち、高性能双眼鏡で見守り続けていた一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)は苦笑交じりにそう呟いた。
「今時、その手の番組は夕方じゃなくて日曜の朝よ」
アリーセの背後からかけられた声は若い女性のものだった。理知的ではきはきとしたその声は、バリバリのキャリアウーマンのような――所謂、『デキる女』を思わせる声だ。
その声と、ヒールの高い靴が荒野の赤土を歩く音に振り返ったアリーセは、苦笑していた表情を微笑みに変えて、来訪者――シニヨンに纏めたアップヘアに、デコ、メガネ、ツリ目が特徴のパンツスーツが似合う巨乳美女を出迎える。
「これはこれは高天原さん、お久しぶりです」
向けられた微笑みに、自分も微笑みを返すとアリーセのもとにやってきたシニヨンに纏めたアップヘアに、デコ、メガネ、ツリ目が特徴のパンツスーツが似合う巨乳美女――高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)は、アリーセと同じく戦場へと高性能双眼鏡を向ける。
「あんなタイプのイコンは見たことが無いわね……。どうやら教導団には少々の見覚えがあるようだけれど……」
小声で呟く鈿女。すると、それを聞いたアリーセは小さく吹き出した。何がおかしいのか要領を得ない鈿女から目で問いかけられると、微笑んだままアリーセは答えた。
「失礼しました。『あんなタイプのイコンは見たことが無い』――高天原さんが言っても説得力ないですよ」
得心がいったのか、今度は鈿女が苦笑する。
「そうね、確かに。一際、というかダントツで変わり種なのがウチにいるものね」
そこで表情を真面目なものに切り替えると、鈿女はアリーセに問いかけた。
「で、何か掴めたの? あなたのことだから、ただ見物してただけじゃあないでしょう?」
その問いかけに、同じく真面目な顔になってアリーセは答えた。
「主に熱源と熱の流れに注目し、排熱機構の位置を特定。排熱機構以外にも各種センサー等装甲が薄い箇所があれば……と思って見てみたんですけどね」
そこで一度言葉を切ってから、アリーセは続けた。
「排熱機構はもちろん存在するんですが、まず第一に十分な数が複数存在していて、一つや二つ潰したくらいではさしたる悪影響もないでしょう」
そこまで聞いて鈿女は、ふと眉間にシワを寄せる。どうやら、何か腑に落ちないことがあるようだ。
「ちょっと待って、いくらあのイコンが重量級の巨体とはいえ、一つや二つ破損しただけでただちに影響が出ないだけの数を搭載することなんて物理的に可能なのかしら? あそこまでガチガチの重装甲で固めてるんだもの、普通のイコンなら動けない。できてもゆっくり歩くのが精々よ。なのにあれだけ動けるってことは、相当なパワーの排熱機構が必要になるはずよ――たとえば、機体の大半を占めるような超巨大なのとか、ね」
鈿女の指摘は迅速にして的確だった。流石はロボット工学技術者だ。まさに面目躍如である。
だが、その指摘にもアリーセは頷くだけだ。
「ええ。ですが事実なんです。現に、信じられないほどの小型化がなされているおかげで、重装甲機、もとい複雑な設計の兵器全般にいえる宿命――装甲の薄い部分が最小限で済んでいるんです。それこそ、周囲にある装甲の厚い部分同士で薄いカバーすれば足りてしまうくらいには」
淡々としたアリーセの語りから、それが事実であることを理解した鈿女は眉間のシワを更に深くする。
「あれだけの出力の上、分厚い装甲を着込んでいれば相当な冷却装置が必要なはず。そこを潰せば少なくとも出力は大幅ダウン、上手くいけば内部からの破壊も狙えるでしょう。外からの攻撃でダメならば、中から壊せばよいのです――とは思ったんですが、なかなかそうはいかないようですね。もっとも、私たちが少し考えたくらいで看破できてしまう弱点など、あれだけの機体を開発できる技術者ならばとっくに思い至って、予め対策は施してあるでしょうけど」
アリーセがそう言って困ったように苦笑する一方、鈿女は眉間のシワをこれ以上ないくらいに深くして熟考に没入していた。
「完全無欠の戦闘兵器……そんなものが果たしてあるというかしら。たとえ完全無欠に見えても、どこかに必ず弱点があるはず――」
夢中で考えながら、無意識のうちに呟いた鈿女の声が、風の吹く音以外には何もないヒラニプラの荒野に響き渡るのだった。