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戦え!守れ!海の家

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戦え!守れ!海の家
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第1章

「魚が一匹もない……だと?」
 セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が、驚きの声を上げる。
 仲間たちを引き連れてやってきたのは、パラミタ内海の魚を取りそろえていると評判の食料品店。だが、店頭に魚の姿はなく、乾燥した海草だけが、カサカサと乾いた音を立てている。
「セリス様、残念ですが、売り切れのようです。他の店にまいりましょう」
 そう言って立ち去ろうとしたユリエラ・ジル(ゆりえら・じる)を、マイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)が呼び止めた。
「ちょっと待って〜ボク、他の店も見てきたんだけど、軒並み全部の店がカラッポ状態だったよ」
「どういうことだ? 海から魚が消えたわけでもないだろうに」
 首を傾げるセリスの前で、店の主人が、哀しげに項垂れる。
「海は魚でいっぱいですが、船が出せないのです」
「お困りのようだが、一体、どのような事情が?」
「あれをご覧ください」
 セレス、ユリエラ、マイキーが、店主の指さす沖を仰ぐ。と、輝く陽光に照らされてキラキラと眩しく輝く波間に、怪しげな影がふたつ。
「……モンスターだね」
「巨大なイカとタコ……ですね」
「なるほど、あの二匹のせいで、魚を捕る船が出せない、という訳か」
 わざわざ買い物に出向いたが、この様子では、海の幸を手に入れることはできそうもない。
「どうしたものか……」
「セリス様、自分に、いい考えがあります」
 と、長い髪を翻して振り返ったユリエラが、茶の瞳を燦めかせる。
「買うことができないのなら、直接、手に入れればいいのです」
「まさか、モンスターを退治しようって言うんじゃないだろうね?」
「その通りです」
 おそるおそる尋ね返したマイキーに、ユリエラが、きっぱりと答える。
「なるほど、それなら、人助けにもなって、こちらにも得があるな……」
 セリスは、力強く頷いた。

 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は、林田 樹(はやしだ・いつき)と誘い合い、お互いの仲間と連れ立って海岸にやってきた。
「おねーさまの水着もバッチリ持ってきたんだよー? 一緒に沢山遊ぶんだもんね!」
 誰よりも先に、フリル沢山あしらったピンク色の水着姿でスタンバイ完了したアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)が、フレンディスのために用意した水着を手に、「にへへー」と笑う。
「アリッサちゃん!? 私、水着は恥ずかしすぎて無理です!」
 と、天然鈍感世間知らずな忍者のフレンディスは、じたばた。
「でも、この水着、ワンピースだし、そんなに過激じゃないよ?」
「無理無理、絶対、無理です!」
 アリッサが差し出したのは、胸元に花をあしらったかなり控えめな型だったが、フレンディスは、まるでそれが正視できないほど危険な物であるかのように、逃げ回っている。
「なぁフレイ、水着じゃねぇのは逆に目立つし、羽織った状態でいいから、着替えとけよ」
 見かねて、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が声をかけた。
「は、はいっ!? あっ、また、しっぽと耳が……どうして……」
 最近、フレンディスは、ベルクが一緒に居ると、無意識に超感覚を発動させてしまうのだ。彼を意識するあまりなのだが、鈍感な本人は、発動条件に気付いていない。
 一方、気付いていながら、知らないフリをしているベルクの心中は、少しばかり複雑だった。
 フレンディスが、人前で肌を晒すのが駄目なのは、承知している。だから、水着姿を見ることができるのは、ラッキーだ。けれど、他人には、見せたくない……。
「あ……とにかく、海の家で、早く着替えて来いよ」
 照れくさそうに言って、横を向いたところで、ビキニの水着に着替えてきた樹と緒方 章(おがた・あきら)の姿が目に入った。
「そんな誘うような格好してたら……旦那としては困っちゃうでしょ?」
「待て、何でそこで、旦那とかそういう話になるんだ! 確かに、婚約の申し出は受けたが、その、あの……だーっ!」
 顔を赤らめて暴れ出した樹の首には、章にもらったというハートの機晶石ペンダントが輝いている。
「……苦労人同士、かな」
 章に同情を寄せつつ呟くベルク。その横をすり抜けて、精悍な風貌の男が、樹の腰に大きな手を回した。
「へー、この流れで俺が『仕込まれた』って訳かぁ」
「うわっ! なんだ、貴様はっ!」
 驚いた樹が、銃を構えるが、男は怯んだ様子もなく……、
「おっす、俺、太壱、27才独身、未来人、よろしくぅ!」
「はぁ〜?! 何を訳のわからないことを……いいかげんに、その手を離せ!」
「待って、樹ちゃん、彼『未来人』とか言ったみたいだけど?」
「いえーす、未来人、んじゃ改めて自己紹介。緒方 太壱(おがた・たいち)、これでも27才、親父、お袋、会いに来たぜっ!」
「樹の姉ちゃんと章の子供?」
 呆然とするベルクに、悪巧み大好き腹黒幼女アリッサの、先程より意地の悪そうな「にへへー」が聞こえた。
「章ちゃんに、かなり差をつけられちゃったみたいだね」
 この無機物クソガキ、隙を見て海に捨ててやる!
 と、ベルクは心の中で呟く。ベルクとアリッサの仲は、嫌がらせを受けては、反撃の繰り返し。アリッサが、彼の邪魔をする目的で、潮干狩りツアーに同行したことなど、ベルクは百も承知だった。
「差? なんのことやら……つーか、アリッサ、その浮き輪……お前、もしや、カナヅチか?」
「うぐぐ……ベルクちゃんの馬鹿ー! アリッサちゃんは、泳げない訳じゃないんだもん! ただ……浮き輪が無いと、浮かばないだけなんだもん……」
 魔鎧だからどうか謎だが、アリッサの弱点はカナヅチ。その為に、ベルクの前にしては、若干弱気なアリッサを救ったのは、ベルクを嫌っている林田 コタロー(はやしだ・こたろう)だった。
「ありっしゃたん、こた、うしゃぎしゃんと、おともらちになりたいお!」
「うん、ベルクちゃんなんか放っておいて、早く行こう!」
「あ……コタ……」
 コタローに謝る機会を探っていたベルクが話しかける間もなく、手を繋いだふたりが、海の家「うさうさ」に向かって走る。
 しかし、そこでは……、
「えぇと…? この閑散とした状況は何かおかしいです」
 水着の上にパレオとパーカーを着用した姿のフレンディスが、警戒を深めていた。

「潮干狩り禁止ですって? 聞いてないわよ、そんなこと!」
 メタリックブルーのトライアングルビキニの上に、ロングコートを羽織ったセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、砂浜の立て看板に、怒りをぶつけている。
「せっかくのデートなのに! 空気読め、って感じ。無視してやろうかしら?」
「でも、『危険』って書いてあるわよ」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、冷静に恋人を窘めた。ロングコートの下は、いつものレオタードではなく、セレンフィリティが用意したパールホワイトの大人っぽいビキニ姿だ。
「海に危険はつきものよ! 行くわよ、セレアナ!」
「待ってよ、セレンフィリティ!」
 ロングコートを脱ぎ捨てて駆け出したセレンフィリティと、あわてて後を追うセレアナに向かって、転がるように突進してきたのは、3つのもふもふ。
「た……助けてくれ……うさっ!」
「君たちの助けが必要なのだうさ……」
「お願いですわ、うさ!」
 かわいらしいうさぎの着ぐるみ姿のうさ太郎、うさ次郎、うさこが、美女ふたりに縋り付く。
「かわいい……じゃなくて、一体、何なの!?」
「清盛ちゃんが、俺たちが止めるのも聞かず……うさっ!」
「海に出てしまったのだ……うさ」
「清盛ちゃんのボートを、イカとタコが追いかけ回しているのですうさ!」
バシャバシャバッシャーン!
 波を打つ音が、浜辺に響く。
「ちょっと、セレンフィリティ……あれ、マズいんじゃない?」
 沖には、高波に弄ばれ、揺れるボート。オールを握る古風な服を着た小さな女の子に、パラミタ大タコとパラミタ大王イカの触手が迫る。
「こうなったら……アサリの代わりに、たこ焼きとイカ焼き、いっただきよー!」
 こんなこともあろうかと持参した巨獣撃ちライフルを抱えて、セレンフィリティがボートに乗り込む。
「ちょっと……」
 と、一応、宥めてはみたが、「どうせ無駄だから、気の済むまで好きなようにさせよう」と思い直すセレアナだった。
「おい、何かあったのか?」
 騒ぎを聞きつけ、一行を引き連れてやってきた樹が、うさ太郎たちから事情を聞き出す。
「皆様が困っておられては、放ってはおけませぬ。私、あの化け物討伐にご協力致したいです」
「ああ、コタローのためにも、あヤツらを退治せねばなるまいな……」
 やる気満々なフレンディスと樹の水着姿を衆人の面前に晒したくないベルクと章も、
「……仕方ないな」
「そうだね、放って置いたらゆっくり海水浴も楽しめないし……」
 と、共闘することになった。