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花嫁探しの仮面舞踏会

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花嫁探しの仮面舞踏会

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●煌びやかなパーティ会場



 企業の御曹司だけあって、仮面舞踏会の会場はかなり豪華にセッティングされていた。涼司に依頼された者達は、そのあまりの煌びやかさに任務を忘れて魅入ってしまう。
 パーティ会場の真ん中に、金髪で背の高い、仮面を付けている男が立っていた。どうやら彼が件の御曹司のようだ。



「はじめまして、御曹司。環菜がお世話になった方のご子息のお見合いパーティーということなので、成功するようお手伝いします!」
御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は御曹司に挨拶をすると、凄腕の執事、メイドロボ、五人囃子達と共に、てきぱきとパーティ会場の補佐に回りだす。
「お客様、今日は心行くまで楽しみ、よい連れ添いを見つけてくださいね。愛する女性との結婚こそ、人生最高の幸せですからね!」
 陽太の誠心誠意、至れり尽くせりの対応は、来場客たちの心を潤していく。
「はい、君達もこれから御曹司の護衛に大変でしょ? 食事も用意しますし折角だから、護衛だけじゃなく楽しんでくださいね」


 他の生徒達にも食事を勧め、走り回る陽太。
 準備がいいことに手の届かない部分は業者委託していたらしく、自身が走り回ると同時に細かいところまで根回しし、会場を盛り上げる。
「おいおい、そんなに張り切らなくても、係員がいるから陽太も楽しめばいいんだぞ? それに環菜の姿が見えないけど、放っておいていいのか?」
「大丈夫ですよ、環菜のことはエリシア達に任せてきましたから。さ、どうぞ」
 涼司の言葉に事もなげに答える陽太。せっかく成功させる為に頑張ってくれる陽太にそれ以上何も言わず、他のメンバーの方へと向き直った。


「それじゃ、ま、最初に説明したとおりだ。後はその……任せたからな」
「あら、涼司くんも依頼をするくらいだから、当然参加するんですよね?」
「う……加夜……」
 婚約者である火村 加夜(ひむら・かや)の言葉に、気まずそうな顔をする涼司。
「まさか、丸投げをするとか、そんなことはないですよね?」
「あ、ああ、勿論だ、大切な任務だからな」
 ばつの悪そうな表情の涼司に、にっこりと微笑む加夜。
「それじゃ、私は御曹司さんの傍らで護衛しましょうか。もちろん、邪魔なんて無粋な真似はしませんよ。超感覚で一緒に警戒しましょう、ね、涼司くん?」
「あ、ああ、そうだな」
 他のメンバーの手前、涼司はどこか加夜を避けようとしているふしがあるようだ。それを見越したように、加夜は涼司の腕を組む。
「ほら、不自然に構えずに。舞踏会らしく、音楽に合わせて踊ったりしてその場の雰囲気に合わせましょう?」
「あ、ああ……」
 ちらちらと横目で他のみんなを気にする涼司に、加夜は最後のとどめをさす。
「涼司くんといられれば私は幸せですよ。仮面をつけて多くの人が会場にいても涼司くんはすぐに分かります。大切な人ですから」
「お、おい、加夜……」
「ふふふ」
 学園の校長とは思えないほどにうろたえる涼司。その様を見て、他のメンバーは笑ったり冷やかしたりだ。



 あまり大勢の人間が近くにいすぎたら不自然だと、何人かは御曹司から離れて会場を回っていた。
 会場内で陽太の手伝いをしながら、他の客に紛れて周囲の警備にあたっていた白雪 椿(しらゆき・つばき)は、ホワイト・タイに指をかけながら恥ずかしそうに笑った。
「あまり…こういう服は着慣れないので、少し気恥ずかしいですね、くすっ」
 まるで、はにかむ笑いに応えるように、淡いピンクのエプロンフリルドレス白雪 牡丹(しらゆき・ぼたん)も、ドレスの裾を握って頬を赤く染める。
「……ひらひら、ふわふわです……あぅ……」
 初めての舞踏会と慣れない服装に緊張している、牡丹と椿。2人の様子を見て、心配したヴィクトリア・ウルフ(う゛ぃくとりあ・うるふ)は声をかける。
「椿様、牡丹様。決して私の近くを離れませんように。どこの馬の骨かも分からん輩に声をかけられても、決して愛想よくお返事などなさりませんように。大変危険な輩かもしれません故……」
「はい……はぁ〜……」
「あぅ……舞踏会って怖いところなんですね」
 顔を上気させてあまり耳に入っていない2人に、困りながらも、こういう場所で楽しむのもいい機会だと、ウルフは甘い顔を見せる。
「ええとぉ……御曹司さんもですけど、他のお客様にも大事がないようにしないといけませんね」
 緊張の顔を見せながらも、一生懸命任務を全うしようとする椿。そんな彼らの目に、ふとある一団の姿が映った。
 他の客と同じ様に仮面を付けてはいるのだが、女性とは話さず、あからさまに御曹司の方へと様子をうかがう素振りの男達。当然、見回り役をしていた椿が話しかけない訳がない。


「あの……少しお時間よろしいでしょうか?」
 椿にならって、牡丹もおずおずと尋ねる。
「あの、ちょっとだけお話……したいのです」
 2人が話しかけると、一団は顔を見合わせる。
「椿様、わざわざ相手に気を遣う必要はありません。こういう輩は問答無用で連れ去り、きびきびと拷問いたしましょう」
「あの、じゃあお任せします。だけどあまり手荒にしたら可哀想ですから」
 ウルフの言葉に、優しい言葉をかける椿。
「じゃあ、あの、私が部屋を手配しますね」
 そう言って牡丹が移動しようとしたときだった。
 突然、男達がウルフの手を振り払い、走り出した。


「あっ、いかせません! 待ってください!」
 被害が出てはいけないと、咄嗟にアシッドミストや光術で目眩しをしようとする椿。だが、だが男達は構わず走る。
「……? 仮面に細工してる!?」
 驚く椿の横で、牡丹がウルフに向かって叫ぶ。
「はわ〜、御曹司さんのところに行かせちゃだめです、援護しますから何とか食い止めてください!」
「了解しました、牡丹様!」
 バーストダッシュで一気に男達との距離を詰めるウルフ。一団を敵と見定めた彼女は、その手に握るナイフを光らせた。