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ハーメルンの狂想曲

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ハーメルンの狂想曲

リアクション


序曲

「ハーメルンの様子はどうだ?」
 ジョブスは椅子に腰掛けながら部下の一人に視線を投げる。
「はっ! 今は別室にて休憩中です!」
「そうか……。あの男は我々にとって無くてはならない存在だ、出来る限り手厚くもてなせ」
「了解しました!」
「さて、我々も少し休憩しよう。見張りにも通達をしてくれ」
 ジョブスが一息つくように大きく息を吐くと、
「敵襲だああああああああああ! 上空より敵襲! 全員戦闘態勢に入れ!」
 外で見張りを務めていた兵士の声がこの部屋まで転がり込んでくる。
 それに続いて銃声と爆音が外で響く。
「……ハーメルンに笛を持たせろ、村人たちにも働いてもらう」
「はっ!」
 男はジョブスに敬礼すると部屋を飛びだした。
「私も周りに指示を出してから戦闘に参加するとしよう……」
 そう言いながらジョブスは部屋にかけていた大太刀を持って部屋を出た。



一曲目

「おらおらー! 革命軍出てきやがれ! この猫井 又吉(ねこい・またきち)があいてしてやるぜええええ!」
 ジェットドラゴンを駆って空から機晶爆弾を投げつける。
 落ちる爆弾は爆音とともに地面を穿ち、黒煙を巻き上げる。
 それにつられるように革命軍の兵士たちが銃を携えて外に出て来た。
 光学迷彩で姿を隠しているものの、爆弾を投げる位置から又吉の居場所はあっさりと特定され、兵士たちは空に暗い銃口を向ける。
「ふざけやがってこの腐れ猫が! ぶっ殺して三味線にしてやらぁ!」
 汚い言葉を吐いて兵士たちは銃をぶっ放すがジェットドラゴンは弾速を越えるスピードでスイスイと回避していく。
(武尊! 出番だぜ!)
(ああ、分かってる)
 テレパシーで又吉の合図を聞いた国頭 武尊(くにがみ・たける)は革命軍の基地が見下ろせるポジションからスナイパーライフルを構えていた。
「したことは誘拐と洗脳……罪は罪だが殺すほどのことでもないな」
 乾いた音が周囲に響き、スコープの先にいた兵士は背後からの衝撃に耐えきれず前のめりに倒れた。
「よし……スナイプ成功だ。ゴム弾だから死ぬこともないだろう……ん?」
 武尊はスコープ越しから又吉が投げた爆弾の下に照準を合わせると──そこには一緒に村人の救出に来ていた仲間の姿があった。
「……まったく、暴れすぎだ」
 淡々と一人言を呟きながら、武尊は又吉が投げた爆弾に照準を合わせて、引き金を引いた。
 乾いた音が空に散り、空中で爆炎が上がり、見張り台にいた男がその衝撃で吹き飛んだ。
(又吉、下には仲間もいるんだから考えて爆弾は投げろよ?)
(わ、わかってるってそんなこと!)
 明らかに動揺した口調の相棒に武尊は嘆息しながら広場を走っている仲間たちの近くを警戒し、スナイパーライフルを構えなおして兵士に照準を合わせた。



 天貴 彩羽(あまむち・あやは)は目の前で倒れていく兵士たちに注意を払いながら戦場と化した広場に立っていた。
「行くわよベルディエッタ」
 彩羽は銃と化したベルディエッタ・ゲルナルド(べるでぃえった・げるなるど)に声をかける。
「ええい! 早天党に楯突く愚か者どもが! 我らが理想のために死ねえええええええ!」
 銃に視線を向けていた彩羽の姿が隙に見えたのか、一人の兵士が槍を横一閃に薙ぎ払う。
 彩羽は一歩後ろに下がると、槍は虚しく空を切る。
「隙ありいいいいい!」
 次いで刀を持った兵士が彩羽の背に刀を振り下ろす。
 が、彩羽はまるで躍るようにターンをきめて、そのままクロスファイアを見舞う。
「ぐっ!?」
「がはっ!」
 兵士たちの膝や肩から鮮血が迸り、武器を持ったまま兵士たちは地面に倒れる。
 それとほぼ同時に建物から村人たちが一斉に飛び出してくる。
 目は血走り、口の端から泡が漏れているその姿は完全に正気を失っていた。
 彩羽は反射的に銃を向けるが、一瞬考えて銃を収める。
「さすがに撃つのはまずいわね」
「ぎいいいいいいいいいぃいいいいいいいいいいいいいい!!!」
 悲鳴とも怒鳴り声ともつかない複雑な雄たけびを上げながら、村人たちはデタラメに武器を振り回す。
 その動きに統率は無く、隙だらけの攻撃を彩羽はダンスでも踊るように回避しているが、ひとたび攻撃に転じたらその隙をつかれて袋だたきにされるのは目に見えているのでこちらからも手が出せないでいた。
(素十素! 村人たち処理は任せるわ)
 彩羽はパートナーの夜愚 素十素(よぐ・そとうす)に声をかける。
「う〜分かってるよ……うるさいなぁ……」
 素十素は眠たそうに目を擦りながらテレパシーの返事を普通に言葉で返す。
「素十素ちゃんは眠いんだよ……みんなも革命なんかどうでもいいから……眠っちゃえ〜……」
 意識が覚醒しているのか危うい語気で素十素は村人たちに向けてヒプノシスを使う。
 村人たちの血走った目は眠気で潤み、ゆっくりまぶたが落ちてそのまま地面に腰を下ろして眠りについた。
「そうそう……寝るのは一番だよ、というわけで素十素ちゃんも……」
(いいから、さっさと革命軍も片づけるわよ)
「ああ〜……寝かせてよ〜……」
 彩羽は素十素を引きづりながら戦場をかけていった。



「全員作戦通りに動いているみたいだな」
 武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)はコマンデーアティーガーで他のメンバーを連れながら回りこむように空を飛んでいた。
 下方の様子を見ながら幸祐は楽しそうに笑みを浮かべる。
 誰もこの騒ぎの裏で何が行われているかも知らないで目の前の敵に躍起になっているのに、その行動が自分たちの状況を悪くしてるのにと思うと酷く革命軍の兵士たちが滑稽に見えたのだ。
「よし……ここなら大丈夫だろう……」
 幸祐はコマンデーアティーガーに乗って、指令本部の屋上に着陸すると、他のメンバーを降ろした。
「それじゃあ、手はず通り頼むぞ。全員ハーメルンの笛の対策は忘れないように」
 メンバーはみな一様に頷くと幸祐も合わせて首肯する。
「じゃあよろしく頼む。くれぐれも気をつけてくれ」
 幸祐はメンバーを送り出すとローデリヒ・エーヴェルブルグ(ろーでりひ・えーう゛ぇるぶるぐ)を見る。
「ローデリヒ、始めてくれ」
「ええ、分かっていますとも」
 ローデリヒはニッコリと笑顔を見せると、素早くグランドピアノ設置してみせる。
「本当に音を聞かずにピアノは弾けるのか?」
「疑っているんですか?」
「まあ……そうなるな」
「耳が聞こえなくても栄光を手にした音楽家は存在しますからね……まあ、前例があればなんとかなるでしょう」
「……ひょっとして、今のは自分もベートーヴェン並みの実力があるという自慢か?」
「いえいえ、とんでもない」
 ローデリヒはニッコリと微笑んで見せて、
「では、始めます」
 自身の耳に栓をすると、ゆっくりとピアノの澄んだ音色が辺りに響き始める。
「これでハーメルンの音色にも少しは抵抗できるだろう」
 幸祐はローデリヒの奏でる旋律に耳を澄ませながら下の広場で行われている争いに目を向ける。
「……さて、どう出るかな?」
 幸祐は耳栓をしながら、これから始まる出来事に胸を躍らせてニイッと笑みを浮かべた。