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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

リアクション

 平原を占有する呂布との戦いは続く。こいつを何とかこの場から退けないと先にも進めない。
 いくら陳宮が計略に優れているとはいえ、呂布が率いて士気も最高潮の軍勢を自分たちだけで圧倒するのは難しい。
「あの軍師の率いる戦力と同調できれば事は優位に運ぶぜ!」
 すでに二つの勢力がぶつかり合っているのを見て、遅れてはならじと突入してきた部隊があった。
「避けるなよ、いい気持ちにしてやるからよ!」
 シャンバラ軍として1000の軍勢を率いて飛び入り参加したのは、猿渡 剛利(さわたり・たけとし)だ。
 彼の率いる部隊は、銃装騎兵『ドラグナー』。一見騎馬隊だが、能力的には歩兵ユニットである。だからといって負けてはいられない。
 騎兵としての機動力を活かしての馬上射撃からの一撃離脱戦法で翻弄しようと試みる。彼は、騎馬にまたがったまま鉄砲をぶっ放した。そしてすかさず馬を翻し自軍の後ろに回りこむ。
 鉄砲攻撃で一瞬驚いた呂布軍に、剛利は騎馬隊を突撃させた。たちまちにして激しい戦闘の輪が広がる。
 これはカラコール戦術。敵軍に騎馬で接近し、馬上で射撃をした後に半回転して後方へ下がるという、中世ヨーロッパで一時期流行った戦法だった。
 精強とはいえ、歩兵ばかりの呂布軍に風穴を開けるのには適していたようだった。剛利の軍勢は上手く優位な地位を陣取り、敵軍を引っ掻き回す。
「後ろばっかり気にしていたら、少し出遅れたか?」
 時ほぼ同じくして、平原に向けて兵を出撃させていた氷室 カイ(ひむろ・かい)が、呂布の軍団に攻撃を仕掛けていた。
 呂布の武威を借りて猛然と突き進んでくる敵歩兵軍団を迎え撃てるよう、彼はスキル【ゴッドスピード】で敏捷力を高めてある。とにかく兵力が限られているので、わずかたりとも無駄にはできない。最前線に出て少しでも被害が出無いように、カイは正面に立ち、真っ先に敵陣に斬り込んでいく。
 その勇猛果敢な戦いぶりに、兵士たちも勇気付けられ呂布の軍団を相手に怯むことなく激突する。
 後方支援に徹してしているパートナーの氷室 渚(ひむろ・なぎさ)が【弾幕援護】や【歴戦の戦術】で能力を高めてくれているのもあって、戦況は悪くなかった。
 軍団の総指揮官として絶妙の用兵を見せるのは、サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)だ。カイの【ゴッドスピード】で落ちた防御力を補う為に【ディフェンスシフト】を施し、300ずつに分けた小部隊を両翼に配置した、小規模の鶴翼の陣で呂布軍の勢いを押さえ込めようとしていた。
「こっちへ来ました、呂布が……」
 その軍勢の波が真ん中から割れ、呂布がゆっくりと赤兎馬の歩みを進めてきた。新たな敵を見つけた呂布の視線が、一人の騎士に向けられる。
「やらないか」
「変な意味じゃないですよね」
 じっとこちらを見つめる呂布の言葉に答えたのは、剛利のパートナーの騎士心公 エリゴール(きししんこう・えりごーる)だ。 
 騎士心公エリゴールは兵士たちと戦いながら様子を見ており、戦況が膠着したとこで名乗り出ようと思っていたのだが、まさか向こうから声をかけてくるとは。だが、こんなチャンスはもうない。すぐさま名乗りを上げる。
「やぁやぁ我こそはソロモン72柱が1柱エリゴールなり! 呂布よ、貴公に一騎討ちを申し込む!」
 騎馬を操り槍を掲げる騎士心公エリゴールに、呂布はニヤリと笑みを浮かべて頷く。あごをしゃくりながら挑発してきた。
「場所を変えよう。ここは狭い」
「……一騎打ちを受けていただき、ありがたいです」
「それはいいのだが。……いいのかい、ほいほいついてきちまって。俺は相手が誰でも平気で食っちまうんだぜ」
「いや、ですからあの……。貴公……呂布です、よね?」
「見てのとおりの呂布奉先!」
「一騎打ちの勝負に応じてくれるのですよね?」
「もちろん。……ところで、俺の方天画戟を見てくれ。こいつをどう思う?」
「すごく……大きいです」
 いったい自分は何を言っているのだろう、騎士心公エリゴールは一瞬呂布のペースに飲まれかけたが、すぐに気を取り直し仕切りなおす。
「では、参ります!」
 一度やってみたかったのだ。小細工なしで真正面からのランス・チャージ。騎馬で勢いをつけ、そのままの威力で敵を槍で貫くのだ。
 槍突撃こそが騎士の華。騎士心公エリゴールは馬を翻し、迷うことなく助走をつけ始める。かなり離れたところで向き直ると、呂布はその場から動かずにいた。じっと見ている。受けてたってくれるらしい。
「やああああああっっ!」
 騎士心公エリゴールは太い突撃槍(ランス)を構え、そのまま全力で突進した。それを見て、呂布も赤兎馬を走らせた。二人は至近距離まで近づいて……。
 呂布はよけなかった。ドン! と衝撃音が響き渡って、騎士心公エリゴールのランスが呂布の腹部にまともに突き刺さった。
「……やりました! か……?」
 手ごたえからわかる改心の一撃に、騎士心公エリゴールは鳥肌が立つのがわかった。呂布に、勝った……?
 短い間だったがすごい勝負だった。これ以上ない攻撃に、正面から受けてたってくれた呂布。満足だ……。
「……」
 騎士心公エリゴールの身体がぐらりと傾いた。呂布の攻撃も的確に命中していたのだ。方天画戟が鎧の上から肩口に斬り刺さって胸の近くまで刃物がめり込んでいた。鮮血が噴出する。
「ぐふっ……!」
 騎士心公エリゴールはゆっくりと騎馬から崩れ落ち、倒れた。操り手のいなくなった馬がいななく。
「……いい突きだ。ちょっと感じちまったぜ」
 ズボリ、と呂布は自分に突き刺さっていたランスを引き抜く。まともに食らって平気とは、ものすごい生命力だった。
 勝負は終わった、と彼は赤兎馬を再び戦場へと向きなおさせる。
「……やっちまったな。ちょっと出遅れるとこれだ。まるで俺が呂布が弱るのを待っていたみたいじゃねえか」
 残念そうな表情で呂布に近づいてきたのは、カイだった。
「一騎当千と謳われた猛将と闘えるのを楽しみに待っていたのに。少し目を離しているうちに、手負いになってやがる」
【ロイヤルソード】を両手持ちのカイは、全力フルパワーの呂布と戦いたかったと舌打ちする。
「次はお前か。……心配するな。ダメージは受けたが戦闘能力は変わっていない」
 呂布は不適に笑う。やせ我慢している様子もなかった。本当に、まだ支障なくうごけるらしい。
「兵の運用は私に任せて、貴公は安心して戦ってきてください。万一の時には、骨くらいは拾ってあげます」
 サー・ベディヴィアの力強い笑みに、渚が真顔で突っ込んでくる。
「……なんて応援の仕方をするのよ。新婚早々未亡人なんて、私絶対イヤだからね!」
「……」
 カイは口を開くことなく呂布と相対した。
 噂どおりの存在感。ビリビリと空気を振るわせるほどの殺気が、ダイレクトに伝わってくる。カイは口元に小さく笑みを浮かべた。
「そうこなきゃな」
 カイは遠慮なく呂布に挑みかかる。
 互いに譲らず、打ち合うことしばし……。
「……ふむ。まあまあだな」
 呂布は、カイと闘いながらも特に表情を変えることなく反撃してくる。
「そんなもんか、お前? 俺はまだ余力を残しているんだぞ」
「……なるほど、こいつは強い。ゲームで言えば、LV最高、ステータスマックスのチートキャラみたいなものか……」
 いったん間合いを取って仕切りなおすカイ。かなり強力なスキル攻撃を放ったが、呂布はまだぜんぜん倒れる様子はなかった。
(後ろには護るべき仲間たちもいるし、負けるわけにはいかないんだが、さて、どうするか……)
「あまり無理しないでね。あなたの身体はあなたのものだけじゃないんだから」
 渚が、兵士たちも含めて【リカバリ】のスキルを使う。こちらの戦闘には参加しないが、かなり心配そうに様子を見ている。
 絶好のチャンスなのに、呂布は攻撃してこない。お前などいつでも倒せるんだぞ、といわんばかりの余裕が彼の自信を表していた。
「……回復してもらいながら、HPをコツコツ削っていくしかないか」
 カイがもう一度呂布に仕掛ける。呂布も応戦してきた。

呂布VSカイ

LIFE◇LIFE

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「呂布のライフゲージ、かなり減っているな。これなら何とかなりそうだ」
「ならねえぜ」
 強烈な一撃を振るう。

呂布VSカイ

LIFE◇LIFE

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「ぐあ、……お前、どれだけチートなんだよ! 一撃でこのダメージかよ!」
 さすがにこれはちょっと待て! とカイは突っ込む。バグの影響のせいか、ラスボスじゃないかと思うくらい呂布は強い。いや、実際そうなのかもしれないが、カイの攻撃だって当たったはずなのにダメージを与えていないのはやりすぎだ。
「独り占めはよくないな。こういう場合は、力を合わせて戦うものだ。不本意かもしれないが、俺も混ぜろよ」
 向こうで戦っていた村上義清がカイと合流する。彼女は、軍団の指揮は陳宮に任せて、もう一度呂布と対峙した。
「もう一回やろうぜ、呂布」
「まあ、いいけどさ。俺は一騎打ちにこだわっていたわけじゃないから」
 とにかく勝たねば、とカイも身構える。
「ラスボスがいると聞いてすっとんできました」
 離れたところで軍団の援護をしていたリラ・プープルロート(りら・ぷーぷるろーと)も、回復役として駆けつけてくる。
「マナー違反かもしれませんけど。……【火術】!」
 リラはカイたちが少しでも楽になるように、と一騎打ちを無視していきなりスキルを放つ。
「ふんっ!」 
 呂布は炎に包まれた、が気合だけで火を弾き飛ばす。全然効いた様子はなかった。
「う、嘘でしょう」
「な、ハンパないだろ。気持ちは嬉しいが、やはりリラは下がっていてくれ。渚と回復に徹してくれるとありがたい」
 カイはそう言うと、村上義清とともに呂布に攻撃を仕掛ける。

呂布VS義清

呂布VSカイ

LIFE◇LIFE

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「うおおおぅりゃああああああっっ!」
 呂布が、二人に全力で反撃をしてきた。かなりダメージを受けているが、武威はまったく変わらない。いや、それどころか傷を負いさらに強くなったような気がした。

呂布VS義清

呂布VSカイ

LIFE◇LIFE

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「なんだこりゃあああああっっ!」
「やばいやばい。俺たちライフ減りすぎ。気を抜いているとすぐ死ねるな、これ」
 村上義清とカイは口々に文句を言い始める。ゲームバランス最悪だった。
「そうでもないですよ。……【リカバリ】」
「私は、【歴戦の回復術】」
 渚とリラがスキルで回復させる。仲間と力をあわせて回復させながら戦えば、倒せない敵ではないだろう。
「よし、復活。こちらまでありがとう」
「これで、終わりだぜ、呂布! 俺たちは回復し続けるんだからな!」
 村上義清とカイはあきらめずに、さらに呂布と戦い続ける。
 ドドドドドドド! と強烈な呂布の反撃
「……すごいダメージ食らった」
「ふ、二人がかりの回復スキルが追いついていねぇ。やっぱりゲームバランス取れてねえぞ。テストプレイヤー出て来い!」
「私たちがテストプレイヤーみたいなものでしょ。……【リカバリ】」
「発売はさせませんけどね。……【歴戦の回復術】」
「助かった。今度こそカタをつける」
「残念だったな、呂布。回復のできないお前は、少しずつダメージを受けていくのさ!」
 カイと村上義清はすぐに元気を取り戻して、呂布との勝負を続ける。
「待って下さい。私も忘れてもらっては困りますよ。あれで死んだわけではありませんから」
 全体回復のスキルを何度か浴びたおかげで、騎士心公エリゴールも瀕死の重症から復活していた。
 先ほどと同じようにランスを構え、騎馬で助走をつけて真正面からのランス・チャージに再び挑む。
 ドドドドドドドドドドドドドド! 呂布の攻撃。
「……敵の痛恨の一撃を食らった、俺はもうだめだ……」
「もはやこれ、合戦ゲームじゃなくて、回復ありの格闘ゲームだろ。タイトル変えろよ」
「……ランスチャージ、簡単にかわされました……」
 カイと村上義清と騎士心公エリゴールが三人揃ってしょぼ〜んとする。
「【リカバリ】。……これで打ち止め」
「私もこれが最後です。……【歴戦の回復術】」
「こ、このターン(?)で倒さないと俺たちは負けってわけか」
「だ、大丈夫だ。あと少し。あと少しのダメージで呂布は倒れるはずだ」
「もう一回、助走してきます。ランスチャージ……」
 三人は必死の表情になって呂布を攻め立てる。だが、最強キャラだけ合って倒れない。敵が強いほど燃える呂布は、ますます強力になって嬉々として反撃してきた。
「うおおおぅりゃああああああっっ!」
 呂布が、吼えた。これまでにないほどに渾身の力を振るって、最後の決着をつけに来る。これに当たったら、三人とも終わりだ。
 だが、鋭いスピード。かわせない……。
「……くっ、ここまでか!」
「呂布!」
 背後から声が聞こえた。軍勢を率いて戦っていた陳宮が合戦の隙を突いてやってきたのだ。
「陳宮!」
 呂布ももう一度、懐かしそうにかつての軍師を呼ぶ。
「……あれ、何だ!?」
「……!」
 陳宮の指差した方向を呂布は見た。
「さあ、今の内ですな!」
 今度は誰も突っ込まなかった。この一瞬を逃すと、もう倒せない。
 カイと村上義清と騎士心公エリゴールの三人の猛攻撃が、呂布に命中した。
「ぐおぉぉう……」
 ダメージを受けた呂布が呻き、赤兎馬の上で硬直する。
「ぐおおおおおおおおおお!」
 最期を悟ったか、呂布は方天画戟をブンブン振り回して、三人を道連れにしようとする。全力でかわすカイたち。余裕はない。
「……覚えておけ、呂布! 俺様は、永遠にてめえのライバルだ!」
 回復スキルが向こうにまで届いていたらしい。復活した張宝が、スキル攻撃を放つ。それは狙い過たず呂布に襲い掛かった。
「がぼぉぉうっ!」
 目を見開き、ゆっくりと身体を傾ける呂布。赤兎馬が大きくいなないた。
「お前ら……、楽しかった、ぜ……」
 ズズズ〜ン! と地響きを立てて、呂布は地面に倒れ伏した。
「ふっ……、勝ったな。まあ楽勝だったぜ!」
 得意げな張宝。その胸倉を村上義清が掴みあげる。
「美味しいところだけもって行きやがって。呂布のかわりに止めを刺してやる」
「ぎゃあああああっっ!」
「さあ、塩、塩……」
 と陳宮。
 そんな彼らと同時に、呂布の兵士たちも負けを悟って散り散りに逃げていく。シャンバラ軍は追わなかった。彼らだってギリギリだったのだ。
 なんとか、勝った!
「ふう……、やっと終わったか。未亡人にならなくてよかったな。ゲームの中でも死は嫌なもんだものな」
「……バカ」
 ほっと安堵の息をつき微笑むカイに、渚がふくれた。
「……さあ、俺たちも帰って報告だぜ」
 ずっと兵士たちを率いて戦っていた剛利が、名残惜しげに戦場に視線をやりながらも身を翻す。

 かくして、平地での呂布との戦いも終わった。兵士たちはひどい消耗戦だったが、全滅は免れたようだ。
 信長の居城へと続く道のりを妨害する人物は誰も居なくなった。
 これからが、本当の戦いなのかもしれなかった。

▼張宝、戦闘不能。
▼廉軍団:1000→300
▼剛利軍団:1000→300
▼カイ軍団:1000→300


  〜〜 オートセーブ中 〜〜

『セーブに失敗しました!』