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夏の終わりのフェスティバル

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夏の終わりのフェスティバル
夏の終わりのフェスティバル 夏の終わりのフェスティバル

リアクション

 その頃、また別のテーブルにて。ルシアがバイトと聞いてやって来た神条 和麻(しんじょう・かずま)が、ルシアの接客を受けていた。
 ルシアのメイド服は和麻にとっては新鮮だった。
「すごく可愛いな……」
 と、思わず心の声が漏れるほどに。
「ん? 何か言った?」
 にっこりと笑うルシアを見た和麻の心臓が、どき、と跳ねた。

(その笑顔を護ってあげたい)と、和麻は思う。
(――けど、別にルシア自身は不幸でもないのに、どうして俺は護ってやりたいと思うんだ?)
 和麻は、目の前で無垢な笑顔を見せているルシアのことについて、一人脳内で思いを巡らせる。
(俺は、ルシアの事をどう思ってるんだ? 今、ルシアと話す時に何について話せばいいんだろう!?)
 和麻の中では、知らず知らずのうちにルシアの存在が大きくなっていた。
 メニューを注文することも忘れ、目の前にいるルシアのことをぼーっと眺めているだけになっていることにも気付かないほどに。

「どうしたの、和麻?」
 不思議に思ったルシアが、和麻の顔を覗き込んだ。その瞬間、ルシアの髪からいい匂いがふわりと香った。
「えっ!? い、いや! 何でもない!!」
 動揺した和麻は、思わず立ち上がろうとして机と椅子の間に足を引っかけた。バランスを崩した和麻を、咄嗟にルシアが支えようとする。
 しかし、和麻が身体を支えようと思わず掴んだテーブルクロスは、さっとテーブルから外れ。二人はそのまま、縺れ合うように床に倒れ込んだ。

 その時、和馬の目には、スローモーションのようにルシアの顔が、目が、鼻が、唇が映り…………。

 むにゅ。

 和麻は上体を起こした。い、今、唇に当たった柔らかい感触は――!?
 今までに和麻は偶然とはいえ、ルシアの胸に飛び込んだりルシアを押し倒してしまったりしてしまったことがあった。
 ルシア自身は特に気にしていないようだったが、これはさすがに……!!
「大丈夫?」
 和麻は呆然とするまま、自身の身体の下から見上げるルシアの視線を受けていた。

 ――下から、見上げる?

 はっ、と辺りを見回した和麻の目に、彼がルシアを押し倒したところだけを見た店員と周囲の客の視線が痛いほど突き刺さった。
「ご主人様、困ります……」
 傍で接客をしていたアイビスが、アイアンクローの体制に入る。
 その近くでは、ルシェンが「簡易更衣室なら……」と言い出しそうな、獲物を狙う目をして和麻を見ている。

 このままでは、まずい。状況を把握した和麻は、後を振り返ることなくロシアンカフェを駆け出した。
 アイビスとルシェンは、和麻を取り押さえようと後を追って店を飛び出した。

 ――とっさに駆け込んだ裏路地が袋小路になっていたことを、和麻はまだ知らない。


 その裏路地から少し離れた特設ステージ会場。出演者控え室に、藤林 エリス(ふじばやし・えりす)アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)はいた。
 エリスは空色の魔法少女衣装に変身し、アイリも魔法少女の姿に変身している。

 話は、数週間前に遡る。
 エリスは「特設ステージ出演者募集!」と書かれたチラシを持って、アイリの元を訪れた。
「真面目一辺倒のやり方じゃ、なかなか魔法少女の勧誘もうまくいかないでしょ?
 たまにはソフト面から攻めるのも必要だと思うわ」
「ソフト面?」
「そうよ。リリカル魔法少女コスチュームをプレゼントするから、あたしと一緒に特設ステージで魔法少女コンサートやりましょ!
 そうすれば、それを見て華やかなステージに憧れて魔法少女を目指したい! って女の子がきっと現れるわ!」
 アイリはチラシに目を通しながら、小さく首を捻る。
「そう上手くいくでしょうか」
「戦う魔法少女だって女の子なんだから、たまには形から入るのも大事よ?」
 それも一理あるかもしれない、と思ったアイリは、こうしてエリスの案に乗ることにしたのだった。


 かくして開催されることとなった『革命的魔法少女レッドスター☆えりりん&魔法のアイドル☆リリカルアウストラリス ジョイントコンサート』。
 ロシアンカフェ閉店後、その会場には十七夜 リオ(かなき・りお)フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)、セラとヴェロニカの四人が向かっていた。

 今朝、ロシアンカフェ開店前の控え室では、
「何でボクのメイド服、こんなに胸、強調する様なメイド服なんよ?」
「メイド服なのは聞いてたからいいけど、このネコ耳ヘアバンドは何?」
 と、割り当てられたメイド服に疑問を抱いたりもしていたリオとフェルクレールトだったが、何だかんだで今日の営業は無事終わったのだった。

 四人は、日も暮れ落ちた商店街を歩いていく。屋台などはまだ盛況なようで、まだまだ祭りの熱気は冷めそうにない。
「セラくんもヴェロニカくんも、本当にお疲れさん」
「お疲れ様」
 リオとフェルクレールトは、一日中休みなしで飛び回っていたセラとヴェロニカを心配していた。
「明日もあるんだし、あんまり飛ばしすぎちゃ駄目だよ」
「ありがとう。リオも、臨時スタッフに応募してくれてありがとね」
 セラはにこりと笑う。
「んー、いや、整備用の工具新調したら、結構な額いってさ……。このままだとお財布的に厳しかったから、渡りに船だったんだよね」
「そうなんだ。フェルは、バイトでもらったお金で買いたいものとかあるの?」
 ヴェロニカがフェルクレールトに問いかける。
「ん、抹茶アイス食べたい」
「それなら、帰りに『わだつみ』に寄っていこうよ。限定アイスクリームはさすがに売り切れてるだろうけど、ぎりぎり飛び込めるかもしれないし」

 四人の辿り着いた特設ステージ会場は、既に熱狂していた。
「まだまだ、行っくわよー!!!」
 歓声を受けるエリスこと、えりりんと、アイリこと、リリカルアウストラリス。
 二人のコンサートは、まだまだ始まったばかりだ。

 イーストエリアフェスティバル初日は、こうして過ぎて行ったのだった。