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カウント・トゥ・デストラクション

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◆序◆

『本日のシャンバラ地方は晴れ。絶好の洗濯日和になるでしょう・・・・・・』
 空京の空を、映像パネルに気象予報を映した飛行船が飛んでゆく。ニュースが伝えるとおり、風こそやや冷たいものの、穏やかな陽射しが街をてらし、街は移りゆく季節に合せた催し物が開かれている。空京の人々はゆっくりとした時間を過ごしていた。
「・・・・・・パパー、まっくろなくもだよー?」
 マンションのベランダで遊んでいた子供が、空の一点を指して言う。
「なに言ってるんだ。こんないい天気に、黒い雲なんて・・・・・・あれ・・・・・・?」
 子供を抱き上げた父親の顔が、怪訝なものに変わった。確かに、蒼い空のはじに黒い雲が見えたのだ。
 それも、ただ浮かんでいるのではない。まるで渦を巻くかのように、ゆっくりと、確実に広がってきている。他の場所でも異変に気付いた人々が空を指し、なにごとかと話し合っていた。
「おかしいな、今日の予報は晴れのはずなのに・・・・・・あっちは大荒野?・・・・・・いや、イルミンスールの森・・・・・・かな」
 なにか嫌な予感がして、彼は子供を抱き上げる。
「よし、じゃあ今日はパパと積み木をしよう」
「ぁーい! つみきつみきー!」
 ベランダを閉めて家のなかに戻るまえに、彼はもう一度外を振り向いた。
 空京の街に、冷たい風が吹きはじめていた。

*  *  *

◆第1章 古代遺跡の謎を暴け!◆

 遺跡の異変が確認されて、すでに数時間が経過している。多くの人間が集まって事件解決に乗りだす時間としては短いほうだが、今回ばかりはどれだけ急いでも足りることはない。なにせ、遺跡の内部のエネルギーは増大し続けているのだ。
「ふーむ、古王朝時代に使われていた武器とは一致しない、か」
 現場からやや離れたイルミンスール魔法学園。大図書館の机に蔵書を積みあげて、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)は溜息をついた。遺跡の異常を止めるためのカギと思われる剣状の出土品から再封印の方法を探しているのだが、今のところ手がかりがない。
「羽純さ〜ん、何か手がかり見つかりましたか〜?」
 隣の机から、ひょこっとホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が顔をのぞかせる。彼女もまた、羽純と共に図書館の資料からヒントを得ようとしていた。
「そなたは何かみつかったか?」
「遺跡の場所なんですけど、古王朝時代には鏖殺寺院の拠点がいくつか有ったところみたいです〜」
「・・・・・・鏖殺寺院の拠点か。それは気になるな」
「おぉ、甚五郎。そちらは何か収穫があった?」
 二人の間を割って顔を出した夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は首を横に振った。
「いや、危険なものを封じるための遺跡についてエンデルフィアさんといろいろ調べてみたのだが、同時代の封印施設は全く形状が異なるのだ・・・・・・くそぅ、何が足りない? 気合いか? まだ気合いが足らんのか!?」
「・・・・・・いや、気合いではなく情報だと思うがの」
「図書館内はお静かに、です〜」
 緊急時でも変わらぬ気合いを見せる甚五郎。・・・・・・と、その後ろから金髪の少女がひょこっと顔を出す。
「えと、さっきの話、もう一度聞かせて頂いてもよいでしょうか?」
そう言ってリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は奥の区画から持ってきたのであろう分厚い古書の束を机に下ろす。
「図書館内はお静かに、です?」
「いえ、その前です」
「気合いか!?」
「ぇえと、もうちょっと前、です」
「・・・・・・む、鏖殺寺院の拠点、かの?」
「そう、そうです! もしかしたら、少し考え違いをしていたのかもしれないって、思って」
 そう言ってリースはホリィの広げていた地図を手にとる。
「わたし、いつもお師匠さまから“発想の転換は大事だぞ”と言われているんです。なぜ、イルミンスールとヴァイシャリーに近い場所に遺跡があるのでしょうか? 私たちは無意識に遺跡は王朝が立てたもので“危険なものを封印するための施設”だと思い込んでいました。でも、逆に考えてみると・・・・・・」
「そうか!」
 甚五郎が得心がいったとばかりに叫ぶ。
「イルミンスールとヴァイシャリーを攻めるための“前線基地”だとすれば、この遺跡の形状が他の封印遺跡とちがうことに理由がつくぞ! ・・・・・・しかし、破壊せずに封印しなければならんかったとは、一体どんな理由があったのだろうか?」
「いくつか推察はできますけど・・・・・・あ、お師匠様から連絡です」
「おぉ、エンデルフィアさんの師匠殿か。挨拶せねばいかんな」
 リースが端末を取り出し、画像を映し出す。
 そこに現われたのは、片眼鏡(モノクル)を付けた純白の鳥・・・・・・ハトだ。
「・・・・・・ハト?」
「左様、ハトに見えるじゃろう。しかし我が輩はリースの師であり騎士でもある、アンドレアルフスと申す者」
アガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)は、どんなときでも紳士然とした態度を崩さない。
「・・・・・・お、おぉ、これはとんだ失礼を。わしは夜刀神 甚五郎と申します。アンドレアルフス殿は・・・・・・もしかして、遺跡の中に?」
「うむ。色々と事情があって、調査隊と同行しておったのじゃ。して、リースよ、何か有益な情報は得たかの?」
「お師匠様、そちらから遺跡内部の映像を送ってもらって良いですか? 突入した方々からも送られて来ているんですが、お師匠様ならキーになる場所を絞って見せてくれるかな・・・・・・って」
 ややあって、画面が遺跡の内部と思われる壁面を映し出す。それは巨大な竜と風化した古代文字だ。
「我が輩も、これが気になってな。周囲の文字より、ここが重要な箇所だろうとはアタりを付けられたのだが、ゆっくり見回る余裕がなくては流石に解読するのも無理じゃった」
「ふむ・・・・・・この画像データがあれば。勇!」
「やや、僕の出番ですね」
 隣でキーボードを叩いていたツンツン頭の少年が立ち上がる。阿部 勇(あべ・いさむ)はインターネットを駆使して情報の収集を行っていた。もちろん未発掘の遺跡のデータがインターネット上にあるはずもなく、なかなか進んでいなかったのだが。
「お、遺跡内の画像ですか。遺跡そのものは無理でも、空京大学や他の学校のデータベースで公開されている、過去発掘された遺跡の情報と照し合わせれば、これが何に関係している遺跡なのかは分かるかもしれません。古代文化に詳しい人たちとも繋がってますし、そう時間はかかりませんよ」
 転送されたデータを取り込み、ネット―ワーク上にアップする。
 そして数分。
 はじき出された答えに、その場の全員の顔色が変わった。
「・・・・・・闇龍・・・・・・か! 流石に本体ではなく欠片なのでしょうが、下手に施設を壊せなかったわけですよ!」
「・・・・・・ど、どどどうしましょう、お師匠様!?」
 涙目になるリースに向け、画面の奥からアガレスが穏やかに話しかける。
「まず、貴公らが落ち着くことじゃ。既に遺跡へ入ってきている者たちが居るのであろう? まずは彼らに遺跡の役割を教えること。剣の出土品は、恐らく闇龍の解放を止める“楔”のようなものじゃろう。正しく用いなければ作動はすまい」
 羽純とホリィが顔を見合わせて頷く。
「遺跡の中心には、剣とセットになっている封印器があるはず、です?」
「なるほど。剣はスペアだった、というわけだな」
 甚五郎が掌と拳を打ち合わせた。
「よし、これで調べることが絞り込めた。わしらは古王朝が闇龍の力を押さえるためにつかった道具について調べるとしよう!」
「うむ、貴公らの分析が我が輩や調査隊の皆、そして多くの人命を左右する。頼むぞ」
「はいっ、頑張ります、お師匠様!」
 予想以上の大きな危機。しかしやるべき事が明確となり甚五郎やリースたちに気力が満ちる。
「気合いだ! 気合いで乗り越えるぞ!」
「「「おーーーっ!!!」」」

 *  *  *