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トキメキ仮装舞踏会

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トキメキ仮装舞踏会

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5 行動開始

「もういやーーーーーーーー」
 夢美は、お皿とタワシを手に叫びました。
「私は皿洗いのためにここに来たんじゃないわよ! やってられないわ!」
 そして、ゴミを運ぶふりをして台所から抜け出し、会場に向かって走り出しました。
 ところが、広間にたどり着くと、そこに例の女中頭がムチを片手に立っています。
 入り口は一つしかないので、入る事ができません。
「なぜ、そこまで? 私があの人に一体何かしたというの?」
 もし、何かをしたとすれば前世でしょう。
 しかたなく、夢美は屋敷から出て、バルコニーから広間に忍び込む事にしました。
 が、しかし。
「いやあああん。バルコニーに手が届かない」
 夢美は手を伸ばしてぴょんぴょんはねながら叫びました。
 二階だから、当たり前です。
「仕方ない。この木を上って枝伝いにバルコニーに入りましょう」
 そして、夢美は近くにあった木に手をかけよじよじと登り始めました。
 が、しかし。
「いやああああん。つるつるすべって登れない」
 木の幹がつるつるすぎて登れません。
 その時、誰かの足音がしました。
 まさか、あの女中頭では?
 夢美はとっさにそこから逃げ出しましたが、慌てすぎてかえって目立つところに出てしまいました。
「?」
 足音の主は不審に思ったのか、どんどん夢美に近づいてきます。
「いやあああああん。隠れるところ、隠れるところ……」
 うろうろする夢美。しかし、ついに背中を叩かれてしまいます。
「何してるの?」
「きゃん!」
 振り返ると、そこには仁科 姫月(にしな・ひめき)成田 樹彦(なりた・たつひこ)が立っていました。
 夢美は、手で、鼻をブタ鼻にして言いました。
「ごめんなさい、つかまえないで。オイラは、怪しいものじゃないピロリン!」
 夢美は正体を隠すために、語尾に『ピロリン』とつけてみました。
「どうか逃がしてくれピロリン」
 そういうと横走りで逃げようとします。
 怪しさ満載です。
「まてよ。どうして逃げるんだよ」
 樹彦が進行方向に回り込んでたずねました。
「逃げるなんて、かえって怪しいぜ」
「本当に、怪しいものじゃないピロリン。オイラはただの一般参加者だピロリン。それが、こんな衣装を着てきてしまったために女中と間違えられてあのオニババに捕まってしまのだピロリン」
「?」
 姫月と樹彦は顔を見合わせました。
 二人からすれば、パーティーに疲れて外に出たら、何やら怪しい動きをしている夢美をたまたま発見しただけなのですが……。
「何があったのか知れないけど、おびえる事ないよ!」
 姫月は言いました。
「私達もただの参加者だから」
「本当ピロリンか?」
「本当だから、無理矢理キャラをつくらなくてもいいぜ(っていうか、何? そのキャラ?」
「よかったーーーー」
 夢美はその場にへたり込みました。
「それにしても、なんで、こんなところでうろうろしているの? 会場に入ればいいのに」
「それが……入りたくても入れないの」
 そう言うと、夢美はポケットからハンカチを出してさめざめと泣き始めました。
「入り口にはあの鬼ババがムチを持って立っているから」
 そういえば、会場から出てくる時に鉄面皮のような怖いおばさんがムチを持って立っていた事を思い出します。
「あの人は私が会場に入りたがっているのを知って、ああして見張っているのよ。せっかく福山君の本音を聞くチャンスだったのにーーーーー」
「福山君て?」
 姫月がたずねました。
 それで、夢美は全部説明しました。
 福山君に片思いしている事、でも、自分の事をどう思っているか分からない事。それで、本音を聞き出すクッキーを作った事等を、時々語尾にピロリンとつけながら……。
「ああ、それでか。会場が大騒ぎになってたのか」
 樹彦がうなずきます。
 会場は本音クッキーを食べた者達のおかげで、今も大騒ぎになっているのです。
「そういう事情だったんだ……」
 姫月も言いました。
「分かったよ。私が福山さんて人を探し出してここに連れて来てあげる。どんな人か教えて」
「ほ……本当に?」
 夢美は姫月の手を取り滂沱の涙を流しました。
「本当よ」
 姫月はにっこり微笑みました。
「ありがとう! これが福山君の写真よ。背が高くて、黒髪で、さわやかな声のイケメンで、うなじに星型のアザがあるから仮装をしてても分かるはず」
「分かった! 探して来るからここで待っててね」
 写真を受け取ると、姫月は駆け出しました。
 すると、
「他人の恋を応援している暇があったら、自分の相手を探せばいいのに。せっかくの舞踏会なんだから」
 樹彦がぼそっと言います。
「うっさい、このバカ!」
 姫月は樹彦を蹴っ飛ばすと、怒りながら探しに向かいました。
(まったく。少しは私の気持ちを察しなさいよ、バカ樹彦。外見だけじゃなく、鈍感まで兄貴に似なくていいじゃない)と思いながら……。