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さよならを言わせて

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「あーもーぉ、イライラするっ。霧のお陰で、全っ然まわりが見えないじゃないっ」
「マーガレットったら、落ち着きましょう。そこに植わさってる垣根さんの話だと、この先のT字路垣根を右折すれば、中央広場に抜けるんですって」
「ちょっとソレどこの草が言ってるの? ホントかしら? 大丈夫なのっ?」
「えっ、えっとお、たぶん、平気……のはず。草木に悪い人――ヒトじゃないけど――なんて、居ないんですっ」
 このピリピリとした空気を維持しているのが、マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)。彼女の迫力に圧され気味なのが、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)だ。
 彼女たちから少し離れたところで辺りの気配に注意しているのが、ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)という若いドラゴニュートだ。
「おいリースにマーガレット、もうちょっと静かにしてられねーのかよ」
「うるっさいなあ、サボってないであたしよりも先を進んだらどうなのっ」
「あのなあ、お嬢ちゃんのバカでっかい声に、どれだけのモンスターが吸い寄せられてきてると思ってんだ」
「あたしのせいじゃないもん。文句があるなら、リースの頭の上でのーのーと光ってるアガレスをまず責めなさいったら」
「こいつぁ、とんだとばっちりを被ってしもうた様じゃなっ」
「いくら光属性が神々しいからって、そんなにピカピカ輝いてたらダメでしょ? 標的はここでーすっ、ってお知らせしてるのと一緒じゃないっ」
「そっ、そうかなあ……ふふふっ」
 両手でかかえた書物で口元を覆うようにして微笑むリースは、頭上を漂っているお師匠様――アガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)という、白い鳩の姿をした英霊――を見上げた。
「案ずるでない。我輩の行く手を阻む不埒な輩には、キツい裁きの鉄槌を下さんっ。天空より神聖なる光を呼び寄せて、諸悪の一切を跡形も無く滅してやろうぞ」
 そういった矢先の出来事だった。
「おいリース、後ろから何かが来るぜ」
 しんがりのナディムがリースに追いついたところで、彼の脚にうす汚れた包帯が伸びて巻き付いた。グイと引っ張られて、それ以上の前進が出来なくなる。
「おおっと危ねえっ」
 女王のソードブレイカーを引き抜いてスッパリと包帯を断ち切ったナディムは、今度は小刀を握る腕を取られて上体が引っ張られた。
「心配めさるな」
 アガレスの眩く輝いた翼が包帯を断ち切った。更に深い霧に覆われて灰色の空の一帯が裂け、一条の光が差し込んだ。その光は包帯を放った主であるマミーの身体を焼き払っていく。
「助かるぜ爺さんっ。まだまだいっぱい押し寄せてくるぜ」
「そっ、それじゃあ、みんなで中央庭園と呼ばれる場所へ向かいましょう」
 手持ちの武器を超賢者の杖に持ち替えたリースは、みんなを率いて回廊を右手に進み、中央庭園へ抜け出ることに成功した。
 そこには大きな広葉樹が茂っており、その周りにベンチなどが置かれてお茶会などが開けるようになっていた。
 もっとも、今ではその大半がなぎ倒されて酷い有様のようだが。
「ちょっとちょっと、リースったら。あたしたち追い詰められちゃってない?」
 風術で辺りに立ち籠めた重苦しいモヤモヤを吹き飛ばしたマーガレットは、リースと共に木陰に逃げ込んでいた。
 空からはジャイアントバッドが飛来し、中央広場はあっという間にアンデッドを招いたお茶会の様相を呈していた。
「さあ、どこからでも掛かってくるがよいぞ」
「いったいどういうつもりだっての」
 朽ちた身体をぞろりと引きずるようにして迫るアンデッドの群れに、リースは杖を頭上に掲げて身をかばうような格好になる。ナディムはするすると広葉樹へと登ると、生み出した描天我弓を引き絞って迎撃態勢をとった。
「いきますっ、ブリザードっ!」
 リースが杖を振り下ろすと、真っ白な冷気が地面を放射状に広がってアンデッドらの足下を一斉に凍り付かせた。
「空の方はぜんぜん凍ってないじゃないのっ」
 マーガレットの舞い降りる死の翼で、次々とジャイアントバッドが墜落していった。大地に転がった者は即座に凍り付いて動かなくなっていく。
「そーらそら、まとめて地面の下へ還りな」
 マーガレットの撃ち漏らしたジャイアントバッドは、描天我弓によって次々と射落とされていった。
 広場につなぎ止められたままのアンデッドは、アガレスの放つライトブリンガーで一体ずつ確実に粉砕されていく。
 しかし、アンデッドの襲来は留まるところを知らないようだが……。

▼△▼△▼△▼


「誰かが戦っている……引き返しましょう。いっくよ、きょーちゃん、アイリっ」
「了解ですー」
「はい、急ぎましょうっ」
 洋館のポーチにたどり着いた藤林 エリス(ふじばやし・えりす)ら一行は、幾何学庭園の中央広場においてリース達に襲いかかる禍々しい気配を関知した。

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「いつまで経っても終わりませんね」
 ウィッチクラフトの秘儀書をパラパラとめくりながら、リースは司書のメガネをかけ直した。
「ホッホッホッ……360度、全方位から隙間なく押しかけられると、腕の振るい甲斐があるというものじゃ」
「爺さんに腕なんてないだろ」
「頃合いを見計らったら、館の方へ突撃よねっ」
 マーガレットがフルムーンシールドでマミーの包帯をやり過ごしたとき、辺りを徘徊するアンデッドが一条の光によって焼き払われた。
「愛と正義と平等の名の下に! 人民の敵は粛清よ!」
 エリスの魔砲ステッキから放たれる光撃が、木陰までの突破口を開いた。
「ありがとうございますっ、助かりました」
「大丈夫ですかっ。後は私たちに任せてくださいっ」
 そういってリースとアンデッドの間に立ちはだかったのは、エリスを筆頭にパートナーの“きょーちゃん”こと魔道書マルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)だ。
「アイリ、きょーちゃん、行くわよっ!」
「はい!」
「おーっ! 同志諸氏っ」
 新たなモンスターが迫り来るのを目前に、エリスは魔砲ステッキ、きょーちゃんはシェリエの杖、アイリは魔法のタクトをふり上げて、それぞれを互いに交差させた。

「「「 変身! 」」」

 眩い光に包まれたエリスたちは、それぞれのコスチュームにその身体を包み込まれていく。更にエリスとアイリはアルティメットフォームの発現によって、魔法少女として最も理想的な心と身体へと成長を遂げていった。

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 エリス『愛と正義と平等の名の下に! 人民の敵は粛清よ!
     革命的魔法少女、レッドスター☆えりりん!』

 きょー『禁断の赤き魔道書!
     魔法少女、ミラクル☆きょーちゃん!』

 アイリ『魔法少女、アウストラリスっ!! 見参!』

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「アウストラリス、気持ち悪い不死どもにお仕置きよっ」
「ええ。ここは、えりりん、きょーちゃん、3人で力を合わせて決着を付けましょう」
「そうですね。戦いの舞台はローゼン卿の館へと続くのですから」
 魔法少女の3人は示し合わせたかのように空を仰いで、魔法ステッキを胸の前で構えた。

「「「遍く天の星屑よ、我らが正義の名において、その身を躍らせ、蔓延る悪を、打ち砕けえっ!!」」」

 呼吸の合った3人は、ステッキを天に掲げて力を解放する。

 エリス『シューティングスター☆彡』
 きょー『シューティングスター☆彡』
 アイリ『シューティングスター☆彡』

 えりりん、きょーちゃん、アウストラリスから放たれた光の柱が、霧ともやで灰色に染まった空を切り裂いた。地平に滞留していた霧やもやも、圧倒的な魔法力に弾かれて吹き飛んでしまった。
 まだ日中であるにもかかわらず、くすみひとつない満天の星を仰ぎみられるようになると、キラキラと七色に輝く涙粒が、雨あられの様にローゼン卿の幾何学庭園へと降りそそぐ。
 あたり一帯の至るところから、アンデッドらの断末魔があがった。えりりんたちが呼び寄せた魔法の星屑によって、悪しきものたちの命だけが削られていくのである。
「「「やったあーっ!!」」」
 やがてあたり一帯から悪しき気配が消え去ったとき、変身を解いたエリスたちは、肩を抱き合って喜びを分かち合うのだった。
 これによって戦力は、洋館の中へと集中されることになる。
 シューティングスター☆彡によってまき散らされた魔法の星屑によって、幾何学庭園は、輝くじゅうたんを敷き詰めたようになっていた。