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★第七話「こうして祭りは守られる」★



「わざわざ時間を作っていただいて、ありがとうございます」
「ああ、別に気にするな」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が申し訳なさそうに言うと、長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)は軽い口調で首を振った。
 2人は今、ローズの建てた『ローズのアトリエ』へ来ていた。診療所兼薬屋であり、創世学園医学部の生徒を受け入れている。
「長曽禰さんに是非一度来てもらいたかったんです。
 ここは創世学園医学部の生徒の為にと作ったもので、教師としての活動第一歩のようなものでしたから。あ、お茶どうぞ」
 ことり、とお茶をテーブルに置く。
「って、医者としても教師としても、まだまだ未熟なところはあるんですけどね。
 長曽禰さんのような、皆に親しまれる教師を目指します!」
「おう。頑張れよ。……ん? このお茶、何か入ってるか?」
 広明は目をキラキラさせて自分のような、を強調するローズに苦笑しつつお茶を一口飲み、普通のお茶と違うことに気づいた。
「あ、気づかれました? お店で育てた薬草で作ってみたんです。疲労回復に効くんですよ。あとこのお菓子とよく合いますし」
「たしかに美味いな」
 感心した声に、ローズは頬を染めて喜ぶ。広明はローズにとって、人として教師として尊敬している人物だ。加えて最近は、他にも気にする理由が芽生え始めているが……尊敬する相手に褒められるのは、とても嬉しい。
「と、それはいいとして、湿布や目薬、冷えピタ、今お出しした薬草茶の茶葉をお土産に包みますね」
「おいおい。そんなにいいのか?」
「はい! 長曽禰さんにはいつも元気でいてほしいですから!
 じゃないと私が元気じゃなくなりますよ」
「そりゃ倒れてらんねーな。ありがとな」
「絶対ですよ!」
 そう頭をなでられ、ローズは幸せそうに微笑んだ。



 祭りの中に響く悲鳴! 暴れるスッポンと魚! 荒らされる露店、街。
 ああ。アガルタの祭りはここで終わってしまうのかー。

「待ちなさい!」
「あとは正義の魔法少女部隊に任せて☆」
 声を発した藤林 エリス(ふじばやし・えりす)アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)は魔法少女へと変身。同時に放ったさーちあんどですとろいでこんがり焼きあげる。
「エリスさん! 後ろです」
「ええ、分かってるわ」
 だがそれを免れた魚が口を開けてエリスに迫る。エリスは杖を振り回す。それは一見、ただ振っただけに思われたが、瞬きをした次の瞬間には魚がぴくぴくと地面の上で痙攣していた。
 そしてアイリはまた別のスッポンを杖で殴っていた。
「ふぅっ。まったく。これで何匹目かしら」
「……ええ。はい……はい。分かりました。すぐに向かいます」
「どうかしたの?」
「暴れている方がおられるそうです」
「まったく。普通に祭りを楽しめないのかしら」
 エリスはアイリからの話に呆れつつ、目は真剣だ。アイリを振り返り、頷く。
「さ、行くわよ、アイリ」
「はい!」
 アガルタ祭りが、ハプニングを起こしつつも平和を保てているのは、こうしてそれを保とうとしてくれている人たちのおかげだった。
 ほんとありがとうございます。

「……お疲れ」
「お疲れ様です」
 そうして休憩時間に入った2人は、笑顔で互いをねぎらう。
「そういえば、最近サウナができたそうよ。行ってみない?」
「まあそれは……ええ、ぜひ」
 魔法少女としてのコスチュームを脱げば、どこにでもいる少女たちがそこに現れる。しかしひとたび悪が現れた時は、2人は魔法少女となり協力して打ち倒すのだ。
「これからもよろしくね、アイリ」
「こちらこそ」
 2人はサウナへと向かい、絆を深めていくのだった。



 サウナを思い切り満喫した後、アイリは柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)と街を歩いていた。のんびり。戦いなど関係の無い街中を歩く。
「いやー。たまにはこんな一日も悪くないな」
「そうですね」
 無骨な茶色い天井を見上げながら身体を伸ばす。
(ここ最近は開拓やら何やらで忙しかったし、のんびりお祭りを楽しんでも良いだろ。アイリはさっきまで警備に回ってたみたいだが)
「あちらに輪投げがありますね」
「そうだな」
「さあ、やりましょうか」
「え? おい」
 恭也は苦笑しつつも、祭りの空気に浸る。特に何をせずとも、祭りの空気と言うだけでも楽しいものなのだが。
 主導権など、まったく握れない。
「しゃーねえか」
 アイリの後をついて屋台へ。
「あ、そういえば運営の方に聞いたのですが、この先にとても美味しいお店があるそうです。行きませんか?」
「へぇ。そりゃ楽しみだな……ってなんで知ってんだ?」
「見回りは地形把握も必要ですし、腕章をつけてますと道も聞かれますから」
「なるほどな」
 アイリ先導で歩いている2人は、まるで似ていない兄妹のようだった。……立場上どちらが強いかについては、言及しないが。
「お父さん、あれとってー」
「よーし、任せろ」
 ふと聞こえた声にアイリが「ふふふ」と笑った。恭也もつられて見てみると、子供が父親に射的の景品をねだっているようだった。
(周りから見たら、俺たちも家族……兄妹みたいに見えてるのかもな)
「さあ、行きましょうか」
「で、どこにあるんだ? その美味しい店ってのは」
「たしか……こっちです」



「輪投げって結構難しいですね」
「そうか? コツさえつかめば簡単だと思うが」
「それは海くんだからですよ」
 杜守 柚(ともり・ゆず)高円寺 海(こうえんじ・かい)が、先ほどの輪投げについて感想を述べ合っている。
「海くんは他にどこに行きたいですか?」
「特にないな」
「そうですか……あ! 金魚すくいがありますよ。今度は負けませんからね」
 遊戯では競い合う。楽しむことが目的だが、勝負自体は真剣に。
「……くそ。あの一匹がとれていれば」
「私の勝ちですね。ふふ。この調子で露店制覇しましょう」
 破れたぽいを睨む海を、柚が笑顔で見る。その後は少しお腹が減ったので、見かけた屋台でリンゴ飴やフランクフルトを買って食べる。
「不思議ですよね」
「ん?」
「お祭りで食べると、なんだかいつもと違う美味しさを感じます」
「たしかにな」
 例え少々味が悪くても、というと屋台の人に失礼だが。普段よりもおいしく感じるのは、祭りの魔力と言うことだろう。
「お父さん、あれとってー」
「よーし、任せろ」
 その時、聞こえた声にふと視線をそらした柚は微笑ましい光景に目を細め、それから景品の1つに気づいた。 
 愛らしいクマのぬいぐるみ。
 かなり大きいので落とすのは難しいだろう。店の中で一番大きなものだったので、目玉景品らしかった。
 ついつい、射的の前に来て、お金を払ってしまっていた。
 しかし一回二回と撃っても、一行に落ちる気配がない。当たってはいるのだが。
「突然いなくなったと思ったら、こんなところにいたのか」
「すみません……あの、海くん。欲しいぬいぐるみがあるんですけど……」
「なんで俺が」
「駄目ですか?」
「う……分かった。分かったからその目はやめろ」
 海も何度か挑戦し、苦戦していたが……なんとかぬいぐるみをゲットできたのだった。
「ありがとうございます。大事にしますね」
 とても良い思い出ができたようだ。



「捕まえた食材を食べるというのも、妙な気分だな」
 食堂から出た甚五郎がそんなことを呟く。先ほど起きた『食材大脱走事件』では、甚五郎も街中を駆け回った1人だ。
「でも結構美味しかったですね」
「魚が美味かったの」
 草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)がそう言うと、甚五郎も頷く。
「そうだな。では、見回りに行くか」
 巡回を始める。大きなハプニングは他に起きていないようで、一番多いのは迷子や酔っ払いのいさかいだ。
 周囲を改めて眺めていたスワファル・ラーメ(すわふぁる・らーめ)は――先ほどは眺める余裕がなかった――「これが祭りと言う文化か」と初めて見る祭りに興味津津だった。
「むぅ。見回り。見回りじゃな」
「はーい、見回りなどのお手伝いですね〜。
 でも甚五郎、表通りだけ見て回ってもしょーが無いですよね?」
 ホリイがキラキラした目で甚五郎をみる。
「なんだ?」
「ですから、あの辺の小物屋さんとかも見ていきましょう?
 ウサギのぬいぐるみがかわいーですよ〜?」
「……ふむ。店の中を見て回るのも必要か。分かった」
「さっすが甚五郎です。話が分かりますね」
 嬉々として中へ入っていくホリイは、目当てのぬいぐるみへと向かい。甚五郎はただ厳しい目で店内を見回し、不穏な輩がいないかを確認。店員たちにも異常はないかと尋ねている。
 羽純は、というと少し気を引かれるように後ろを振り返ってから、ため息をついて店内へ。
「ん、どうした?」
「のぅ、甚五郎。気になったモノは買っても良いじゃろうか?」
「そうだな。見回りの邪魔にならなければな」
「やった! じゃあ、これ買ってきます」
 話を聞いていたホリイが喜んでレジへ。羽純はどこかもじもじとしながら、続きを話す。
「もちろん仕事には差し支えん程度に。何やらソコの小物が妾を呼んでおるのじゃ」
 ソコの小物、と指差した先はこの店の向かいにある店だった。なるほど、と頷く。
「ふむ……(折角の祭りなのだ。少しぐらいはいいだろう)……ああ、かまわない」
「そ、そうかの。では買ってくるのじゃ」
 了承を得て、羽純は笑顔でその店へと向かっていった。帰っていた時抱えていたのは小さな箱……オルゴールだった。
「しかし祭りと言うのは、中々に賑やかしいものだな。それとも普段からこうなのであろうか」
「普段も活気はあるが、この空気は祭り特有だろうな」
 スワファルは祭りの活気に驚きを隠せないようだ。
 とにもかくにも、こうして街を見回っていると

「きゃー、スリよー」

 叫び声がした。近い!
「行くぞ!」
「分かっておる」
「もうっ! 誰ですか。祭りを邪魔する不届き者は」
「祭りも中々に大変なものだな」
 すぐさま現場に駆け付け、犯人を取り押さえる。

「みな、祭りを楽しんでいる。そのためにも、わしたちがシッカリしないとな」
「こういう人たちがいなかったら、皆で祭りだけに集中できるんですけどね」
「いたしかたないことじゃな」