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紅き閃光の断末魔 ―前編―

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紅き閃光の断末魔 ―前編―

リアクション


◆大部屋◆

「私の名前は霧島 春美(きりしま・はるみ)。人の知らないことを知るのが仕事」

 春美は大部屋の惨状を前にしても、全く怖気づかずに宣言した。
 その片手には、彼女が愛用している『マジカルホームズの天眼鏡』が握られている。

「アトラスの傷跡の一件には全く関わっていない私達だけど、大体の事情は教えてもらえてよかったね」
「うんー、ボクたちも協力するよーって言ったら、いろいろ教えてもらえたもんねー」

 春美の言葉に、ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)が応じる。
 ディオネアは先ほどから設置されている機材の裏側や、ベルトコンベアの下など、低くて狭い隙間を探索している。
 【超感覚】があるうえ、彼女は身長が低いので、効率的に事が運ぶのだ。

「うんしょ、うんしょ。ちょっとー、高いとこはニャンコが見てよー」

 ニャンコと呼ばれた超 娘子(うるとら・にゃんこ)は、研究員達の死体を調べるのに忙しそうにしていた。

「む……すまぬニャ。春美に言われて、致命傷になった部分のつき方や形状を調べていたんだわ」
「そうだったんだー。何かわかったのー?」
「うーん、傷口が何故か塞がっちゃってるんだニャ。結構深い傷だと思うんニャけど、血もあまり出ていないし……」
「むむむ、本当だー。なんでだろうねー?」

 娘子の言う通り、8人の研究員全員の致命傷は、例外なく塞がれていた。
 物が詰め込まれているとかそういう訳ではなく、なんというか、溶接されているみたいな塞がれ方だった。

「春美ー。なんでだろー?」

 ディオネアは春美に助けを求めた。
 マジカルホームズである春美にとっては、これくらいの謎は朝飯前だと踏んだのだろう。
 
「ディオ、この件は結構長引きそうよ? 最初から躓いてちゃ先が思いやられますよ!」
「ううー。だってー」
「ま、今回ディオには記録の方をお願いしていたし、真実を突き止めるのは私の役目だけどね」

 そう言って春美は件の致命傷に天眼鏡を向け、じっくりと観察し始めた。
 やがて理解できたのか、すっと立ち上がり、人差し指を立てて、

「ズバリ、凶器が熱を帯びていたのでしょう! 『レーザーブレード』とかで斬りかかったら、こうなるはずよ」
「……なんでー?」
「返り血を防ぐためですよワトソン君。犯行後に市街地に逃走しても、8人分の鮮血を浴びてたらすぐ見つかっちゃうでしょ?」

 さすがというべきか、理に適った結論を的確に導き出した。
 ディオネアも納得した様子で「そっかーなるほどー」と頷いている。
 娘子の方はというと、近くに落ちている防犯カメラの残骸の傷を同じように確認していた。

「こっちも、貫かれた箇所が溶接されたみたいな、変な壊れ方だニャ」
「うんうん。きっと破壊に使われた凶器は、殺害を行ったものと同じなんでしょうね」

 また、春美はそれ以外にも気がついた点があったようで、

「セキュリティスイッチ……それ、誤発防止用のカバーが外れてるわね?」

 春美が指差した先には、1人の研究員の死体が。
 ディオネアと娘子は顔を見合わせ、娘子の方がそっとセキュリティスイッチを取り上げてみた。

「本当だニャ。確かにカバーが外れてるわね」
「他の研究員はどう?」
「あー、ちょっと待ってー! ボクが調べるー、べるー」

 ディオネアは春美の疑問に答えるべく、トコトコ歩いて次々と研究員達を調べていく。
 やがて全員分まわり終えて、報告を上げた。

「この2人のセキュリティスイッチ以外は、全部カバー外れてたよー!」
「ふむふむ、窓ガラスに一番近い2人ね。おそらくセキュリティスイッチを手にする暇もなく、殺されちゃったんでしょう」

 窓ガラスを破って実行犯が侵入してきたのなら、考えられる話である。
 またもや春美は、的確に指摘した。
 そんな中、ニャンコは窓ガラスからの距離の話題を受けて、ある疑問を抱いた。

「む、そういえば、この大部屋の研究員の死体って、ニャんで北側に偏ってるのかしら」
「……さて、なんででしょうね?」

 答えは既にわかっているけど。
 そんな表情を浮かべて、春美はチラリとディオネアの方に目線を向ける。
 ディオネアは名誉挽回のチャンスと見て、必死に頭を働かせ、

「えーと、えーと。あ、この臭いが気になってたのかもー! 北側に近づくと、なんか焦げ臭いからー」

 春美は一瞬キョトンとしたが、すぐに言っている意味を理解して話を紡ぐ。

「ああ、武器庫から漂ってくる臭いの事ね。そうそう、正解だよディオ。きっと爆音に釣られて、皆北側ゲートに寄っていたのよ」

 春美はよしよし、といった感じでディオネアの頭を撫でてやる。
 トマスのアリバイによると、事件発生時の爆発があったのは武器庫で間違いないという。
 ディオの言う臭いとは、その時に燃焼した物品の残り香だろう。
 これだけ距離が離れた大部屋でも嗅ぎ取れるのは、獣人であるディオネアだからこそである。

「後は、屋外の北都さんから捜査してほしいって要請があった、窓ガラスの破片を調べましょ」
「でも……確かにガラス片は大量に落ちてるけど、特に変わったところはないニャ?」
「フッフッフ、甘いよニャンコ。普通に叩いて割ったりしたなら、こんなに派手に飛び散ったりはしませんよ」

 見ると、ガラスがあった窓枠から見て、そのガラス片はかなり広範囲に散らばっていた。
 どうやって割られたのか、その手がかりになるかもしれない。

「ディオ、これも一緒に記録つけといてね。手がかりになるかもしれないから」
「うんー。わかったー」

 ディオネアが携帯に入力をしたところで、捜査はひと段落。
 これまで仲間達が集めてきた分も加えて、だんだんと情報も増えてきている。
 いよいよ捜査は佳境に入った、そう見てよいだろう。


■獲得情報

<室内の状況> 記録者:ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)
えっとねー。
ぐるぐる回って見てみたんだけど、室内は意外と綺麗だったよー。
刃物で斬られても、少ししか血は飛ばなかったみたい。
なんでかなって思ったら、春美が教えてくれたよー。

<研究員達の致命傷> 記録者:ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)
殺害された研究員8人は、みんな刃物による攻撃で致命傷を受けてたんだー。
でも、その致命傷は全部塞がってた。
春美が、高熱を帯びた武器で斬ると、そうなるって教えてくれた。
だからきっと、実行犯は『レーザーブレード』に似た物を凶器にしたんだと思うー。
理由は多分、返り血を浴びるのを防ぐためだって言ってたー。

<研究員達のセキュリティスイッチ> 記録者:ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)
割れた窓ガラスから一番近い、2人の研究員は違うんだけどー。
他の6人の研究員は、死ぬ直前にみんなセキュリティスイッチを押してたみたいだよー。
だって、誤発防止用のカバーが、全部取り外されてたんだ。
これを取り外す時って、セキュリティスイッチを押す時だけでしょー?
でも、教導団に送られるはずの緊急信号は、届いてなかったんだよねー。
不思議だなー。なんでだろ?

<大部屋の防犯カメラ> 記録者:超 娘子(うるとら・にゃんこ)
もともとあった情報通り、鋭利な刃物で一突きされて破損していたわ。
ただ、それで空いた穴の側面が、研究員達の致命傷と同じく溶接されたみたいになってたのよ。
つまり、研究員の殺害に使ったのと同じ凶器によって破壊されたと見て間違いないニャ!

<研究員達の死体の位置> 記録者:超 娘子(うるとら・にゃんこ)
殺害された研究員8人の死体は、全て大部屋の北側に密集していた。
春美が言うには、爆音が北側から聞こえたから、北側ゲートのほうに集まったんじゃないかって事らしいわ。
爆発を起こしたのは内部犯だと思うけれど、まさかこのためにやったのかニャ……?

<実行犯についての推論> 記録者:超 娘子(うるとら・にゃんこ)
研究員達自体には激しい抵抗の痕跡があるけど、室内はそんなに荒れていないわ。
だから、実行犯が大勢いたとは考えにくい……。
ニャけど、単独犯だとしたら、相当の腕利きだったんだと思うのよね。
北側に集まっていたとはいえ、そこから1人も逃さずに殺害して回るのはすごく難しいはずだニャ。