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Case:4 (十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)




「すっかり日が暮れちまったな」

 大物、とはいかないまでも、そこそこの魚を釣り上げ、それをその度にリリースして、と繰り返している内に、あたりはすっかり夕日の沈んだ後の闇に包まれていた。
「そろそろ切り上げるかな」
 息をついて、釣具を片付け始める敬一の耳に、ラジオの『臨時ニュースです』という声が飛び込んできた。

『ただいま、空京に”ブラッディサンタ”が姿を現したとのことです。デート中の方々は、注意を――』




 時間は、やや遡る。
 ラジオから流れてくるブラッディサンタの情報をベッドの上で聞きながら、宵一は溜息を吐き出した。と同時に、ぶあっくしょ! と盛大なくしゃみが部屋に響く。
「こんな時に、風邪を引くなんて……」
 とてもではないが、外出すら出来る状態ではない。だが、だからと言って、バウンティハンターとしてブラッディサンタを見過ごすわけには行かない。仕方ない、と宵一はリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)コアトー・アリティーヌ(こあとー・ありてぃーぬ)を交互に見やると「二人とも」と真っ直ぐ見やった。
「俺はこの通りだ……ブラッディサンタのことは、二人に任せる。いいな?」
 リイムはこくこくと力強く頷いたが、コアトーは「みゅ〜」と溜息のような鳴き声を漏らした。
「仕方ないから、手伝ってあげるね。リイムだけじゃ心配だもん☆」
「何言ってるんでふ。新入りのくせに、態度が大きいでふよ」
 むっとしたようにリイムが言ったが、コアトーはふう、と肩(?)を竦めた。むむっと眉を寄せるリイムと真正面からにらめっこのように顔をあわせつつも、こちらはまだ口元が余裕の笑みだ。
「みゅ〜。だって、ワタシのほうがお姉ちゃんだもん☆」
「僕は納得いかないでふ!」
 そんなこんな、ぎゃあぎゃあとやりながら部屋を出て行く二人を見送りながら、宵一は風邪のせいだけではなさそうな頭痛に溜息をついた。
 どうも、最近仲間になったばかりのコアトーが、自分の方が姉だと言い張るのが、リイムには気に入らないようなのだ。同じ仲間なのだから、仲良くやって欲しいものだが、はてさて。
「大丈夫かな……あいつら……」


 そして現在。
 リイムを背中に乗せたコアトーは、夜の空京上空を旋回していた。
「みゅ〜……まだ見つからないの?」
 どこかからかうような声に、リイムはまたむっと眉を寄せたが、何も言わず、ダークビジョンでじっと夜の闇の中を見つめていた。何も見逃さない、といわんばかりに、ビルの隙間や影の中まで目を凝らしたが、この大きな都市の中で、たった一人を見つける、というのは至難の業だ。だが。
「……いたでふ!」
 リイムが声をあげ、ぴっと指をさした。
 ホッケーマスクにふんどし。確かにブラッディサンタだ。狙いは、ツリー下のカップルだろうか。
「そうはさせないでふ!」
「みゅ〜。それじゃあ、一気に行くよ☆」
 ふりおとされないでねっ、と。言うな否や、コアトーは一気にその高度を下げた。見る見るうちに地面が近付き、その姿も近付く。気付かれる隙は与えない、とばかり、リイムは毒虫の群れを襲い掛からせた。続いて、二挺の銃を抜くと構え、射程に入った瞬間、その引き金を引く。が。
「フーァハハハ! 効かん、効かーぁん!」
 なんと、裸同然だというのに、そのむき出しの肌は虫の毒を受け付けないばかりか、リイムの弾丸まで弾き返したのか、ダメージを余り受けていないようだった。
「みゅ〜、情報を忘れたの?」
 そう、ブラッディサンタは防御能力はタイガー戦車並み。その上手刀でクリティカル攻撃を繰り出す事も可能だとか。距離があったのもあるだろうが、拳銃程度ではあまりダメージにならなかったようだ。
「これならどうかなっ☆」
「ちょ、街中でそれは危ないのでふ!」
 ならばとばかり、コアトーが構えたのはギフト用キャノンだ。威力はあるだろうが、うっかり弾かれでもしたら建物やらの被害がただではすまなさそうである。
「なら、こっちならどうだッ☆」
 声をあげ、コアトーはぎゅんっと更に高度を下げると、ブラッディサンタに急接近すると、焔のフラワシに火を放たせた。
「ぎゃああ!?」
 戦車級の硬度を持っていようが、人間の肌である。そこに火をつけられてはたまらない。叫びながらのた打ち回り、何とか火を消そうとしていたが、遅かった。
「とどめでふ!」
 コアトーが接近すると同時、その背から飛び降りたリイムは、その背中に向けて一直線に則天去私を放ったのである。みしい、と嫌な音を立ててリイムの足がブラッディサンタの背中へ食い込む。
「ぐげえええっ!?」
 それでも骨の一本も折れた様子は無いのは流石だが、ぷすぷすとふんどしを焦がしながら、ブラッディサンタは倒れ伏して気を失ったのだった。


「なんとか、リーダー無しで捕まえられたでふ……」
 気絶したブラッディサンタを縛り上げ、バウンティハンター情報局に連絡を入れて、ふー、と漸く安心したようにリイムは呟き、大きな息を吐き出すとぽてん、と地面に座り込んだ。と。その肩をぽん、とコアトーの手が叩いた。意外そうに目をぱちぱちさせたリイムに、コアトーはにっこりと笑った。
「みゅ〜おつかれさま☆結構、やるんだね?」
 まだお姉さんぶっている様子はあるが、照れくさげながら、これでも褒めているらしいということは感じて、リイムはえへへ、と頬を緩ませた。
「まあでも、お姉ちゃんには敵わないけどね☆」
 余計な一言にも、今日は腹が立たない。リイムはふふん、と腕を組んで不敵に笑った。
「まだまだ、僕の実力はこんなものではないのでふ」
 ふん、と胸をそらすリイムにはいはい、と笑いながら、再びその背にリイムを乗せると、二人は宵一の待つ部屋へと、急いで帰っていったのだった。

 今夜の出来事を、直ぐにでも知らせてあげるために。