First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は木の陰から、雲をつくような高さの塔を見つめていた。
「まずは予定通りみたいですね」
警備をしていた狩人の数名が、他の塔の援護に向かいだす。
すぐ近くで、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が同じように様子を窺っている。
「あとは私達次第ね。準備はいい、セレン」
「おっけー、いつでも行けるわよ」
三人は自分達の装備を確認をして、いつでも動きだせる準備をする。
「それじゃあ、連絡を入れるわね」
セレアナは携帯を取り出した。
「おっ、きたきた」
少し離れた森の中で待機していた柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)の元に、セレアナからの連絡が入る。
『準備完了。よろしくお願いします』
「それじゃあ、いっちょ行きますか!」
仮契約書で魔法少女になった恭也は、エアバイク【天狼】に跨り意気揚々とエンジンをかける。
低いエンジン音が反響して森の中に響き渡る。
「魔法少女、浮上!」
振動に連動して、高鳴る鼓動。
冬でも緑の葉をつける枝の間を、太陽も見えぬ≪バイオレットミスト≫が充満した空へと上がっていく。
徐々に体へかかる圧力が増し、息苦しさを感じる中――
「――ぃ!?」
木々の間を抜けた瞬間、視界の片隅に閃光が入ってきた。
慌てて高度を下げるが、散弾のように飛んできた無数の針が肩をかすった。
「くっそ、いってぇぇぇ!!」
≪バイオレットミスト≫と≪シャドウレイヤー≫の影響で反応が鈍っているため、いつも通りに回避ができない。
続けざまに撃ちだされる攻撃を避けるため、急いでその場を移動をする恭也。
【リジェネレーション】で傷口は徐々に塞がっていく。
「……まだまだここから本番だっての!」
恭也は【レックレスレイジ】を発動すると、エアバイク【天狼】の速度をあげ、森の中を駆け抜けた。
そして、勢いよく森から飛び出せば、すぐさま高度を落として森へ隠れた。
「ぅ――はっ! 俺はここだぞ、よぉく狙え三下共ぉ!」
直撃は避けたが、それでも数発食らってよろめく。
常時飛び回れば、四方から飛んでくる砲撃により撃墜されかねない。
囮役として長く敵の気を惹きつけるには、簡単に落とされるわけにはいかなかった。
恭也の活躍で、塔の警備からがさらに薄くなる。
敵の配置を確認し、セレンフィリティ達は塔に近づていく。
「思ったんだけど、今って仮とはいえ魔法少女なのよね?」
「ええ、そうね。衣装に関しては色々言いたいことがあるけど……」
スキルを駆使して周辺を警戒していたセレアナは、自身の服に視線を落とした。
瞳と同じエメラルドを基調にした魔法少女衣装。いつものレオタードに、正面部分のないロングスカートとやたら煌びやかなマント。マントに隠れているが、レオタードは背中がぱっくり空いていてスースーする。
一方、セレンフィリティはというと、瑠璃色を基調としていて、ミニスカートに背中と肩から胸元にまで露出した衣装。髪留めも何だかファンシーな物になっていて、隣で見ている恋人のセレアナは胸が熱くなる。
セレンフィリティ本人は楽しそうにしているのだが、色々問題があるのでできればあまりその恰好ではしゃがないで欲しいとも思うセレアナだった。
「それでね。あたしも魔法使えるんじゃないかと思うのよ、魔法少女だし」
そう言って、セレンフィリティは機晶爆弾を隠した空き缶を持ち上げる。
「頼んだら、自力で動いてくれちゃったりしないかな?」
「それ特攻兵みたいで、嫌な話ね」
冷静に答えるセレアナ。
セレンフィリティは目を丸くして空き缶に視線を向けた。
「なんだか悲しくなってきたわ……」
これから道を切り開くために使用するのだと考えると、胸が締め付けられる思いがした。
しかし、ここで立ち止まるわけにはいかない。
セレンフィリティは首を振り、我が子を谷に突き落とす想いで空き缶を塔の入り口へと放り投げた。
「なんだ、これ――っ!?」
爆弾の入った空き缶は、入り口を守っていた狩人を巻き込んで爆発。
「いまよ!」
セレンフィリティは残りの狩人達を蹴散らし、塔の中へと向かう。
すると、爆発を聞きつけた敵が、森の中から続々とこちらへ駆けてきた。
「先に行ってください。ここは俺が守ります」
唯斗は黒犬マスコットの姿から人間形態に限定解除して、セレンフィリティを先に行かせる。
「やらせません!」
蜘蛛の巣のように、木々へ張り巡らせた不可視の封斬糸が敵を捕らえる。
唯斗はそこへ電流を流し込み、敵を撃破していく。
さらに向かってくる狩人を見つけると、唯斗は一気に接近して斬手で薙ぎ払う。
「元に戻る前に決着をつけさせてもらいますよ」
唯斗は神経を研ぎ澄ませ、向かってくる敵に容赦なく斬りかかった。
塔に入ったセレンフィリティとセレアナは、螺旋状の階段を駆けあがる。
「上から!」
「このっ!」
吹き抜けの部分を彼女達目掛けて落下してくる氷柱。
セレンフィリティはそれらを二丁拳銃で撃ち抜く。
砕け散った氷がキラキラと幻想的だが――今はそんな感傷に浸っている暇もない。
「セレン!」
セレアナは叫ぶと同時に、立ち塞がる敵に対して光術を放つ。
咄嗟に相方の行動を理解したセレンフィリティ。光が収まると、塞いでいた瞼を開いて共に駆け出した。
「どきなさい!」
セレアナはフロンティアソードで敵を薙ぎ払い、蹴落としながら階段を駆け上がる。
慈悲のフラワシに傷を癒してもらい、多少の傷は気にせず突き進む二人。
「到着!」
最上階に到着すると、慌てて魔法使いが杖を掲げて呪文を唱え始める。
「往生際が悪いわよ――!!」
セレンフィリティはその杖を塔の外へと蹴り飛ばし、魔法使いの額に銃を突きつけた。
生唾を呑みこむ魔法使い。
「大人しくこの霧をとめなさい。でなければ……」
銃口を食い込ませるように力を込める。
観念した魔法使いが、霧を発生していた魔法陣を解除する。
島に入ってから感じていた肌に纏わりつく視線が和らいだ。
鳴神 裁(なるかみ・さい)が森を駆けていると、魔鎧状態のドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が話しかけてくる。
「セレンフィリティさん達が塔の制圧を完了したそうです〜?」
ドールは【テレパシー】で塔の制圧に向かっている他のチームと情報交換していた。
「うひょー、早いねぇ。じゃあ、ボク達ももうすぐ完了するっていれといて♪」
「いいんですか〜?」
「いいの、いいの。だって、ほら、もう到着……って、ありゃ?」
塔を囲む防壁を突破した裁が、地滑りしながら足を止めた。
後から飛び込んできた西表 アリカ(いりおもて・ありか)と遠野 歌菜(とおの・かな)。
「じゃじゃ〜ん、二つの尻尾が舞い踊る……魔法少女キャッツアリカ、見参!」
「続いて、正義と愛の魔法少女アイドル マジカル☆カナ、登場!」
二人も同じように中に入るなり、同じように停止する。
防壁内部。入ってみれば何十もの敵が彼らの訪れを待っていた。
「これは、ミスったかな」
「そうかも。進むことも、逃げることも許さないって感じよね」
剣、槍、斧、弓、杖。多種多様な武器を手に、好戦的な態度でゆっくり距離をつめてくる。
背後の森からは、狩人の唸り声が徐々に近づく。
「道がないなら――」
歌菜の肩から飛び降りた月崎 羽純(つきざき・はすみ)の体が光に包まれ、人間の姿へと戻る。頭にはマスコット時と同じ黒猫の耳と、腰には尻尾。両手にはスピアドラゴンを握りしめ、漆黒の瞳は眼前の敵を睨みつける。
「ないなら、切り開くだけだ! 行くぞ、歌菜!」
「あ……うんっ!」
羽純が【ゴッドスピード】で駆け抜ける。
飛んできた矢を竜巻のように、体を回転させて吹き飛ばす。
正面から向かってきた羽純に、慌てて突き出す敵の槍。
「甘い!」
それらを、羽純はスピアドラゴンを地面に突き刺し、宙へ舞うように飛び上がって躱す。
「お前ら、覚悟はいいか?」
頭上から相手を見下ろした羽純は、落下と共に双槍の連撃を繰り出した。
空中に放り出された敵。そこへ歌菜が飛び込む。
「そこだぁぁぁ!」
空飛ぶ箒スパロウに足をかけて駆け抜けた歌菜が、去り際に両手の槍でとどめの一撃を加えていった。
羽純達の攻撃を皮切りに、生徒と塔を護っていた狩人達は一斉に衝突する。
「必殺――輪禍輪舞!」
アリカは素早く相手に近づき、一瞬のうちに数名を刀で斬りつけた。
中央に立ったアリカは、刀を鞘に納め――
「気付いた時にはもう遅い、ほら死神が迎えに来たよ……」
敵が同時膝を折り、崩れていく。
アリカの表情がふにゃりと崩れる。
「なんちゃってね〜。ちょっとかっこつけすぎたかな?」
「アリカ油断するな!」
恥ずかしそうにするアリカに迫る炎を、限定解除した無限 大吾(むげん・だいご)が盾で受け止める。
「勇ましきは守りの白獅子……護星獣レオハート、ここに推参!」
インフィニットヴァリスタを敵に向け、大吾がトリガーを引く。
大口径自動拳銃から発射された弾丸は、障壁を打ち破り、杖を砕き、相手を吹き飛ばす。
「背後ががら空きだぞ」
「そこは大吾に任せるよ」
背後のアリカが、嬉しそうに背中をこすり付けてくる。
大吾は、呆れたようにため息を吐いた。
「仕方ないな……」
盾を持つ手に力を込め、大吾はアリカについて移動する。
兵舎や倉庫の並ぶ通り道。木箱の陰から矢を放つ狩人。
「こそこそと、無駄なことだ!」
大吾は殺気を感じ取り、アリカへの攻撃を塞ぐと、顔を出した相手を正確に撃ちぬいた。
彼らが奥へと進む中、別方向から裁も建物の間を駆けていた。
「フリーランニングっていうのは、別に森の中を駆け回ることじゃないんだよ☆」
足場にした樽が砕かれ、中身が飛び散る。
空中に浮いた裁は、烈風のフラワシを呼び出し、敵を切り裂く。
倒しても倒しても、相手の数が減らない。
駆け回りながら、攻撃を繰り返す裁。
挟撃を回避するために入った細い路地で、逆に追い詰められてしまう。
「ぬのっ、行き止まり!?」
目の前は高い防壁。両側は石の壁の上に魔法使い。振り返えれば、武器を手にした狩人。
この絶対絶命の状態で――裁は笑っていた。
「よ〜し!」
裁は右、左、右、左、と壁を蹴りつけ、上方を目指し始めた。
魔法使いの攻撃を【フォースフィールド】で耐え抜き屋根に上がると、旗のついた棒を支えに遠心力を加えた蹴りを加えた。
「いっちょあがり!」
裁は下の方で手を拱いている狩人達に手を振り、屋根の上を進む。
視界に片隅に見える塔。
「あそこに行けばいいのかな!」
そこに一番近かったのは大吾達だった。
「ちぃ、まだいる!?」
盾を前にして突っ込む大吾の右手から、狩人達が迫る。
すると、羽純と歌菜が援護に駆けつけた。
「ここは俺達がどうにかする」
「先に行ってください!」
二人は見事な槍捌きで、敵を蹴散らす。
「もう、お前たちの攻撃は当たらない!」
羽純は敵の攻撃を見抜き、最小限動きで回避して、強烈な反撃を叩き込む。
「すまない!」
先へ進む大吾の前に立ち塞がるのは魔法使い。
塔の前で、巨大な火の玉を作り待ち構える。
「アリカ!」
「まかせてっ」
大吾の前へと駆け出したアリカへ、火の玉が迫る。
それをアリカは――
「ぐっ、これくらい!」
刀で軌道を逸らした。
掠った左肩から肘までがジリジリと痛むのを堪え、アリカは熱を帯びた刀に炎を込める。
「そらっ、お返しだよ!」
アリカの放った爆炎が大地を走り、魔法使いを守る障壁と衝突する。
その炎の中を、大吾は駆け抜けた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
障壁にぶつかった盾が押し返されそうになるのを踏ん張り、体全体で押し込んだ。
茶色い土が抉れ、足が折れそうになる。
――ビシッ
障壁に亀裂が入り、大吾はさらに力を振り絞った。
ガラスのように砕け散る障壁。
驚愕の表情を示す魔法使いを、大吾は盾で勢いよく吹き飛ばした。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last