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5章 ゼロの世界

「綺麗な世界ですね……」
そう呟きながら異世界を探索するのは東 朱鷺(あずま・とき)である。
「けれど、ここまでさびしい世界も見たことがありませんよ……」
彼が探索する世界は人のいない世界。
人が未完全な生命体が故に、人そのものを消去した世界である。
「この世界が人を消した結果……この世界の創造主はこれで満足なのでしょうか?」
動物が駆け回る美しい草原を探索していた朱鷺は草原の真ん中に不自然な球体を見つけた。
「これは……」
その球体には他に作られた二つの世界の風景、そしてそのマスターの居座る世界が映し出されていた。
「みなさん、頑張っているようですね」
争いの無い世界を映しだす球体には、初めてみる大空に自由を感じ、旅立つ人達が映し出され、
愛の無い世界では初めて感じる他者との触れ合いにとまどいを見せつつ、受け入れていく住人や共に幸せを分かち合う心を覚えた子供達が映し出されていた。
「このような物体があるなんて……。どうやらこの世界の創造主は案外さみしがり屋なんですね」
そう言うと天を見据え語りだした。
「創造主よ、聞こえていますか? 貴方はきっと人間という生命体に絶望し、このような世界を創り出したのでしょう」
朱鷺は少し寂しげに世界の創造主に向けて語りかけていた。
「けれど、そんな貴方がこのような球体をこの世界に置いたのはあきらめきれなかったから……人間という生き物に希望を持っていたから、ですよね?」
そう言い放った瞬間、空が大きく揺れた。
「動揺しているようですね。確かに人間は弱い。争いも、裏切りだって当たり前のように起きている。それでも……それでも人は毎日を一生懸命生きている!」
創造主は動揺を隠せない様子で、再び大きく揺れた。
「見ているのでしょう? 他の世界で仲間が証明してくれた、人間の可能性を」
そう言い放った瞬間、4つの球体は割れ、同時に天に大きな亀裂が走った。
「どうやら2つの世界の創造主は証を示され、退場したようですね……」
再び天を見据える朱鷺。
しかし先ほどの寂しげな瞳は消え、決意した眼差しになっていた。
「この世界での朱鷺の役目はここまでです。後は仲間に任せます。人間の可能性を証明してさしあげますよ」
瞬間、天に走った亀裂は最後のワールドマスターへの道になった。
ファイナルミッション、ファーストフェイズ完了。