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リアクション
第四章 禁呪
イルミンスールの森の片隅、点在する洞窟のひとつから周防 春太(すおう・はるた)が出てきた。
「この洞窟は入ってすぐに行き止まりですね」
「こちらも、ですか……」
ユーフォリア・ロスヴァイセは、難しい顔をして春太の出てきた洞窟へと視線を送った。
手分けをして片端から洞窟を調べている最中だった。
「となると、あのモンスターの住処となっているこの洞窟を重点的に調べることになりそうだね」
清泉 北都(いずみ・ほくと)はそう言って、ほど近くにある洞窟の入り口を指差した。
その洞窟の中からは、微かにモンスターの唸り声が聞こえてくる。
「中を調査してる三人から連絡は入ったのか?」
ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)に訊ねられて、ユーフォリアは小型端末を手にとった。
「……今、ちょうど遺跡の壁のようなものを見つけたところのようです」
「探しに行ってみましょう!」
ユーフォリアたちは、洞窟の中に入っていった。
「間違いなく、ここだけ人工物だね」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、洞窟の壁に触れながら呟いた。エースの視線の先には、洞窟の壁とは全く異なる、綺麗な石造りの面が見えている。
「この石材は、屋敷の部屋と部屋を仕切る内壁に使われるものだろう。この近くは部屋だったはずだ」
メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が自身の知識から推測して言う。
「調査に熱中してていいわよ。ここに応援は呼んだから、戦闘は任せて」
リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)は周囲を警戒しながら二人にそう告げた。
「壁から魔力が感じられるね。この近くに何か特別な部屋があるかもしれないよ」
「調べてみよう」
二人が壁伝いに近くを調べていると、どうやら特殊な部屋であったのだろうということまでは推測が出来た。
「廊下の壁によく使われた加工方だが、こちら側一方しか残っていないようだね」
エースたちが調査をしていると、ほどなくしてユーフォリアたちも辿り着いた。
「何か分かりましたか?」
「ここが特殊な部屋の扉のようになっているということまではね」
メシエが指差した先の壁は、他の場所と違ってうっすらと何かが刻まれている。
「この壁……鍛錬所の裏口と同じ文様が刻まれていますね」
壁を眺めたユーフォリアが、そのことにすぐ気付いた。
「もしかしたら……ある一定の場所をなぞっていくことで開くかもしれません」
そう言って、ユーフォリアが壁に指を這わせた。その指先が文様を刻み終えた瞬間、壁は音もなく左右に割れて開いた。
「避けて!」
リリアが叫ぶと同時に、開いた扉の奥からレーザーが打たれた。
扉の奥から機晶姫が、姿を現した。銃口がこちらに向けられる。
「一気に畳み掛けようか」
メシエが雷を呼び寄せると、一本の太い稲妻と変えて放った。
その横から春太の放った光が、機晶姫の動きを封じるように絡み付く。
しかし、機晶姫はそれでもなおあらがおうとするように、銃弾を乱射した。エースたちの体を無数の銃弾がかすめていく。
「大丈夫? 崩落が起きないよう、気をつけて戦おう」
エースがホーリーブレスを辺り一体に使うと、皆の傷が塞がっていった。
少しずつでも動きを鈍らせてきている機晶姫に、北都はアルテミスボウから次々と矢を放つ。
ソーマが後を追うように、雷霆ケラウノスから放たれる雷をぶつけた。
「後もう少しだ!」
「でも、なくなった屋敷を護る指令を未だに守り続けているなんて、哀れな存在よね……」
リリアは少し寂しそうに呟くと、ソード・オブ・リリアで機晶姫のコア目掛けて斬りつけた。
機晶姫はようやく、その動きを停止した。
「この奥に、きっと何かがあるはずです!」
皆は扉の奥へと足を踏み入れた。
――そこは、長方形の台座を囲むように魔法陣のようなものが刻まれた、祭壇のような部屋だった。
ユーフォリアが魔方陣に足を乗せると、台座の周囲を囲むように立っていた燭台に自然と炎が灯った。
「台座の上に、プレートがありますね」
そういってユーフォリアはプレートを手に取った。
『君がここにいるということは、きっと3つの聖杯を手にしてくれたのだろう。
ここに、我が妹にかけた禁呪を解くための方法を記しておく。
琥珀の棺に聖杯を3つ捧げ、君の声で祝福の詞を紡いでくれ。
聖杯が3つとも祝福で満たされた時、器から零れ落ちた祝福の雫が琥珀の棺を溶かすだろう。
もしも聖杯が1つでも欠けてしまったなら、この解呪方法は使えない。これが禁呪と呼ばれる所以だ。
たった1つの聖杯の分を満たすために、生け贄として無数の血を流さねばならないのだ。
だが、君ならきっと3つの聖杯を全て手にしてくれたことだろう。
どうかヴァレリアが無事に目覚めることを、そして君が無事に帰ってきてくれることを願っている』
ユーフォリアはプレートを読み上げ、そのプレートを裏返した。プレートの裏にはルーンのような記号と、片言のように書かれた断片的な文字が乗っていた。
「……ここに、詩のようなものが書かれていますね。この文字は、読み方でしょうか……」
ユーフォリアは難しげな顔をして台座へと視線を移した。
「今、私たちが持っている聖杯は、別邸にあったものと空賊から取り戻したもののふたつ――。あとひとつ、聖杯を探さなければなりませんね」
ユーフォリアはキロスに連絡をし、一旦その場から離れたのだった。
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