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ジャウ家の梅見

 梅の木を眺めながら、くるりくるりとフライパンが回る。
 その度に、中にある小麦色の液体が広がる。薄く薄く。
 焼かれているのはクレープ。
 焼いているのは、メイド姿の遠野 歌菜(とおの・かな)
 フライパンを返すたびに、頭の花、ヒアシンスが揺れる。
 『しとやかな可愛らしさ』の花言葉そのままに、メイド服を身に纏いいつにない淑やかさでジャウ家の面々に給仕している。
 傍らでお茶の用意をしているのは月崎 羽純(つきざき・はすみ)
 こちらも頭にヒアシンス。
 ジャウ家の使用人として見事に給仕をこなしていた。
「……いや、別にもう使用人という訳ではないのだから、そこまでしてもらわなくても」
 そんな二人に申し訳なげに告げるのは、ムティル・ジャウ(むてぃる・じゃう)
 彼にくっつく弟のムシミス・ジャウ(むしみす・じゃう)と共に、頭に花が揺れている。
「気にしないでください。私達、やりたくてやってるんだから。ね、羽純くん」
「ああ」
「しかし……まあ、それなら使用人ではなく友人として頼む」
 二人の笑顔に苦笑しながら折れるムティル。
 しかしふと視線の先にある人物を見つけ、思い直したように口にする。
「あ……いや。一つだけ頼んでいいだろうか」

「今日も兄弟で来たのか。仲が良いな」
 ムティルたちの元に、モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)が顔を出す。
 その手には彼お手製のサンドウィッチ。
 知人の姿を見かけ、差し入れに来たらしい。
 頭の花はベゴニア。花言葉の『親切』そのままに。
「口に合うか分からぬがもし良ければと思って持ってきたのだが…… 不必要だったか」
 モーベットの目前では、歌菜の手によって次々とクレープが焼き上がっていた。
 イチゴ、クリーム、バナナ、チョコ。
「よろしければモーベットさんも如何ですか? 甘いものが苦手でしたら、サラダクレープもありますよ」
 逆に勧め返される。
「いや、いただこう。わざわざすまない」
 モーベットが手に持つカツサンドをムティルが受け取り、代わりにトマトとチーズのクレープが渡された。
 ムティルはモーベットをしばし眺めると、口を開く。
「今日は、あいつは? 一緒ではないのか」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)の事を言っているらしい。
「ああ。主は守護天使と共にいる。……たまには二人きりにさせてやらないとな」
 何か思惑あり気に応えるモーベット。
「それは良いことですね! 二人きりですって、ねえ兄さん」
 花の影響で……あまりいつもと変わりはないようだが……よりムティルにくっついているムシミス。
 笑顔でムティルに告げるが、ムティルの方はああ、とため息交じりの返事。
 その様子を見てモーベットは僅かに眉を潜める。
 彼が何か悩んでいるようにも見えたから。

「あっ、アーヴィンさん! こちらですよ!」
 ムシミスの顔がぱっと輝き、手招きする。
 輪に招かれたのはアーヴィン・ヘイルブロナー(あーう゛ぃん・へいるぶろなー)。マーカス・スタイネムと木・来香(むー・らいしゃん)も一緒だ。
「お招きありがとう、ムシミス」
 アーヴィンの頭にも、多分に漏れずマダガスカル・ジャスミンの花。
 花言葉は『2人で遠くへ旅を』『清らかな祈り』『傾聴する』『うぬぼれ屋』。
 木の頭にもチューベローズの花が揺れている。
 一人だけ花が咲いていないマーカスは、しかしもう突っ込まない。
 先程、倒れた貴仁を手当てした際、ウェザーの面々の頭咲いている花をさんざん見たから。
(なんか……うん、今日はそんな日なんだ)
 妙な悟りのような感覚が芽生えたらしい。
 ムシミスがアーヴィンに話しかけている間に、ムティルが歌菜と羽純に目配せをする。
 歌菜と羽純が何やらごそごそと用意したかと思うと、次の瞬間。
 ぱーん。
 派手な音が響いた。
「Happy Birthday!」
 その場にいた者たちの祝いの言葉と共にクラッカーから噴射された紙吹雪が舞う。
「へ……え、俺、様?」
 いつの間にか輪の中止にに立たされ、紙吹雪の洗礼を浴びたアーヴィンは茫然と自身を指差す。
 3月21日はアーヴィンの誕生日。
 つまり、ここ最近。
「お誕生日おめでとうございます、アーヴィンさん。これ、プレゼントです」
 ムシミスが小箱を渡す。
「あ、ああ……ありがとう」
 茫然としたまま受け取る。
 誘われて梅見に来たはずが、何故こんなことに?
「兄さんが計画したんですよ。何かできないかって」
「いつも、ムティルが世話になっているからな」
 頭のグラジオラスを揺らして答えるムティル。
 グラジオラスの花言葉には『用意周到』という意味もあるのだ。
「はい、ケーキも用意してあります」
 歌菜が差し出したのはミルクレープのケーキ。
 ムティルに頼まれた歌菜と羽純はサプライズパーティーの準備を完璧に設えていた。
(こういうのも、楽しいね。羽純くん)
(ああ。皆が、特に歌菜が楽しいなら俺も楽しい)
(うふふ。後で羽純くんにはもっと楽しんでもらうわね)
 笑顔で目配せしながらケーキを切り分ける歌菜。
「ああ……その、感謝する。しかし何故俺様の誕生日を」
 そこまで言ってアーヴィンは、木の様子がどこかおかしい事に気付く。
「木……キミ、まさか」
「え〜、アヴ兄ぃのこと聞かれたから、答えただけだよぅ」
 ひらひらと逃げ出す木。
「ほらほらアヴ兄ぃ、アブ兄ぃが好きそうな人達がいっぱいいるよ!」
「誤魔化しても駄目なのだよ。で、何処にいるのだ……」