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リアクション
【グランジュエル】
横幅の間隔が2メートルも無さそうな狭い廊下設置された椅子。
適当に埃を払われたその上に女性が足を組んで座っている。
椅子から伸び伸び余り捲った足で立ち上がると、彼女がそれなりに長身でスタイル抜群なのが分った。
背中の羽根を見た所、ヴァルキリーだろう。
つまり耀助のデータにあった、彼が是非(検閲済み)をお願いしたいあのお姉さんだ。
「副隊長のトーヴァ・スヴェンソンさんですね。
たしか部隊を持っていたはずじゃ――」
「ああ。別に『今はいい』から貸してきた。
それより…………アンタ、男ね」
「そうですが、それが何か……いや、ボク達はジゼルさんの救出に――」
「まーそう言わないでさ、少しオネーサンと一緒に
楽しい事し・ま・しょ☆」
グロスに濡れた唇をぺろりと舐めて不敵に笑うと、トーヴァは立ち上がり剣を鞘から抜いた。
耀助の調査通り得物はレイピアで、彼女のしなやかな肉体によく映えている。
トーヴァの姿勢は未だ腰に片手を当てた攻撃態勢ですらないスタイルなのに、何処にも隙が無い様にみえた。
「(手練ですね……)」
神崎 輝(かんざき・ひかる)は赤い槍を手に足を一歩引いて、攻撃に耐える為の姿勢を作った。
彼のパートナーの二人、一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)と一瀬 真鈴(いちのせ・まりん)も同じく臨戦態勢になる。
と、その時。
「その戦い、待った!」
四人が振り返った先、トーヴァの横の廊下から現れた三人の人影にスポットライトが当たった。
「フハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!」
ドクター・ハデス(どくたー・はです)率いる二人の機晶姫
ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)、ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)が其処に立っていた。
「ハデスさん!? 珍しいですね、あなたがこんな所に来るとは思いませんでしたよ」
目を丸くしている神崎に、ハデスは腰に当てていた両腕を前で組み直し珍しく真面目な顔をした。
(本人はいつも真面目なのだろうが、其処は割愛させて頂きます。)
「『悪の組織の兵器を破壊する』のが目的だとすれば――
近いうちに我ら秘密結社オリュンポスが標的にされることもあるだろう。
手を貸すぞ、一瀬姉妹よ」
この珍入者にすら余り驚いていない様子のトーヴァだが、実際の所彼女は品定めしていただけであった。
「『男の娘』に『白衣眼鏡』……か。
ふふん、いーじゃんマニアックで。アタシ好み」
「好み?」「マニアック?」「白衣眼鏡?」「男の娘?」「二人とも?」「……?」
それぞれ反応した部分は違うものの、相手の面食らったような顔にトーヴァは笑って剣先を正面に向け言う。
「プレ?」
始まりの確認に、6人は同時に頷いた。
その瞬間に埃に覆われた床が突如砕け、尖った欠片達が6人に襲いかかった。
目眩ましの『隙間』から、錐揉みするように『一人』に向かってトーヴァが落ちてくる。
狙いは一番前に立つ輝だ。
彼は瞬間的に身体を硬化させると、魔力で形成された大楯を前にトーヴァの剣圧を一手に引き受ける。
目の前から飛んでくる風に煽られながら、ハデスは眼鏡のブリッジを指で押し上げた。
「我らの新技術の実験に付き合って貰おう!
ヘスティア! ペルセポネ!
一瀬姉妹と超機晶合体を行うのだ!」
「……機晶合体……だと……!?
いやいやいやいや何言ってるんですか!?」
細い剣の突きにしては重過ぎるそれを受けながら輝は横目でハデスを見るが、ハデスは大マジらしい。
しかも彼からは見えない所にいる機晶姫の四人の方もまた、かなりやる気満々だった。
「かしこまりました、ご主人様……じゃなくてハデス博士!」
「(まぁ……本人達がやる気出してるなら止めませんけど)」
「瑞樹さん、真鈴さんと機晶合体をおこないます!」
ヘスティアの声に、四人の身体が??合体パーツが輝き始めた。
強い光りにトーヴァが飛び退いている間に、四人は一つに成って行く。
瑞樹の身体(本体)とパーツが分離すると、真鈴の身体と溶ける様に一つになった。
ペルセポネの身体からスーツが剥がれて行くと、
それは一つに成った瑞樹と真鈴の身体に柔らかな筋肉を押し上げるようにを付けて張り付く。
その間にヘスティアの背中のウェポンコンテナは展開し、内部からは加速ブースターと機晶ブースターが出て来た。
空になったそのフライトユニット内部の空間に、ヘスティア自ら『よっこいしょ』と体育座りで入り込むと、
分解していた一瀬姉妹のパーツと共に中空を舞い、アニメチックにガシャーンガシャーンとドッキングする。
こうしてヘスティアは機動面を司るユニットに。
ペルセポネは防御面を司るユニットに。
瑞樹は攻撃面を司るユニットに。
真鈴は指揮系統を司るユニットに。
四人集合によって完成したのは超合体の機晶姫だった!
「ワーオ、『合体』なんて…………燃えてきちゃうッ!」
響き渡る三人の声と一つの意志。神々しいのか巫山戯ているのか分からないその姿に、トーヴァは素直に感嘆を口にする。
「さあ、行くのだ!
ヘスティアとペルセポネ、そして一瀬姉妹の力を身に纏いし超機晶姫グランジュエルよ!」
ハデスが前に腕を突き出すと、グランジュエルは開眼した。
「「「機晶合体・グランジュエル!」」」
「ははっ! サイコーじゃん!」
笑い声の後ろでは、真鈴の指揮が始まっていた。
「相手が相手です、全力でかかりましょう! 一気にカタをつけますよ!」
「了解! まずはコレ、12連ミサイルッ!
いっけええええええ!!!」
「しょっぱなからフルパワーかよ! いいね! そういうの大好き!!」
テンションアゲアゲで歯を見せて笑うトーヴァの周囲に炎が上がり、そこからヘラジカが形作られていく。
飛んで来たミサイルは巨大なヘラジカの中へ吸収され爆発し、狭い廊下の壁が一気に吹き飛んだ。
床が無事だっただけでも文句無し上出来な結果だろう。
「まだまだいきますよ!
ヘスティアさん、向こうは壁です! どんどん前に出て下さい!」
「ラジャーです!
はあああああ!!」
目にも留まらぬスピードでトーヴァに向かってくるグランジュエルに、トーヴァは後ろへ掛けて行く。
「逃げるんですか!?」
「まさかね!」
走り続けたトーヴァは壁の所まで近付いても止まらない!
「ふっ!」息を吐いてそのままの勢いで壁へ向かって飛び、蹴り上げ、
グランジュエルの頭部ユニットに三角飛びを喰らわせた。
「あぅッ!!」
誰のものとも分からない悲鳴を上げ倒れたグランジュエルの肩に向かって、
トーヴァは上から身体ごと思いきりのいい突きを落とす。
「ああああッ!」
「アレクの奴実戦でこんなの使えないとか言ってたけど全然イケルじゃん!」
独り言を言うトーヴァの周囲から茶色い何かが伸びてくる。
それは入り口の庭にあった枯れかけた薔薇の蔦で、グランジュエルを拘束し始めた。
「なっなんで!?」
「こんな枯れてる蔦のはずなのに!?」
「苦しいッ!」
三人の少女の悲鳴を聞きながら、トーヴァは「むふふ」とイヤらしく笑って
二人の機晶姫の主人にそれを見せつける様にグランジュエルを磔にした。
「にゃっは☆ 緊縛プレイだよーん。
どう? 萌えちゃう?」
「そういった趣味は ありません!」
輝の声と共に青く燃え上がった槍が投擲されトーヴァが横に顔を退けると、
それはそのままグランジュエルを拘束していた蔦突き破った。
「ふふっ。ふふふふふっ。
たんのしーィ!! こんな楽しいの久しぶり!
最近アレクの奴もむすっとしててつまんなかったし、ホント最高!
やっぱ『スポーツ』はこうでなくちゃね!」
息が上がったままのグランジュエルの前で楽しそうにぴょんぴょん跳ねるトーヴァは、相変わらず隙があるのかないのか分からない。
次の一手を決めかねている二人に向かって、トーヴァは少女の様に愛らしい素直な笑顔を向けた。
「ねねっそこのボーイズ。いきなりだけど、このトーヴァ・スヴェンソンには夢がある!!
なんだと思う??」
「えーっとそれは多分、兵器の根絶がどうとかいう……」
「ぶーーーーはずれーーー。
正解は〜
『地球のキュートなボーイズ1000人斬り!』ッッ! これよ!!」
片手に腰に手を当ててポーズを取るトーヴァに、
色々なファンに慣れているアイドルの輝も、人間的に危ない所のあるハデスも眉をひそめた。
「(本気ですかね)」「(な、なんなんだこの女……)」
「とゆー訳で……ど? アタシ二人相手でもぜーんぜんイケるけど」
「いえあの……ボクは恋人がいるのでそういうのはちょっと……」
顔を赤くしながら苦笑して手を前で振る輝に、トーヴァはハッとしてからうんうんと頷いた。
「そっかー。なーんだ残念。アタシってば根が真面目だからそーゆーとこ気にしちゃうんだよね。
やっぱ『スポーツ』は楽しく無いと。ね!
じゃあ……
狙うならそっちの白衣眼鏡の方か!」
言うなり走り出したトーヴァは、ハデスに向かって完璧に捻りの無い、そのまんま正面突きを繰り出す。
が、ハデスは到底人間に扱えないような壊れかけの大型ライフルから氷結ビームを彼女に向けていた。
「この俺をただの白衣眼鏡と思わない事だ!」
「このアタシに出会って貞操が守れると思わない事ね!」
強さは互角。
トーヴァは相手の強力なビームの出力を受け、背中のヴァルキリーの羽根の抵抗を利用して、後ろ飛ばされる様に下がっていく。
「(もっかい壁迄行って飛ぶか!)」
しかしその先には再び立ち上がったグランジュエルが居た。
ライフルを構えたまま、ハデスは叫ぶ。
「パワーアップだグランジュエル!!」
「了解!! ヘスティアさん!」
「ラジャーです! 機晶アクセラレーター作動! ……行けます!
カウント開始! 5・4・3・2・1」
「いきますよ皆!
超☆機晶合体! グランジュエル・アクアマリンモード!」
「(マジ? ここでパワーアップなの!?)」
グランジュエルの足下でヘスティアとペルセポネ二人分の加速ブースターが高速回転する。
膝の辺りでは機晶エネルギーを用いたもう一つのブースターが輝いて、
グランジュエル・アクアマリンモードのメタリックボディに反射し全身をピカピカと光らせていた。
「瑞樹お姉ちゃん、きます!
『狙って』ッ!!!」
グランジュエルの足が強過ぎる圧で地面に減り込んでいく。今度こそ地面もおしまいだ。
「これで終わりね!!」
グランジュエルの姿をみとめたトーヴァもまた、飛びながら回転し大波を纏いながらこちら側に剣を向けた。
足の力を一気に解放し、グランジュエルの装備する空色の大型剣がトーヴァの剣とぶつかり合う。
「一撃必殺! 煉 獄 斬ッ!!!」
輝とハデスが瞬きも忘れる中、再び起こった爆発に飛ばされたのはトーヴァの方だった。
「あぁんっ! もうっ だめえええええぇ!!」
妙に艶かしい悲鳴と共に飛ばされたトーヴァは、地面に身体を擦り付けて行く。
輝とハデスの前でやっと推進力が止まると、
トーヴァの額から血が流れ、マイクロミニのスカートはすり切れ、軍服の上着――は元々かなりはだけていたが――
兎に角彼女の姿はもうボロボロだった。
「ちょっ……も、いたたたたた……
ははは参ったねこりゃ」
輝とハデスの下でトーヴァは上半身をなんとか起こすと、金色の風を纏って傷を回復させる。
「えっと……どうしましょう? 降参?」
下手な女の子よりも可愛く首を傾げる輝に、トーヴァは髪を整えながら笑う。
「ホントいい男だわアンタ達。
うん、もう終わりでいいや。
アタシもこれ以上この商売道具に傷つくのは勘弁だし、なーんちて☆」
「そうですか。でも……いいんですか。あなた確か副隊長でしょ?」
輝の言葉にトーヴァは一度目を丸くして、直後肩を震わせて笑い出す。
「いーのいーの!
別にアタシは他の隊士と違って信念とかそんなの無いし、ただ面白おかしくやりたいだけっつーか。
『どうせ付くなら正義の方がいいじゃん』って思った訳。
でもさぁ――」
スカートについた埃を払いながら立ち上がると、トーヴァは目の前に立っていたハデスにしなだれ掛かった。
スラックスの間に均整の取れた美しく長い足を太腿ごと差し込んで、
ジャケットの胸元に人差し指をスルスルと這わせ耳元へ唇を寄せると、吐息混じりの甘い声でハデスに話しかける。
「悪の組織ってゆーのにも、興味 持っちゃった」
対するハデスの表情は分からないが、このお姉さんは存在そのものだけでもうかなり教育上良く無い気がする。
神崎はグランジュエルの合体を解除している四人の機晶姫のとの間に入って、こっそり『壁』になりながら頭を掻いた。
「そんな事、組織が許すんですか?」
「ん? ダイジョブダイジョブ、アレクは許すよ。だってうちの隊長殿は寛大で、案外トコあるし可愛いし、あっちも最高。
あーでもリュシアンはどーかな?
あの男ノーマルじゃないから何考えてんのか今イチ分かんないんだよね」
ハデスの肩に両腕を乗せてこちらへウィンクするトーヴァに、輝は訳が分からず首をひねっていた。
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