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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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■幕間:武道大会ソロ部門−その後の展望−


 運が良いというべきか、シード権を獲得していたセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)と紫月を下して勝ち進んだ葛城との一戦は終始、槍と拳による近接戦の応酬となった。

「せいやぁっ!」
 セルファの槍が葛城に迫る。
「ちょいさぁっ!!」
 葛城は槍の側面を拳で殴り飛ばし軌道を変えて攻撃を防いだ。
 お返しとばかりに今度は葛城の拳が放たれる。
 攻撃を防ぐとほぼ同時に繰り出されたのは逆突きだ。
「怪我しても知らないからね!」
 彼女はそれを盾でガードした。
 だがそれだけでは終わらない。内蔵されていたパイルバンカーが火を噴いた。
 ガゴンッという射出音と共に杭が打ち出される。
「うわぉっ!?」
 ジッ! という擦れる音が耳に届いた。
 葛城の服が裂け、その表面は焦げたように擦り切れていた。
「まだ私の攻撃は終わらないわよっ」
 距離を詰めながら放たれるのは多段突きだ。
 槍の穂先からは放電現象が起こっている。
 当たったらどうなるかは予想するに難しくはない。
「避けるでありますよ!」
 葛城は言うと槍の動きを注視する。
 一撃、一撃を紙一重で躱していく。
 当たると思われた刺突は空蝉で避け、身に纏っている服は徐々に数を減らしていった。
 一回戦での紫月との戦いを思わせる展開だ。

 互いに決め手のない攻防が長く続いたが、疲労の蓄積の仕方が違っていた。
 攻めを中心に行動していたセルファは見るからに消耗していたが避けることを中心に動いていた葛城には少し余裕が見受けられた。
「……はあ、はあ、もう二段突きも……出せないわ……」
「ふ……ふふ、さ、作戦通りでありますよ」
 余裕があるとはいえ疲労が隠せるほどではないようだ。
「結果は見えたであるな」
 馬場は言うと二人の様子を眺めた。
 彼女は判断する。一撃の重さに差がある、と。
 事実その通りだったのだろう。
 戦いが長引くにつれて徐々にセルファが押され始めた。
 そしてしばらくして彼女は倒れ込んだ。
「……初戦敗退かぁ」
 セルファは呟きながら一回戦を突破したパートナーの顔を思い浮かべる。
「あーあ、残念ね」
 葛城が次の舞台へと駒を進めることとなった。

                                   ■

 その後も武道会は続いた。
 エヴァルト対御凪戦では高速軌道による遠距離魔法を主体とした御凪に対して、エヴァルトは一撃離脱戦法を取ることで初手を制することに成功した。序盤の流れを掴んだまま進むかと思われたが、魔法防御の薄さが勝敗を決した。
 一撃、その一撃を躱し損ねたことでエヴァルトは動きが鈍ってしまった。
 完全に避けることが敵わなくなっても彼は諦めずに魔法を耐え続けた。
 だが無理を続けているのは明らかであった。
 危ういと判断した九条がエヴァルトにドクターストップをかけたことで試合は終わった。彼は九条の手によって医務室に連行され、御凪が勝者となったのである。

                                   ■

 ウルスラグナ対霧島戦は中盤から一方的な展開へと転じていた。
 初手は距離の優位性があったこともあり、ウルスラグナが持ち前の槍捌きで相手を翻弄していた。しかしそこは武器の特性上での難もある。一度間合いの内に入り込まれては体勢を立て直すのが容易ではなかった。
 霧島は打撃、蹴り技、投げ技と得意のバリツを用いた多種多様な戦い方でウルスラグナを攻立てた。彼も負けじと盾で応戦するがそれも長くは続かない。
 盾で視界が悪くなっていたところを足払いで体勢を崩されてしまう。
 倒れたところを馬乗りで両手の自由を封じられてしまった。
 ウルスラグナは実力差を理解し負けを認めることで勝敗が決した。
 解説席で解説ではなく応援をしていた弟子の猪川を連れ立って、彼は会場を後にする。

                                   ■

 東対高月の一戦は歓声が沸き起こるほどの一戦となった。
 東の繰る式神、狼と百足たちを高月は雷撃と闇洞術を以て翻弄する。
 その様子を見ていた東が高月に呪術を掛けるが、彼はそれを呪詛払いで対抗するなど高度な攻防戦が繰り広げられていた。
 高月は中願寺戦でも見せた光の結界で東を封じ込め、決定打となる一撃を放つも大百足の壁で防がれてしまう。その瞬間、東は動いた。大技を繰り出した高月の技後硬直を狙ったのだ。
 狼の式神は東の手元で剣へと姿を変え、一刀の下に高月は倒れ、試合は終わった。

                                   ■

 葛城対御凪の一戦。
 準決勝となる舞台であった戦いは終始一方的な展開が続いた。
 近づこうと駆け寄る葛城に対し、御凪が高速で移動しながら距離を取りつつも雷を落とすといった内容だ。何度も何度も葛城は躱し続けたが徐々に疲労が見え始め、終盤には空蝉で何とか躱すもこれ以上脱げないといった、子供に見せたら情操教育的に問題のありそうな姿と成り果てていた。
 葛城は長く粘り続けるも最後には雷撃を受けて倒れ伏してしまう。
「下着さえ脱げれば負けなかったのに!!」
 という敗北後の台詞は印象深かったようで、解説の馬場が神妙な面持ちで頷いていた。

                                   ■

 霧島対東の一戦。
 こちらも準決勝の舞台であったが猪川戦に近い試合運びとなった。
 狼の咬みつきを横殴りで防ぎつつ距離を詰めていく霧島に対し、その場から動かず式神の操作のみで戦う東。元々の実力差もあったのだろう。霧島は善戦するも猪川同様に一太刀の下に倒れてしまう結果となった。

                                   ■

 御凪対東の試合となる決勝戦。
 決勝戦の名に恥じない今までにない試合となった。
 互いに距離を取り、御凪は雷術や召喚獣などの幅広い攻撃術を使用し、対して東は今までの試合同様に式神に任せての戦いだ。狼らが幾度となく御凪に迫ったが彼は冷静に氷の盾を駆使して防ぎ、隙あらば東目掛けて魔法を放った。

 東は大百足を壁に見立ててそれらの攻撃を防ぎ、また防ぎきれないと判断した時は迷うことなく回避行動に移った。呪詛で御凪を縛り付けることもあったが彼もそのままやられることなく、インビジブルトラップによる牽制で危機を凌いだ。

 幾度となく続く攻防は、しかしあっけない幕切れを以て終わる。

 消耗率の高いスキルを多用した結果の疲労だ。
 元々のキャパシティの差もあったのだろう。先に燃料切れを起こしたのは御凪であった。
 それを理解した東は御凪に試合の続行の有無を問うと彼は負けを宣言した。
 こうして東は今武道大会ソロ部門で優勝を果たすこととなったのである。