百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

リアクション公開中!

失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

リアクション



■幕間:武道大会ペア部門−青葉&山野VS東雲姉弟−

 青葉 旭(あおば・あきら)は対戦相手の出方を見ていた。
(こっちを警戒しているのか……それなら)
 彼は光学迷彩で姿を消して見せた。
 驚いた様子で優里が隣に立つ風里に視線を送る。
「き、消えたよ!?」
「そうね。まったく見えないわね」
 焦った様子で話す優里に対して風里は冷静に答える。
 やり取りが面白かったのだろうか、青葉のパートナーである山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)がくすくすと笑った。
(まだ光学迷彩に対処できないと思うけど)
(試合というか訓練になってるにゃぁ)
 青葉は一歩ずつ確実に優里たちと距離を詰めていく。
「優里、辿楼院さんから習ったアレやってみなさいよ」
「まっすぐでいいの?」
 風里が頷くと彼は手にした短剣を青葉のいた方へと投擲した。
(おっと――)
 青葉が迫る短剣を避けた。
 ザッ、という足音が鳴る。
 それを風里は聞き逃さなかったらしい。
「たぶんこのあたりね」
 彼女は青葉のいるであろう方角へ駆け出すと手にした槍で周囲を薙いだ。
「はは、まさかこういう手で来るとは」
「風里ちゃんは応用がきくみたいだにゃぁ」
 二人は感想をもらすと目を細めた。
 圧迫感が優里たちを襲う。
「悪いが本気で行くぞ」
 山野が銃を構えると同時、青葉が動いた。

                                   ■

 端的に言えば圧倒的であった。
 青葉の打撃と蹴り技、己の肉体のみを頼りに繰り出される攻撃。
 基本に忠実ともいえるその一撃一撃は優里たちの攻撃を遥かに凌ぐ威力であった。
 パラミタに来て半年も満たない彼ら新米冒険者が太刀打ちできるはずもない。
「――ふぅ……せめて避けるくらいはしたいわね」
 風里は足元でぐったりと転がっている優里を蹴り飛ばすと下敷きになっていた槍を手にする。
 前を見れば青葉の姿がある。
 余裕があるのだろう。こちらの様子を観察していた。
 その後ろ、山野が銃を構えている。
「そろそろ終わりにしようか」
 青葉は言うと風里に向かって駆け出した。
 合わせて風里も走り出す。
(……平地で相手の意表をつく方法、ね)
 走りながら、彼女は訓練した時のことを思い返した。

                                   ■

「裁ねぇさんに着いてきて正解ね」
 アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)が東雲姉妹を前にうんうんと頷く。
「ふむふむふむ、この子たちが噂の東雲”姉妹”か、なるほどなるほど。ふふ、双子だけあってゆうりんの方は十分素質があるわね☆ 男の娘の♪」
「男の子の素質? 生まれた時から僕は男ですよ」
「分かってないわね優里。男の子じゃないわ、男の娘よ」
「男の子でしょ?」
 なにやらハイテンションな様子のアリスがどこから出したのか、様々な衣装を優里の前に置いた。どれが似合うかを確かめるように次から次へと持ち替える。
「あなたたちのことは裁ねぇさんに聞いてるわ。せっかくの武道会でびゅーですもの、それにふさわしいコスチュームが必要でしょ? わたしにプレゼントさせてちょうだい」
「え、でもこれ女物……ってフウリなに距離を置いてるのさ!?」
 風里は優里の言葉を無視すると鳴神 裁(なるかみ・さい)に話しかけた。
「今日は何の訓練をするの?」
「そうだねえ。今回のテーマはパルクールの戦闘応用術かな。大会に出るんでしょ?」
「ええ、でも闘技場は平地で壁もないからあんな動き出来ないわよ?」
 優里の悲鳴とアリスの歓喜の声をスルーしたまま二人は話し続ける。
「たしかにパルクールの移動術を有効に活用するには、ある程度の凹凸のある地形の方が好ましいわけですが……なければ作ればいいじゃない☆ たとえば氷術で氷塊を作り出して足場にするという手段もありありです」
「ありありね。でも私、氷術使えないわ」
「武器を足場にする方法もありますな」
 彼女は言うと風里の持っていた槍を地面に突き刺すと、それを軸に身体を宙に浮かせた。棒高跳びの要領なのだろう。思う以上に素早く頭上高くを跳んでいく。
「まるで曲芸ね……」
「こればっかりはセンスだからねー」
 槍の上で逆立ちしながら鳴神が言った。
 戦術に関してあれこれと話している二人に黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)は近づくと、風里に話しかけた。
「……あとは反射行動の利用とか」
「ねこだましで目を瞑ったりとか?」
「そんな感じです。歩き始めは動歩行の特性上不安定になりますから重心を安定させようとしますし、人が動くということは反射行動をしていることと同義です。相手の動作を利用して避けたり当てたり、戦闘を優位に進められるでしょう」
 簡単そうに彼女は言うがその内容は達人級の話だ。
 それを理解したのだろう。風里はジト目で黒子アヴァターラを見つめた。
「私にできることじゃないわよね?」
「――大会で使うならあれかなあ」
 彼女はそう言うと鳴神に視線を向ける。
「いいわいいわ。うん、素材が良いのね。良く似合ってる。次はこっちとか――」
「……もう好きにして」
 視界の端、とても楽しそうに着せ替えに興じているアリスとぐったりしている優里の姿があった。

                                   ■

「ふっ!」
 風里は手にした槍を利用して鳴神と同じように宙へと身体を躍らせた。
 その動きが予想外だったのか、青葉の拳は空を切った。
 彼の頭上を通り抜けて山野の方へと風里は向かおうとする。
 だが――まっすぐに落ちるはずだった身体は横にずれた。
 身体に痛みが奔る。
「な、なにが……」
 彼女が青葉の方へ視線を送ると小銭を構えている姿が見えた。
 風里の動きを封じたのは銭投げであった。
 彼女はそのまま地上に落下すると気を失った。