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とある魔法使いの灰撒き騒動

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とある魔法使いの灰撒き騒動

リアクション



【倒す相手がアッシュ・グロックなのは間違ってない】

「お、おいこれどうする……結構ヤバいんじゃないか?」
 アッシュが戸惑ったように上ずった声を出す。無理もない。気づいたら既に仲間が3人もやられているのである。
 最初こそ『たかがアッシュ、しかも偽』と侮っていたが、『こりゃ舐めてかかったらやべぇ』と漸く気づいたようであり、気を引き締めだす。
「あ、アッシュくん! ここは僕に任せて!」
 フィッツ・ビンゲン(ふぃっつ・びんげん)が名乗り出ると、アッシュが少し不安げに表情を曇らせる。
「え、でもお前戦闘は……」
「確かに僕は戦闘は苦手だけど、偽者の注意を逸らす事くらいはできるよ! 任せて、考えがあるんだ!」
「あ、おい!」
 そう言うとフィッツは制止も聞かず、偽アッシュの前へと躍り出る。
「今度はなんだ? さっきみたいに俺様を楽しませてくれよ?」
 完全に余裕綽々な態度を崩さない偽アッシュに、負けじと睨み返すフィッツ。
「その余裕もいつまで持つかな……? これを見ろっ!」
 そう言って、フィッツが取り出したのは大きな看板の様な物。それには上から下へ行くにつれ、徐々に小さく文字が描かれた――俗に言う視力検査表である。何処から取り出した、とかいうツッコミは厳禁だ。
「さぁ、これは一体なんだ!?」
 そう言って支持棒で文字の一つを指す。
「ら」
「正解! ではこれは!?」
「め」
「正解! じゃこれは!?」
「え」
「ぐっ……じゃ、じゃあ次は穴が開いてる方角を指してぇッ!?」
 直後、視力検査票は偽アッシュの目からビームで吹っ飛んでいた。プスプスと残った足の部分の断面から煙が上がっている。
「もう終わりか?」
「ま、まだまだ!」
 フィッツは【技師ゴーグル】をはめると、
「くらえっ!」
直後に偽アッシュへ向けて【インフィニティ印の信号弾】を放つ。放たれた信号弾が炸裂し、眩い光が辺りを包む。
「さあ、今だよみんな!」
 フィッツが振り返る。が、そこにいたのは、
「ぬおぉぉぉぉぉぉ! 目がぁ! 目がぁ!」
 目を押さえてのた打ち回るアッシュと、同じく信号弾によって目を眩まされ動けないでいる仲間達であった。最前列に居たアッシュが一番被害を受けているっぽかった。
「……あ、あれー?」
 フィッツが困ったように首を傾げる。そりゃ突然目くらましなんてかましても、知らなけりゃ防ぎようがない。それは仲間と言えども同じことである。
「で、でもそれは偽者も!」
 フィッツが振り返るが、
「ふっふっふっふっふ、策は尽きたか?」
そこに居たのは、腕を組んで目を眩く光らせる偽アッシュであった。
「ぜ、全然効いてないよぉ!?」
「目が光る相手に光で目くらまし、とか通用すると思ったのか?」
「いやその理屈おかしいよ!」
 フィッツがツッコミを入れるが、この辺りは考えるな、感じろ。
「はーい役者交代! 偽者、こっち見なさい!」
 そうこうしている内に回復したのか、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が飛び出した。
「そぉら、どうよ!」
 そしてセレンフィリティはコートを肌蹴させ、メタリックブルーのトライアングルビキニのみを纏った己の身体を偽アッシュに見せつける。
(偽アッシュと言えども相手は男。どうせ男なんてみんなスケベなんだから、この格好を見れば最低限でも驚くくらいはするわ!)
 これがセレンフィリティの作戦であった。が、
「で?」
偽アッシュはと言うと腕を組んで若干白けた表情を浮かべるだけであった。
「……ちぃッ! アッシュの奴、二次元ペドマンセー男だったか……!」
「おい待て! 勝手な事言うな!」
 それに関しては本物アッシュが抗議する。
「えー、だってあたしのこの身体診見て白けてるだけってどうよ? それとも……まさか『アッー!』な方面!?」
「そっちでもねぇよ!」
「あーもーうっさいわね! アッシュは黙ってなさい!」
「ひでぇ!?」
「おーい、終わったかー?」
 そう言う偽アッシュに、セレンフィリティがニヤリと笑みを浮かべる。
「あン? 随分と余裕だけど、いいのかしらねぇ? あたしのターンは終わってないのよ?」
 そう言うと、セレンフィリティは大きく息を吸い込んだ。

――そして、セレンフィリティの口から汚く罵るセリフがまるでマシンガンの様に放たれる。
 それは某業界の人に対しても『拷問です』と言わしめる、心を抉るだけでは収まらず塩やら味噌やらハバネロやらを塗りたくる様な酷い物であった。
 その辺りを克明に描写するとなると、それが原因でリテイクとなりかねないし、できたとしても『ピー』の嵐となってしまうため内容に関しては想像に任せる事にする。言っておくが手抜きではない。

(これが第二のあたしの策よ! 流石にこれで相手は怒り狂い、理性をなくす! こうなればこっちのもんよ! 隠れているセレアナの――)
「ねぇ、セレン」
 いつの間にか、セレンフィリティの横に立っていたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が話しかけてくる。
「ってなんでいるのよセレアナ!? 奇襲はどうするのよ!?」
「それなんだけど、アレ見なさいよ」
「え?」とセレアナが指さす方をセレンフィリティが見る。
「あ、終わったか?」
 欠伸交じりの偽アッシュがそこにいた。傷ついている様子は皆無であった。
「ど、どうして!? ま、まさかあたしの罵詈雑言が効かなかったって言うの!?」
「とりあえず、あっちには効いているみたいよ」
 そう言ってセレアナが指さした先には、まるでぼろ雑巾の様になっているアッシュが転がっていた。アレはもう駄目かもわからん。精神的にHPがとっくに0状態だ。
「いや、目に悪口言われてもなぁ……」
 退屈そうに偽アッシュが言う。
「くっ……スケッチブックでも持ってきて書いて見せればよかったわ……!」
「それもどうかと思うわね……とりあえず、何もしないのも癪だから」
 セレアナはそう言って偽アッシュに向けて【光術】を放つ。が、やはり目を光らせてしまい全く効いている様子は無かった。
「やっぱ効いている感じはしないわね」
 セレアナが思った通り、という様に軽く息を吐く。
「まあ、その通りだな」
 目を光らせつつ、アッシュが勝ち誇ったように笑みを浮かべる。が、
「ええ――でも、気を逸らすくらいはできたようね。後はそっちに任そうかしら」
セレアナも、勝ち誇ったような笑みを浮かべるとセレンフィリティと一歩引く。
「――何?」
 気づくと、偽アッシュの周囲はロープのような物で囲われていた。