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とある魔法使いの灰撒き騒動

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とある魔法使いの灰撒き騒動

リアクション

「その怒り、ぶつけるのならいつやるの? 今でしょ!」
 
 そう言った後にリカインは【咆哮】を発動させた。リカインの声は瞬く間に室内に響きわたった後静かになる。
 その咆哮が戦闘開始の合図だった。
 ララが素早くヴァンドールの腹を蹴ると、ヴァンドールはララとリリを乗せたまま不滅兵団の頭上を飛び越して鎧に向けて走り始める。それと同時にリリは最初の壁として配置した不滅兵団の召喚を解除した。

「やっと出て来たか。あまりにも遅すぎて欠伸が出る所だったわ」

 ふん。と偽アッシュは鼻で笑うと、周囲に漂っていた灰を集合させて小さな灰人形を造り、不滅兵団から出て来たリカインとなななに向けて攻撃を命令する。
 伝説のハリセンを持ったなななは迫ってくる小さな灰人形に怯える事も無く、むしろ怒りを発散させるために積極的に灰人形の列に突っ込んで行きばっさばっさとハリセンを振りかざし人形を灰へと戻して行く。

「な……なんだと」

 早いペースで灰人形を灰に返されるのを目の当たりにした偽アッシュは、灰人形を補充しようとブレスを上げた。
 
「今なのだ!」
「応ッ!」

 ララはリリの合図で手に持っていた槍を持ち替えると、ブレスが完全に上がる前に【シーリングランス】をブレスに向けて放つ。
 偽アッシュは突然目の前に迫って来た槍の穂先に貫かれる形で後ろの壁に繋がれて攻撃を封じられた。
 
「……頭が本物のアッシュじゃなくてよかったな。あーあ、眉間と目玉がぐちゃぐちゃで前が見えなくなっちまった」
「君は戦闘狂か? 戦闘が始まると途端に口数が増えるなんて、あまり聞いた事が無い」
 
 ララが真剣な眼差しで偽アッシュを見つめる。
 ニタリと仮面の奥の偽アッシュが笑い、次の言葉を発しようとした瞬間ブレスをリリの両手がブレスを塞ぎ、高濃度の【アシッドミスト】が顔面と身体中に掛かった。
 
「ぶへっ……なんだこの酢水のような匂いの水は!!」

 覆われていたリリの両手を振り払うかのように偽アッシュは大声で叫び、ヴァンドールに乗ったリリとララを落とそうと壁に着いていたヴァンドールの両前足を掴もうとするが、一足早かったララの操作で空ぶりに終わった。

「おおっと! 鎧との邪魔はもうさせないとか?」
 
 ヴァンドールの後に続こうとしたなななとリカインの前を塞ぐかのように、アッシュと同じぐらいの背丈の灰人形が一体出現した。
 その灰人形は何も言わずになななとリカインに向けて突進して来る。
 灰人形が突進してきたのを見ると、リカインはなななを守るように前へと一歩出た。
 灰人形はぶつかる直前に立ち止ると、リカインに向けて左パンチを繰りだしたのだが……。
 グローブにパンチが決まった音が響く。なんだ!? と言いたげに灰人形は前方を見ると、リカインがアブソービンググラブを両手に嵌めて人形のパンチを受け止めていたのだ。
 グローブに接触していた拳の塊が力を吸収され、元の灰に戻りかけたのを感じると人形は距離を取るために後方へと下がろうとしたのだが、後方に距離を取ろうとする灰人形を阻止するかのように、なななは伝説のハリセンを刀に見立てて灰人形の腹を横に薙ぐ。
 だが、相手は灰の塊。なななの攻撃は腹に当たる灰を空気に戻しただけだった。
 しかも灰人形は体積を小さくしながらなななの背中を蹴って、さらに後ろへと距離を稼ごうとバク転をした。
 
 ヴァンドールが偽アッシュの攻撃を避けようとするのと後方で灰人形がバク転をしたのは同時だった。
 なななが床に倒れる音を聞いて、リリは【ブリザード】の詠唱を始めたのだ。
 聞きなれた詠唱にはっとした表情をしたリカインは、ワンテンポ遅れて【滅技・龍気砲】を打とうと力を貯め始める。
 【ブリザード】の詠唱が終わると魔法は瞬く間に発動し、部屋全体が凍りつき鎧と空中を漂っていた灰と灰人形は床へと降りて来たのだ。

「皆、ちょっと脇にどいて!」

 力を貯めていたリカインは、三人にそう叫ぶと灰人形と鎧が直線に並ぶような位置まで移動した後【滅技・龍気砲】を打ち出した。打ち出された巨大な光弾は灰人形と鎧に直撃し、壁に穴を開けながら外へと飛ばされた。

「せっかく造ったロボットが……」

 夕方のチャイムがヒラニプラに鳴り響く中、女子生徒は【滅技・龍気砲】でべこべこになった鎧を見てひどく落ち込んでいた。鎧の中に居た偽アッシュはどうやら光弾の衝撃で蒸発したようで女子学生と槍を回収しに来たララ達によって中身が空っぽになっているのは確認している。

「けどさ、偽アッシュは倒したんだし一件落着だと思うんだよね」

 なななが落ち込んでいる女子生徒を励まそうとしたのだが。

「金元さん! 研究所の修理費、情報科の予算から貰う様に大佐に言って置きます!」
「ええっ!! そんなー!」

 どうやら彼女には励ましの言葉とはならなかったようだ。