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 第3章 集団狼

「来ましたね……」
 響き渡ってくる人狼の鳴き声を聞きながら、マリアはつぶやいた。
 マリアは足早に、城の方向へと急ぐ。
「昼に調べてくれた人達の話だと、たしか城が人狼たちの出入り口なんだよね」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が一緒になって走っていく。
 【人狼の出入り口は城の最奧にある】
 その情報は、先ほど北都達から教えてもらった情報だった。
 もし、それが確かなら、城さえ固めれば被害をさらに押さえることができる。
 そのためにマリア達は城へと向かっているところだった。

「待て、お前たち何者だ!」
 城へ向かう途中、突然建物の影からサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が飛び出てくると、剣を前に突き出してけん制してきた。
「怪しいものじゃないですよ!?」
「ええ、私たちは……」
「マリアじゃないか」
 サビクはようやく詩穂とマリアの姿を確認すると、険をしまう。

「よっ、やっぱ来たか」
 物陰から、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が現れる。
 それにマリアは軽く会釈をして答えた。
 再び目線を地面から戻したとき、シリウスが手元に”グランツ教聖典”を持っていることに気がついた
「それは……」
「ああ、これ? こないだ買ってみた……ってか、オレ、一度体験入信したことあるんだよね」
「そんな。全然気がつきませんでした」
「まあ、気にするなよ」
 マリアは手を口元に当てて驚く。

 そんなことをしていると、もう1人の女性が近づいてきた。
「おおー、マリア土偶じゃな?」
「えっ」
「それ言うなら。奇遇や!」
 戸惑うマリアをよそに、神凪 深月(かんなぎ・みづき)のボケ(?)に狼木 聖(ろうぎ・せい)が素早く突っ込みを入れた。
 マリアはそんな2人にきょとんとしながら見ていると、もう1人小さな少女が聖の後ろにいることに気がついた。
「ひぅ……磔にされて死ににくい所を槍で刺しながら、いつ死ぬか賭事に使われるですの……」
「は、はいっ!?」
 思わず何のことなのかわからず、今まで出したことのないような戸惑いの声をマリアは出した。
「すまんな、こいつ極度の人見知りでな」
「そうですか……」
 マリアは何か感じたのか、何度も深月(なぜか、おにぎりを取り出して食べている)と聖、そして極度の対人恐怖症というアリア・ディスフェイト(ありあ・でぃすふぇいと)を見比べた。
「もしかして、お2人のお子さんですか?」
「そうそう、わいの珠のような……ちゃうわ! 黒髪2人から金髪ん子が生まれるってどういうことやねん!」
「ご、ごめんなさい」
 聖の言葉に、マリアは何度も腰を曲げて謝る。

「そんなことをしてる場合じゃないぜ」
 唐突にシリウスは警告を発した。
 全員が、シリウスの方を見る。そちらには人狼たちが歩いてくる姿が見えた。
「グルゥウウッ」
「これが……人狼」
 マリアは初めて出会う人狼に若干の恐怖すら感じる。
 その衝撃にマリアがしばらく人狼を見つめている間にほかの人狼がマリアに向かって今かと、襲いかかってくる。
 が、それをサビクの剣が打ち払う。
「おい、ぼーっとしてるんじゃねぇぜ!」
「あ、ごごめんなさい!」
 マリアは素早く銃を取り出して、戦闘態勢をとる。が、やはり目の前に立ちはだかる人狼の姿にはなれなかった。
 (彼らは……人なのでしょうか狼なのでしょうか……)
「ちっ、逃げ道がほとんど埋め尽くされるほどこっちに集まってきてるな。どうなってんだ?」
 シリウスが”ディテクトエビル”を試みようとするも、ほとんどの退路が人狼によって埋め尽くされようとしていた。
「思ったより数が多いみたいだね」
「なんとかしてマリアを逃がしたいところだが」
 軽く歯ぎしりをさせて、状況の打破をシリウスは狙う。
 しかし、マリアはそれを「私なら大丈夫です」といって、逃げることを拒否する。
「このまま逃げても、ここの人たちが救われるわけでもありません……それなら!」
「しかしーー」

「マリアさんがそこまで言うなら、良いんじゃないかな?」
 始終、人狼を警戒していた詩穂が口を開いた。
「うむ。なんなら、わらわ達がサポートしてやればよいだけのことじゃろ?」
「……みなさん」
 マリアは深く、お辞儀をする。
 シリウスは少し考えたのちに、頷いた。
「……よし、わかった。ただし、無茶だけはするなよ?」
「はい!」

「行くのじゃ!」
 深月の言葉とともに、”インフィニティ印の信号弾”によって暗闇が照らされる。
 その光の強さは、直視すれば目を開けられないほどの強さだった。
 人狼たちは思わず地面に目を伏せる。
「……バーサーカーの語源、『ベルセルク』の力をお見せしましょう!」
 よく見ればとげだらけの鎧を身にまとった詩穂は巨大な剣で人狼たちを次々と横凪にしていく。
 さらに”アウトフェイサー”と”クライ・ハヴォック”により、詩穂達に対して思わずひるんでしまう。
 まるで、獣の皮を被った狩人のようだった。

 それに続くようにして、シリウス達と深月達が続く。
 シリウスとサビクは協力し、敵の足下を崩していく。

「怨嗟を焔に……吼えて、エタニティ・ティアーズ!!」
 アリアは地面に剣を突き刺したまま、詞を唱えると、地面から人狼たちへ向かって火の柱が上がる。
 深月は剣に塗っていた”しびれ薬”を用い、人狼たちを麻痺させ、聖は足払い+”スランクラッシュ”の2段連撃で倒していく。
 瞬く間に人狼は、進むことをやめ、引き始めていた。

「マリアさん、もしかして指輪をつけてる人こそがよみがえった人狼とおもって、追いかけようとしていませんか?」
「……私にはまだ……何もわかりません」
 構えていた銃を下に下ろし、詩穂の目を見ることもなく、マリアは答える。
 しばらく詩穂は考え込むと、笑顔で言葉を続けた。
「思想、正義、宗教は人格なんかじゃない、もっと自分の意思を。もっとこの町の人を信じてみてはどうでしょうか?」
「………………」
 マリアは沈黙をしばらく続けると、静かに頷いた。
 今動いているのは、グランツ教の命令だが、密かに別の目的がマリアにはある。
 ただ、その目的はまだ誰にも話せない。
 それでも、町の人を信じるという詩穂の言葉をしっかりと心に刻む。

「本当にこの先に進むのか?」
「はい……なんとしても進まないといけません」
 シリウスの問いにマリアは銃を再び構えて答える。
「ふむ、良い決意じゃの。ではわらわ達もついて行くのじゃ」
「えっ、それは助かりますが。良いんですか?」
 マリアが詩穂と深月達を見ると頷いて見せた。
「しょうがねぇな。よし、行くぞっ」
 マリア達は、シリウスの”ディテクトエビル”を頼りに進んでいく。
「……国家神が弱神かどうか、まずはその従者から判断してもらうよ?」
 サビクはマリア達について行きながら小さくつぶやいた。