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リアクション
ユニコーンの護衛2
「あーもう、罠全部見破られるってのは流石に予想外だわ」
村の東端。ユニコーンの住処のある場所よりも東で襲撃者――黄昏の陰影――を迎え撃つセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はそう言う。
一部の罠はわざと見つけやすいようにして本命を隠していたりしたセレンとしては不本意極まりない。
「しかもこっちの誘いにも引っかからないし」
経路を塞いだり、回避不可能な罠を使って、一部だけ守りの薄い部分を作っていたセレン。そこを狙ってくる襲撃者を撃退して捕縛しようと思っていたが、襲撃者たちは壁乗り越えるわ罠を爆弾で吹き飛ばすわで誘いに乗る様子がない。
「セレン。気持ちは分かるけど落ち着いて。搦手が効かないならまっすぐいくだけよ」
そう言ってパートナーをおさめるのはセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。
「あれ? セレアナにしては珍しい意見」
いつも冷静な恋人にしては正直すぎる意見だとセレンは思う。
「私の作戦もだいたい失敗してるし。これ以上は無駄と思っただけよ」
情報撹乱などで相手の連携をたとうとしたりしたセレアナもその作戦が不発に終わっていた。だからこそ冷静に真正面から向かうことを勧める。
「その作戦乗ったわ」
というより言われなくてもそうするつもりだったセレン。
「これでどう?」
あらかじめ威力を抑えた機晶爆弾を敵に放るセレン。砂埃が舞う戦場をホークアイで見通す。
「……上等よ」
その中を爆弾に怯むことなくこっちに迫ってくる敵にセレンも真っ向から進む。
「援護するわ」
女王の加護で守りを強化しているセレアナがセレンに続く。
二人で真っ向に向かった結果、黄昏の陰影を一人捕まえることに成功した。
「魔法に効きにくいみたいですが……それでもやりますか? 姫」
襲撃者を前に申 公豹(しん・こうひょう)は姫こと赤城 花音(あかぎ・かのん)にそう聞く。
「申師匠と二人の力を合わせれば大丈夫だよ!」
「やれやれ……姫の前向きっぷりは見習うべきかもしれませんね」
そう言うならと申はもともとの作戦を実行することを承諾する。
「ディテクトエビルは……ダメみたいだね」
敵意のある存在を判別できないと花音は言う。
「仕方ありません。目視で行きましょう。私が操作します。姫は合わせてください」
花音と申は手をつなぐ。
「いくよ! 雷公禁鞭!」
申のヒロイックアサルト雷公鞭に花音の力を合わせた技。雷公禁鞭と名付けた雷が瞬時に発動し襲撃者たちを襲う。
「……やはり、決定打にはなりませんか」
雷公禁鞭を受けた襲撃者がそのまま倒れるということはない。
(威力は実際の三分の一から四分の一といったところですか)
その身を蝕む妄執を始めとした関節系かつ相手に直接作用する魔法がほぼ無効化されたのに対し攻撃魔法であればある程度効くらしい。
「童! 敵がしびれているうちに決めるのです」
そう申はリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)に言う。
「どこまでやれるか分かりませんが……」
リュートは騎馬で駆けて敵に向かう。
「……ちっ、分が悪いか」
ニ、三リュートと打ち合った所で襲撃者は下がる。痺れのある状況ではまともに戦えないと判断したらしい。
下がっていく襲撃者をリュートは追わず、花音と申のもとに戻る。
「引き際を間違えなかったようですね」
「僕の役目は花音と申師匠を守ることですから」
そしてとリュート。
「最終的にラセンさんが守られればいいんです。逃げる敵を追って守りを薄くしても意味がありません」
リュートの言葉に花音は嬉しそうな顔をする。
「うん! みんなでラセンさんを護り抜くよ!」
そう言って花音は気合を入れる。
「ウィン姉! そっちはどう?」
気合を入れた所で花音は現在の戦況を把握するため、上空で情報収集にあたっているウィンダム・プロミスリング(うぃんだむ・ぷろみすりんぐ)にあ声を上げて聞く。
「基本的に契約者が押してるわ! この調子で行けば守りきれそうよ!」
小型飛空艇オイレからそう伝えるウィンダム。
(……でも、やっぱり魔法が決定打にならないってのは大きいわね)
物理では基本的に一対一でしか相手ができない。広範囲の攻撃になればどうしても魔法的な要素が関わってくる。
(どうにかしないといけないわ)
襲撃者に負けることはないだろう。だが、相手のほうが数の多い現状ではどうしてもフリーな襲撃者が出てくる。それからユニコーンを守る方法を考えなければいけなかった。
「ったく、『黒羽』初仕事がこんな大きな仕事になるとか……幸先いいのか悪いのか」
愚痴のように言うのは黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)だ。この村を拠点として動くと決めた竜斗。何をしようかと迷っていたが昨日やっと決まっていたた。便利屋『黒羽』として迷子のペット探しから公共施設の掃除まで。村で起きた困りごとを請け負うと。もちろんユニコーンが狙われているというこの状況も立派な村の困りごとだ。
(……ま、仕事じゃなくても同じ村民守るのは当然だけどな)
そう思う竜斗。
「竜斗さん新手のようです」
スナイパーライフルを構えて竜斗に警告するのはユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)だ。
「ああ、分かってる。援護射撃頼む」
「できれば何人か捕虜にしたいです。竜斗さん難しいでしょうがお願いします」
「可能な限りやるさ。一番はユニコーンを守ることだけど、次の襲撃を防ぐってのも大事だからな」
そう言って襲撃者に向かい走りだす竜斗。竜斗が近接戦闘をし、それをユリナが援護射撃する。それが基本陣形だ。
「ナイス、ユリナ」
的に接敵する直前、ユリナのスナイパーライフルの弾丸が襲撃者の肩に当たる。防具により体を貫通しているわけではないようだがその衝撃に怯む。
その隙に接敵して剣でなぎ払い更に追撃する竜斗。
「これで――」
とどめの一撃で襲撃者を動けなくしようとする竜斗。
「――ばぁ」
「うぉっ」
その瞬間に自分と襲撃者の間から出てくる小さな影。
「ルヴィ! お前何してんだよ!」
その小さな影リゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)に竜斗は聞く。
「何って……敵の錯乱だよ?」
「……質問があるんだがルヴィ」
「? 何?」
「俺は誰だ?」
「竜斗お兄ちゃん」
「俺は敵か?」
「え?……竜斗お兄ちゃん敵になっちゃったの?」
「それは俺が聞きてぇよ! なんで俺味方に錯乱させられてんだ!?」
「えへへ……間違えちゃった」
テヘッという感じで笑うリゼルヴィア。
「ったく、後もう少しだったってのに逃げられたじゃないか」
さっきまで戦っていた襲撃者は既にいなくなっていた。
「とりあえずユリナの所に戻ろ――」
振り返りユリナの所に戻ろうとする竜斗
「――うっ!?」
足元がなくなる感覚をとともに視界が急降下する竜斗。
「この落とし穴は……セレン!」
パートナーであるセレン・ヴァーミリオン(せれん・ゔぁーみりおん)が設置した落とし穴だろうと当たりをつけた竜斗はそう叫ぶ。
「うん? なんで敵じゃなく竜が引っかかってんだ?」
落とし穴の様子を見に来たセレンはそこにハマっているパートナーにそう聞く。
「だからそれは俺が聞きてぇよ! なんで俺味方の罠に引っかかってんだ!?」
セレンがいろいろな罠を設置しているのは知っていたがそれは全てスイッチ式だった。
「悪いな。うっかりはずみで……じゃなくて敵と間違えてな」
「ねぇよ! お前らどんだけ一緒に戦ってきたんだよ! ていうかセレンは本音漏れてるから!」
恥ずかしそうに笑うリゼルヴィアと悪気もなく笑うセレン。
「……捕虜は諦めましょうか」
その様子を見ていたユリナはそうため息を付いた。
ユミコーンを守る戦場。その中を風のように、また縦横無尽に進む契約者の姿があった。紫月 唯斗(しづき・ゆいと)。レガースで四方どころか上からの攻撃を可能にした唯斗はその高い格闘術で次々と敵と相対し無力化していく。何人かは既に縄で縛り捕縛していた。
「奇襲への反応は見事だが……俺の相手ではないな」
ブラックコートで気配を消してまたどの方向から来るか分からない唯斗。その奇襲に驚かず冷静に対処する襲撃者は敵ながら見事であるが、それでも唯斗の敵ではない。
(だけど……一手だけ足りない)
縦横無尽に駆ける唯斗だが、それは魔法などが有効な攻撃でなくなったからという理由がある。本来であれば霊気剣で遠距離もカバーするつもりだったが、今は格闘だけだ。固まっているならともかく離れていれば一人ずつしか相手にできない。
「っく……間に合わないか」
一人と相対している間に別の襲撃者がユニコーンの住処に向かう。中にいる契約者も凄腕のはずだから大丈夫だと思うが……。
「……他に心配事をしても余裕ある相手でもありませんか」
もし隙を見せればこの襲撃者は撤退するだろう。そういう相手だと唯斗は理解していた。
「逃がしませんよ。聞きたいことがたくさんありますからね」
そう言って唯斗は油断なく襲撃者に構えるのだった。
ウィンダムはその様子を見ていた。襲撃者の一人がユニコーンの住処に向かう所を。中には契約者はいるだろうが、それだとユニコーンにつらい思いをさせてしまうかもしれない。
(ここで、防がないと)
周りを見るが、今フリーなのは自分だけだとウィンダムは確認する。
(……無効化される可能性が高いけど、それでも)
魔法がほとんど効かなかった相手だ。きっと突破されるだろうとウィンダムは思う。けれど何もしないでいるのはできない。
『―――♪』
音楽の結界アヴァロン。花音やウィンダムが使うそれは契約者の持つスキルを歌の魔力に込めたものだ。それをユニコーンの住処のすぐ周りに張る。
「……ちっ……撤退だ」
アヴァロンを前にした襲撃者は破ろうともせずに翻る。それどころかそれまで他の契約者と戦っていた襲撃者に合図をして一緒に撤退を始める。
「……どういうこと?」
その様子に首を傾げるウィンダム。
ただ分かるのはその場にはもう戦うものの姿はないということだった。
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