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 現在から数年後。
 地球。

「……お疲れ様です」
「本当に疲れたよ。久しぶりにパラミタに行きたいんだけど。エオリア、何とかならないかな?」
 護衛兼秘書であるエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)を引き連れ、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は実家の事業の仕事であちこち飛び回る生活をしていた。多忙で息抜きをしたくなる毎日。
「もうそろそろだと思いまして来週頭から短期休暇を取れるように調整しておきましたよ」
 長年の付き合いで以心伝心であるエオリアはすでに日程を調整していた。実はそれだけでなくエースの身の回りの世話や癒しである花を用意したりと昔と変わらない役回りである。
 予定通り、エオリアの調整によりエースはパラミタの家へと短期休暇を楽しみに行った。

 パラミタの家、玄関。
 エース達が離れてから花やエースが拾った猫の世話をしているのはリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)だった。二人の環境もまた変わっていた。

「いらっしゃい、エースにエオリア」
 休暇で来たエース達を迎えたのはリリアだった。
「いらっしゃい!!」
 エース達の訪問を知り、庭からやって来た双子の兄妹が嬉しそうに迎えた。端正な顔立ちは両親の血を感じる。そうメシエとリリアの子供達である。
「君達も元気そうだね。お土産もあるよ。まずは小さなお嬢さんに地球の花を」
 エースは屈み、小さな淑女に地球の花を差し出した。
「うわぁ、綺麗! ありがとう!」
 少女はにっこり笑ってから花を受け取った。
「新しい玩具をどうぞ。これでニャンコ達と遊んでくれるかな」
 エースが次に取り出したのは猫用の玩具。それは少年に手渡した。
「ありがとう。これでたくさん遊ぶね!」
 受け取った少年は嬉しそうに言った。
「おかあさま、おとうさまに見せて来るね」
「走って転ばないようね」
 メシエに見せたくて駆け出す娘を優しく見送るリリア。
「ねぇ、今日はどんなおやつ?」
 少年は上目遣いにエオリアを見上げて訊ねた。
「……それは内緒です」
 エオリアは屈み、人差し指を口元に立てながら言った。
「分かった!」
 少年はこくりとうなずき、メシエの元に行った。
「ごめんね、エオリア。せっかく来てくれたのに、あの子達、あなたが作るお菓子が好きだから」
 リリアはエオリアの休暇を台無しにした事を謝った。ここに来る度にエオリアは料理をし、子供達の大のお気に入りとなっていた。
「いえ、気にしないで下さい。僕にとっては息抜きになりますし、誰かに喜んで貰えるのは嬉しいですから。では、早速、借りますね」
 エオリアはそう言って勝手知ったる台所に向かった。
「花達は元気かな。花妖精の君の事だから心配は無いとは思うんだけど」
 再会の挨拶もそこそこにエースはリリアに託した花達が気になって仕方が無い。
「元気に咲いているわ。良かったら彼女達に顔を見せてあげて。喜ぶから」
 リリアは毎度変わらないエースの様子に笑みながら言った。植物の管理はリリアが雇った庭師がリリアの指示の下行っている。
「あぁ、早速そうさせて貰うよ」
 エースは言うやいなや花達の所に急いだ。

 色鮮やかな花が咲き乱れる花壇。

「さすが、リリアの選んだ庭師達だ。完璧に管理されてるな」
 エースは一点の曇りもない美しい花壇に心奪われていた。
「どの子も変わらず綺麗に咲いていて嬉しいよ。君達の姿や香りは俺を癒してくれる。ありがとう」
 感動を言葉にしてからエースは一輪ずつ再会の挨拶をかけて言った。昔と何も変わらない花を愛する姿がそこにあった。

 庭。

「メシエ。その花……」
 手に土産の花を挿すための花瓶を抱えたリリアがメシエがいるベンチに来た。
「エースの土産を二人が見せに来たのだけど、猫と遊ぶからと預かるように言われてね。その花瓶にでも挿しておいてよ。枯れでもしたら悲しむからね」
 メシエは先ほど騒々しくやって来た子供達に報告を受けた挙げ句、花を押しつけられたのだ。
「えぇ、そのつもりで花瓶を持って来たのよ」
 リリアは笑いながらメシエから花を受け取り、花瓶に挿した。
「……メシエ、こうしてあなたと家族を築けて幸せよ」
 リリアは花瓶を手にメシエの隣に座った。視線は庭で猫達と遊び回る子供達に向けられている。
「君とは寿命が違うからずっと見守るだけで十分だと思っていた。でも今は悪くないと感じているよ。過去の事もあって臆病になっていただけと言う事なんだろうね」
 メシエは視線を宙に向け、婚約者を亡くした古代王国の頃の体験などを回顧していた。
「そう言ってくれると嬉しいわ」
 リリアは満面の笑顔。愛する人が幸せなのが何よりだ。
「しかし、こうして子供達の成長を見守るのも面白いものだね。長寿だからか時の流れが停滞しているように思えていたが、リリアと知り合ってからは時の流れの速さを感じるよ」
 メシエは薄く苦笑を浮かべながら子供達に目を向けた。よちよち歩きだったのがもう外を駆け回っているのだから驚きしかない。
「それは幸せな証拠よ。あっという間に大人になってしまうわ」
「そうだね」
 リリアの指摘にメシエは静かにうなずいた。幸せな時間ほど速く感じ辛い時間は永遠に感じるもの。それはどんな種族でも同じはず。
「でも大丈夫よ。あなたは孤独になんかならないわ。私が居なくなってもあの子達がいるんだから。次の世代を繋げて行くのが、私達の種族の特性だもの。花は枯れても又新しい花が咲くでしょ。だからメシエは何も悲観しなくていいのよ」
 リリアは笑顔ではなく真剣な表情で伝えた。

 そんな時、
「おとうさま、どうしたの?」
「何か辛い事を思い出したの?」
 遊んでいたはずの息子と娘が心配そうにメシエの様子を窺っていた。
「いや、君達といられて幸せだと思っただけだよ」
 メシエは子供の敏感さに軽く笑みを浮かべて答えた。
 さらにタイミング良く
「お菓子とお茶の用意が出来ましたよ!」
 エオリアのおやつの時間を知らせる声。
「おとうさま、行こう!」
「……あぁ」
 メシエは子供達に手を繋がられ、引っ張られるようにして一緒に行った。
「ふふ、本当に幸せね」
 リリアは家族の後ろ姿を幸せそうに眺めていた。
 挨拶を終えたエースも合流し、エオリアの作った焼き菓子と庭のハーブを使用したハーブティーで賑やかなお茶会を始めた。

■■■

 覚醒後。
「今と変わらない生活でしたが……何をしているんですか?」
 エオリアは体験した未来に感想を洩らした後、エースが携帯で何やら写真を撮っている事に気付いた。
「せっかくだから写真に撮って後でリリアに見せようと思ってね。メシエに内緒で」
 エースは隣でまだ寄り添い互いに手を握りながら眠っているメシエとリリアの姿にあまりの微笑ましさに静かに任務を遂行していた。
「……内緒はともかく幸せそうですよね」
 エースの行為はともかくエオリアもメシエ達の幸せな姿に微笑ましさを感じていた。



 現在から数年後。

 夜中、とある新婚夫婦の家。

 送迎の兵士を見送り、玄関のドアを閉めてから
「お帰りなさい、鋭峰」
 董 蓮華(ただす・れんげ)金 鋭峰(じん・るいふぉん)を笑顔で労った。
「最近、帰りが遅くてすまない」
 鋭峰は結婚前と変わらぬ素っ気なさでここ最近帰りが遅い事を謝った。
「気にしていませんよ。だって、鋭峰の仕事がどれだけ大変なのか知ってますから」
 鋭峰の仕事をよく理解している蓮華は全く気にしていない。
 二人は室内に入った。

「どうします? 先に食事にしますか? それともお風呂にします?」
 上着を脱ぐ鋭峰を手伝いハンガーに掛けながら訊ねた。
「先に食事をしよう。君もまだ食べていないのだろう」
 着替えを終えた鋭峰は即答した。
「はい。その、一緒に食べたくて」
 蓮華は嬉しくてうなずき、予め作っておいた料理を温め直し始めた。どんなに遅くても鋭峰と食事を共にしたくて蓮華はよく待っているのだ。

 ゆったりとした食事。
「どうですか? 忙しいので少しでも栄養を摂って欲しくて作ってみたんですが」
 蓮華は自分が食べる前に鋭峰に味を訊ねた。食卓に並ぶのは蓮華が庭の家庭菜園で丹精込めて育てた野菜をふんだんに使用した家庭料理だ。
「……美味い。君の心遣いをとても感じる」
 鋭峰は料理を口に運び続けた。
 食事が終わり、入浴後のワインでの晩酌を終えた後、鋭峰は明日の仕事のための書き物をし、蓮華は鋭峰が着る服を甲斐甲斐しく準備をしていた。
「蓮華、今週末どこかに出掛けないか? 君に予定がなければの話だが」
 鋭峰は作業の手を止め、蓮華に声をかけた。
「えっ? 今週末ですか? 私は大丈夫ですよ。どこに行きますか?」
 蓮華は予想外の誘いに嬉しくなり行き先を訊ねた。
「君が行きたい場所で構わない。ここ最近、帰宅が遅く君に寂しい思いをさせているからな」
 鋭峰は忙しい最近を振り返っていた。丁度週末が休暇となったので蓮華のために時間を使おうと考えたのだ。
「気にしなくていいですよ。私は鋭峰と結婚出来てとても嬉しいんですから。あの、今更こんな事を聞くべきではないかもしれませんが、いいですか? 私と結婚する少し前、中国本土の有力者の娘との婚姻話がありましたよね。私はあの時、てっきり……」
 中国の財界人家出身である鋭峰と自分では身分違いだから自分を選ばないだろうと蓮華は諦めていた。しかし、鋭峰は婚姻話を蹴り蓮華と結婚したのだ。気になる理由は今日まで忙しくて聞けなかったのだ。
「その事か。蓮華、それは無用な悩みだ。あの時、私が選ぶべき相手は君以外存在しなかった。君は、私の仕事の支えとなり私自身を理解しようと心を尽くし愛情を傾けてくれた」
 鋭峰は迷う余地の無い事実であるかのように話し、口元に少し笑みを浮かべていた。
「……鋭峰。私、死んでもいいほど幸せです」
 嬉しさのあまり蓮華は椅子に座る鋭峰を後ろから抱き締めた。
「いや、死なれたら困る。この先も共に生きるつもりなのだから」
 鋭峰は蓮華の手に触れ、少しだけ苦笑気味に言った。
「はい。私、ずっと鋭峰の傍にいますから」
 蓮華は満面の笑みでうなずき、二人はそのまま唇を重ねた。

■■■

 覚醒後。
「……あぁ、金団長と結婚なんて、鋭峰って呼んで独り占めだし……しかもハグにキスまで……」
 夢見心地で悶える蓮華。効果を疑わず望む未来を見られると勘違いして参加したが運良く素敵な体験が出来たようだ。恥ずかしさのあまり内容報告は拒否するが、様子から幸せだったとアゾートは判断した。
 この後、アゾートへの交渉を成功させ、パートナーのために明るい未来体験薬の持ち帰り、使用後、アゾートとの約束通り体験内容を報告した。