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―アリスインゲート2―

リアクション公開中!

―アリスインゲート2―

リアクション

 フランシス・ウォルシンガム(ふらんしす・うぉるしんがむ)は入った情報にかぶりを振った。
「やれやれ、まさかこちらから裏切りものが出るとは」
 ラビットフットの補足に成功したというのに、補足した人物からは一向に連絡が来なくなった。つまり真司だ。
 佐野和輝からの情報だと彼はラビットフットを連れて森に逃げたようだ。
 それを裏付けるように彼の位置情報が軍部の情報局から送られてくる。支給されたAirPADは破棄されているはずなのだが不思議と。これも技術かと納得するしかない。
 ブックマンことエドワードから連絡が入る。
<やっこさんがウサギを抱えて森に入っていった。ルートとしてはこちらの予想通りだが天候と場所から詳しい場所が把握できなくなるとの事だ。プレイム。部隊を投下しろ>
「了解した。後は任せてもらおう」
 通信を切り、再び他へと繋ぐ。作戦の発令をするために。
「ウサギが森に入った。ナイト・ナイン、作戦を開始しろ」



 森に突如として雨が降り始めた。瞬く間に雷鳴と豪雨が襲う。
 森の外では風も強いが、中では木々が風を和らげてそうでもない。
 視界は雨で悪く、日が落ちて暗い。耳も雨音と葉音の轟音に塞がれる。
 身を隠して進むウサギには絶好の順路と言えるが、足場は悪い。ヒールの踵を両方折ってもそれは変わりないだろう。
 物見遊山にこの森に入った富永 佐那(とみなが・さな)が台風の目だった。
 【ノース】の国境側から森に入り、ことの顛末を見に来たわけなのだが、不幸か自業自得か、ここがキルゾーンと成るとは思ってもなかった。成るにしても巻き込まれるとは更に思っていなかった。


 森に入って【ノース】の国境まで1kmもないとこで、ようやく後ろをつけてくるダンボールに目を向けた。雨に濡れてグズグズに崩れた濡れ紙をまとった追跡者に、
「バレバレです。というか見え見えです」
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が指摘する。
「ふふふ……自分のカモフラージュを見破るとは、いいセンスであります」
 でろっとまとわりつくダンボールを剥がし、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が姿を表した。ずっと前に足も触手も丸見えだったのだが、《歴戦のダンボール術》を過信してそのまま追跡をしていた。ダンボールは森の中では目立つのを知っておくべきだろう。
 コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が得た情報を元に吹雪たちは真司を追跡していた。彼らがラビットフットに協力し亡命を支援していると聞いたからだ。
「その脱走者を捕まえて賞金を独り占めするのは自分……ではなく、独り占めしようとは許せないであります!」
「あなた絶対なにか勘違いしていませんか……」
 ヴェルリアはラビットフット確保に賞金がかけられているとは聞いていない。隣に目をやると真司も首を傾げる。
「こいつら、しらばくれるきか……」
 イングラハムが触手をほんわかとうねらせ威嚇する。
「そうとなれば仕方ないでありますな。大佐……」
 通信先のコルセアをそう呼ぶ吹雪。コルセアは<誰が大佐よ>と返す。
「奴らの弱点をよこすであります!」
 真司とヴェルリアが攻撃に身構える。
 通信機からの声が告げる。
<わかったわ……俺が今から《サイコメトリー》で貴様らの過去を見てやる……ぬぅん!>
 何かサイコ的なものに憑依されたのかコルセアの口調が変わる。気合を入れた掛け声とともに《サイコメトリー》……ではなく情報収集を行う。彼女はマインドリーディングも《サイコキネシス》も使えないことを最初に断っておこう。
<ぬ……ばかな……メモリカードが刺さってない! く、過去のシナリオ管理データはHDDにも入ってないだトォ……>
 どこからか情報を得て精神攻撃をかけようとしたのだろうが、失敗する。
<ならば! そのコントローラーを床に置け……なるべく平らな場所にだ……! 俺の《サイコキネシス》の力見せて――>
「そんなもの持ってはない。というかこの世界(ゲーム)にコントローラーは必要ない」
 真司の発言に声は大きく動揺する。
<キーボード……振動機能はついて……ない……! そんな……ばかな……! おの、おのおおののれれ……!>
 通信の声が奇声に代わり、耳障りなノイズを発する。そして、
<ク……クタラギサーーーーーーーーーン!!>
 意味不明な悲鳴とともに通信がぶつりと切れた。精神攻撃に失敗し挙句精神的に自爆したようだ。
「大佐、応答しろ! 大佐、大佐――!!」
 コルセアをやられた怒りに吹雪が銃口を構える。
「よくも大佐をやったであります!」
 再び、構える。今度こそ交戦するしかないだろう。しかし、それも通信によって出鼻をくじかれる。今度は真司に通信が入る。上空からの航空支援に備えたアニマ・ヴァイスハイト(あにま・う゛ぁいすはいと)からだ。
<マスター、申し訳ないです。コレ以上は風が強くて支援できません!>
 暴風雨でアニマは飛行バランスを取るのが精一杯だ。支援しようにも、支援対象は森の中にいるし、風で砲撃支援はもっと無理だ。
「わかった。先に合流をしてくれ」
「イエスマイマスター! 西方から追手が近づいています。進軍速度が早いのでくれぐれもご注意を」
 注意を促し、アニマは支援域から離脱する。
 警鐘を受けたのが早かったのが良かっただろう。雨降る森の西方より銃弾が飛来するのを彼らは感知した。
 遠く暗視ゴーグルの反射光が揺らめいた。