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湯るりなす

「やはり風呂あがりのコーヒー牛乳は格別でありますな」
 湯るりなす。湯上りにコーヒー牛乳を買った大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は一口で半分ほどそれを流しこんでそう言う。
「うむ。一度知るとやめられないの」
 剛太郎と同じようにコーヒー牛乳を半分ほど飲んだ大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)もそう言う。
「休養地として発展しているだけあって、休暇をゆっくりと過ごすというのに適しているでありますな」
 この村で過ごしている間ゆったりとした時間が流れているような気がすると剛太郎は言う。日頃感じている疲れも大分取れた気分だった。
「そうじゃの。何度か訪れているが来るたびに落ち着ける雰囲気になっていっておる」
 普通は発展するに連れて逆に進行するものじゃがと藤右衛門は言う。
「そういえば、ここにはレトロゲーがあるそうであります」
 遊戯部屋があり、そこにはレトロゲーだけでなく卓球台などもあるそうだと剛太郎は言う。
「げーむか……わしにもできるかの?」
「にょ○にょ○ゲームなら多分出来るのであります」
「そうか。ならやってみようかの」
 興味深そうに言う藤右衛門。そうして二人は遊戯部屋へと向かった。

「剛太郎、なぜこのミミズはどうして数字を食べて細長くなるのじゃ?」
「……そういうゲームだからとしかいいようがないのであります。しかし、今時本当に線と数字だけとは……徹底しているでありますね」
 同じタイプのゲームでももう少しかわいいイラストが着いたりするものだ。
「うむ、じゃが、なれると面白いの」
「単純でありますがそれゆえに奥深いのであります」
 剛太郎はそう言って藤右衛門のもとを離れてもう一つ自分が気になってたゲーム、古い格ゲーをプレイする。
「剛太郎よ。げーむが終わったら卓球をするのじゃ」
「のぞむところであります」

 こうして二人は湯るりなすでゆっくりと休暇を満喫しているのだった。


「ふぅ……そういや、温泉にゆっくり浸かるのって久しぶりだな」
 湯るりなす内にある家族風呂。予約制のこの場所でゆっくりと浸かるのは黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)だ。
「前にゆっくり浸かったのは……この村を拠点にする前か」
 その時はここではなくウエルカムホームにある家族風呂に入ったいた。そしてその時自分は……。
「お兄ちゃん、なんか緩んだ顔してるけどどうしたの?」
 竜斗の顔をまじまじと見てそう言うのはリゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)だ。今回の家族風呂を提案した張本人でもある。
「おうルヴィ。ユ、ユリナはまだ入ってこないのか?」
「エヘヘ……やっぱり竜斗お兄ちゃんユリナおねえちゃんと二人きりがいいんだ。やっぱり夫婦だもんね」
「い、いや、別にそんなことはないぞ」
 しどろもどろで言っても説得力はない。ただまぁ、本当にそれで大丈夫なのかは竜斗としても疑問ではあった。
「し、ししょー、ここはいい湯ですね」
 竜斗と同じようにどもりながらそう言うのはフィリス・レギオン(ふぃりす・れぎおん)だ。
「うん、まぁそうだな。……なんで向こう向いてるんだ?」
「だ、だってししょーの方向いたらルヴィちゃんの…………」
 はだ、までは聞き取れたがその後が竜斗には聞こえなかった。
「フィリスもなんだかんだで男のこなんだなぁ……」
 見た目はともかくとは言わない。
「あ、ユリナおねえちゃん来たみたい。ね、フィリス君。すぐに上がろう? フルーツ牛乳と温泉まんじゅう。すっごく美味しいんだよ!」
 そう言ってフィリスの手をとって早々と湯を脱出していくルヴィ(と引っ張られるフィリス)。
「ししょー! たすけてぇ?!」
 フィリスの悲鳴を聞きながら、思わず竜斗は呟く。
「……俺が助けて欲しいくらいだ」
「どうかなされたんですか? 竜斗さん」
 そう竜斗の耳元で囁くような声で言うのは黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)。名前の通り竜斗の妻である。
「どうしたのかは俺が聞きたいよ。……どうして入ってきたと思ったらいきなり抱きついてくるんだ?」
「ふ、夫婦ですし問題ないですよね!」
「問題はないかもしれないけど……いや、やっぱり問題だらけだ」
 主に男の事情的な意味で。
(……気を失っていないだけ褒めてほしい)
「ごめんなさい……竜斗さんとお風呂に一緒に入りたいのは間違いないんです。……でもやっぱり恥ずかしくて……」
「それがどうしたらいきなり抱きつくことに繋がるんだ?」
「……そうしたら恥ずかしさとか関係なくなるかなって」
 それ以前の問題にはなるが、ある意味本末転倒だ。
「……やっぱり、ユリナは可愛いな」
「竜斗さん……」
「でも……」
「?……」
「……やっぱ俺には刺激強すぎる」
 ふらふらと温泉の熱気とユリナの可愛さにやられた竜斗はそのまま気を失うのだった。