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リアクション
アンダーグラウンドに、今更に闖入者が降りてきた。
川村 玲亜(かわむら・れあ)は――今は川村 玲亜(かわむら・れあ)か。
彼女はアングラに入り込み、迷子になっていた。
入り組んだ地下構造が、もとより地図認知能力に乏しい玲亜の行き先を狂わせていた。
「またあの子迷子になってる――!?」
川村 詩亜(かわむら・しあ)が上の階層にて気付いた時には、すでに何処にいるのかわからず、【試作量産型わたげうさぎ型HC】で玲亜の位置を確認しようにも、世界が違うため電子機器の通信システムは機能せず。足で探すしか無かった。せっかくの観光が台無しだった。
「こんな時のためにあの子に発信機を付けていてよかった」
HCのシステムを短距離波探査モードに変えて、玲亜の現在地を探りつつ詩空もまたひとりの闖入者としてアングラに潜った。
それが事態を更に複雑にする事になる。
――アンダーグラウンド
「ここに悪い人たちが出るんだ!?」
翠はスティレットと意気投合していた。
「そうカータンがいってた! ゆーかいとかごーもんとかするんだって!」
誘拐と拷問の意味をこの娘は知っているのかわからないが、無邪気なものだった。
無邪気だからこそ無垢だからこそ、なんの罪悪感もなく人に力を振るうことができる。そんな危険性を孕んでいるのだが、年代の近い者には気兼ねない懐っこい性格のようだ。
「で、他に悪い人ってどんなの?」
「う〜んと」
少々考えてというよりも、アタリを見回して彼女は告げた。
指差す方向の路地の影に男たち。
「あのひととあのひととあのひとみたいなの!」
それが《ディテクトエビル》で見極めた彼女の判断だった。
男は隠れているはずだった。まさか子どもに見つかるとは思ってもいなかった。
それも複数箇所に潜んでいた仲間もいっぺんにだ。
捕まえてくる標的は子どもだと聞いていたが、油断していたわけでもないが、あの子どもはこそこそ隠れてどうにかなる相手ではなさそうだと悟った。
しかし、“どのこどもが標的なのか”もわからない。
なら、この場にいるこどもというこどもを【ノース】に連れて行くのが手っ取り早い。
相手は子どもなのだから。
だが、すぐに別の闖入者の登場にて出て行くタイミングをずらされ、更に事態が流転するのだった。
男の中には――彼は邪悪ではないためばれていない――月詠 司(つくよみ・つかさ)もいた。
αネットにて事を知り、アングラにスティレットらしき子どもを発見。様子を伺っていた。
(頭飾りをしている女の子……あの子でいいのか?)
物陰から確認する。小さなツインテールを作る二つの髪飾りのうちどちらかが能力強化のそれだろう。それは熊の髪留めか、ウサギの髪留めか。右か左か。
どちらかを破壊すればスティレットの能力は抑えられる。出来なければ力で抑えこむことは出来ない。
力を使わなくとも、スティレットに接触している彼女たちに協力を求めれば、どうにか事態を収拾できる。
しかし、不意に出て行くパートナーによってそれは難しくなる。
(シオンくん!?)
「あら、見つかってしまいました」
シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)は往々に迷惑な事を引き起こそうとする。トラブルを引き起こし他人が弄ばれるさまを見物したいという欲望/悪意に突き動かされ、幼女の指差しに応じた。
「おまえがわるいやつらのおやだまか!」
シオンが周りに隠れた男たちを率いていると思っているのだろう。スティレットはそう決めつける。ヒーローものではこういう場合に“悪の親玉から出てくる”と相場が決まっているからだ。
シオンは否定する。
「ワタシじゃない。悪い人たちの親玉は“金髪に赤い服を着たアリサ”って人だよ」
「それがおまえたちのおやだまか!」
幼女は悪を見極めることは出来ても嘘を見ぬくことは出来ない。“金髪”に“赤い服”“アの付く人”という曖昧な記憶の刷り込みが彼女の頭の中で形成された。
「シオンくん! 君はなんてことを!」
パートナーの奇行を咎めるため司が飛び出した。
「ここどこ……!? お姉ちゃ――ん!?」
詩亜を呼ぶ玲亜が不用意にその場に現れた。
彼らに続いて、隠れていた男たちも一斉に少女たちに向かって飛び出した。
司が出たのが合図と見間違ったためだった。
そして、司が出ると同時に現れた玲亜が“標的”ではと錯覚し、男たちは彼女を優先的に捕獲しようと飛びかかった。
そこに、玲亜の声を聞いて駆けつけた姉――詩亜が現れ、妹が“この場の全員に襲われている”と錯覚した。前後を挟まれて追い詰められていると。
「ダメ――――――ッ!!」
詩亜は叫び、《ヒプノシス》をこの狭い空間にまき散らした。
詩亜を除くこの場の全ての人間が眠りにつくことになった。それは、兵器たる少女も例外ではなく、寧ろ子どもだからこそ眠気には弱かった。
「だれか……かいしゅう……を……」
強烈な眠気に襲われる中、仲間に男は指示をしようと耳小骨通信を点けた。
それに答える声が、耳の外から聞こえた。
「任せておくのじゃ」
眠りこける少女たちの中から追っていた足跡の者だけを探り出し、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)とファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)は“標的”を抱えて走り去った。
誘拐犯たる男は彼女たちが見方でないと気が付き、通信の先へとこう告げた。
「目標はK地点へ……プラン……B……」
体が痺れてきた。呂律も回らない。《しびれ粉》に自由を奪われながら、眠気に意識も奪われてしまった。
だが、別チームにプランBは発令された。
プランB――そんなものねーよ、と言いたいところだが、ちゃんとある。
その意味は――“コール・ベア(くまさんおいで)”だ。
意識を奪われた男に駆け寄り、その胸ぐらを掴んで魔王 ベリアル(まおう・べりある)が叫んだ。
「お前か! 僕のプリンを殺ったのは!! 爆発はお前の仕業か!!」
返事がない。ただの人違いのようだ。
爆弾が投げられた現場はここで間違いないはずだった。天井に開いた穴がそれを物語っている。この中に犯人がいる! はず! だとベリアルの真理が告げていた。
別の倒れているやつに近づいてまた同じように問う。
「お前か!?」
司の首が締め上げられる。僅かに残った意識で指差し、
「あっち……に」
「あっちか! あっちにプリン殺害事件の容疑者が逃げたんだな!?」
胸ぐらを離すとベリアルは指し示された方へと駆けていった。
疾走するベリアルとすれ違うように漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を纏った中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)が場に現れ、ヒプノシスと《しびれ粉》にひれ伏す人々の群れを感知し肩を竦めた。
「あらあら……」
その場の者たちへの哀れみか、それとも先に行ってしまったベリアルに対してなのかはわからない。
それでも、この現状をどうにかしようとは思っているらしく。
「先ほどの“余り”を口に突っ込めば、皆様起きるでしょうか?」
と、“おたまじゃくしのスープスパ”の美味を思い出してそう告げた。
「皆様が起きたら、話を聞かなくてわ」
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