百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

赤と青の鼓動、起動するは人型古代兵器

リアクション公開中!

赤と青の鼓動、起動するは人型古代兵器

リアクション



守りたいもの


〜遺跡内部・最奥部扉前〜

 遺跡の最奥部の扉前にガルディアはいた。失った半身を別のパーツで補い、その手には二本のレーザーソードが握られていた。
 背面のミサイルポッドやビームキャノンも新たな物に換装されている。
 対峙するのはゴスホーク。プラズマライフル内蔵型ブレードを展開し、胴体の前で水平に構える。
 二機は共に加速し、お互いの距離を詰めた。
「ヴェルリア! あの赤いのを止めるぞ! 最初から全力で行く!」
「はい、レーザービット展開します」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)の指示でヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)がレーザービットを操作する。
 ゴスホークの周囲にレーザービットが展開され、それぞれが別々の軌道を見せながらガルディアに向けて射撃。
 身体を巧みに翻しながらガルディアはレーザービットの攻撃を避け、レーザーソードを振り被って体の回転と共にゴスホークを襲う。
「上から来ます。その後は、下方から来るものと推測します」
 言葉に合わせて真司は動く。ブレードで上方から迫るレーザーソードを打ち返し、そのまま逆時計回りにブレードを振って下方からのレーザーソードの一撃を防ぎきる。
 次々と襲いくるガルディアの猛攻をヴェルリアが予測し、真司が対応する。
「こいつ……射撃型じゃなかったのかよ!」
「どうやらこちらの武装を把握し、ここに私達が到達するまでの間に調整してきたようですね」
 歯を食いしばって衝撃に耐えながら、彼は言う。
「学習型ってのはやっかいな相手だなっ」
 隙を見て膝蹴りをガルディアに向けてゴスホークが放つ。不意を突かれたガルディアはそれをまともに受け、大きく体勢を崩した。
「今だっ! ファイナルイコンソードで決める」
「はい、出力リミッター解放」
 ヴェルリアが機体の出力を管理し、短時間ながら普段の数倍へと機体の能力を向上させる。
「悪いが、これで終わりにさせてもらう!」
 ゴスホークは加速し、すれ違い様にガルディアの右腕を斬り飛ばした。
「ちっ、浅かったか! ならばもう一度……ぐっ!」
 振り向きざまのガルディアの一撃がゴスホークの機体を大きく揺らした。大技の直後の隙もあって、姿勢を崩して壁へと激突。
 ガルディアが更に一撃くわえようと接近、しかしゴスホークはまだそれに対処できずにいた。
 そこに青い機体が高速で割って入り、ガルディアを大型超高周波ブレードで狙う。ガルディアはブレードをレーザーソードで捌くと後方に退避して距離を取る。
 それは富永 佐那(とみなが・さな)エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が操るザーヴィスチであった。
 背中のミサイルポッドのハッチを解放、ガルディアから扇状に無数のミサイルが放たれ、ザーヴィスチに向かう。
 遺跡の柱を遮蔽物として使用し、ミサイルを難なくザーヴィスチは躱していく。
「そんなミサイル程度で、このザーヴィスチを捉えられると思わないでください!」
 佐那は次々と飛来するミサイルを回避しながら接近のタイミングを計る。
「ですが、こうも数が多いと接近が難しいですね……」
 モニターに表示されるガルディアの行動予測を見ながら、エレナが佐那に提案する。
「ガルディアの肩部にエネルギーが集中していますわ。おそらく、ビームキャノンの発射体勢に入っているかと」
「それなら、その直後を狙えば」
「はい、十分対処が可能かと思われますわ」
 柱の陰からガルディアが出る。肩部のビームキャノンはエレナの予測通り展開され、既に発射体勢に入っていた。
 ビームが収束し、ザーヴィスチに向かって一直線に放たれる。周囲の柱を貫きながらビームは直進する。
 ギリギリまで引き付けてそれを躱し、ブースターの加速で一気にガルディアへと距離を詰めるザーヴィスチ。
 限界近い高速で飛んでいる為か、機体が軋む。
 ビームに触れるか触れないかのすれすれを飛び、大型超高周波ブレードをガルディアへ振り下ろす。
 ガルディアの肩口に命中。肩の装甲に深くブレードが食い込んだ。佐那はこれならばと思い、攻撃の手を強めようとした。
 その瞬間、爆発音が響きガルディアは武装をパージして上方へと逃げた。
「逃がさないっ! フルスロットルで行くよ、フェル! V−LWS4基を前方展開! バリア出力調整はこっちでやる!」
 それを聞いたフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)は突進行動に移る。
「V−LWSマニュアル操作に。バリアフィールド形成……突撃します」
 十七夜 リオ(かなき・りお)は手元のパネルを操作しV−LWSから生じるバリアフィールドの出力を前方方向に最適化する。
 ヴァ―ミリオンの背部に装備されたV−LWS6基の内、4基が前方に迫り出すように展開した。
 バリアフィールドに包まれたヴァーミリオンは光弾となってガルディアに突進する。
 ぶつかった瞬間、バリアフィールドがガルディアの装甲を削り、内部フレームにもダメージを与えた。
 そのままヴァーミリオンに跳ね飛ばされ、バランスを崩したガルディアは空中で回転しながらその高度を下げていく。
 急ターンすると、ヴァーミリオンは速度をさらに上げ、ガルディアの下方に位置する。6基のV−LWSを翼の様に扇状に展開。
 バリアフィールドの光がヴァーミリオンの背中に大きな6枚の翼を顕現させる。
「まだ! V−LWSブレードモード、朱雀の六枚羽……いきますっ! 朱翼天翔、舞朱雀!」
 そのままガルディア目掛けてヴァーミリオンは飛んだ。6枚の翼がまるでそれぞれが鋭利な刃物の如く、ガルディアをズタズタに斬り裂いた。
 頭部が半壊し、右腕、左足を失ったガルディアはそのまま地上に落下、一切の動きを見せなくなる。
「クリーゼさん、今だよっ!」
 リオはクリーゼに合図を送り、最奥部の扉に行くように伝える。
「わかりました。みなさん、ありがとうございます! では、行きましょうエリィ!」
「了解しました。最奥部の扉の解除に入ります」
 最奥部の扉に近づいた時、敵機接近の警告が鳴る。
 その方向を向くと、満身創痍のガルディアが背面のブースターを限界近くまで吹かせ、猛然と接近してくる。
 各部からは火花を散らせ、動くことが自身の崩壊に繋がることを知ってなお、彼は最奥部の扉を守ろうとした。
 解析中で身動きの取れないアーヴェントにガルディアの左手に握られたレーザーソードが振り下ろされる。
「そうはさせませんっ!」
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)源 鉄心(みなもと・てっしん)が操るマルコキアスがビームシールドを展開し、レーザーソードを受け止めた。
 そのままビームシールドを水平に振り、ガルディアを弾き飛ばす。
 空中でよろよろと姿勢を整えながら、ぼろぼろの左腕でレーザーソードを構えるガルディア。
「そんな状態になってまで……ガルディアさんが守っているものは何なんですか?」
 もちろん返答はない。
「返答はないようだな……向こうさんもやる気だ。こちらも相応の気概で対応するのが筋だろう」
「……はい」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)がそうティーに伝える。
 それを合図にするかのように、ガルディアはレーザーソードを突き出す形で再び突撃してくる。
 背面のブースターは限界を超え既に小規模な爆発が起きている。身体の各部からも火の手が上がって機体は炎に包まれ始めた。
 身を焼く炎を纏ったガルディアのレーザーソードをビームシールドで受け流し、マルコキアスは新式ダブルビームサーベルでそのボディを両断した。
 地に落下しながらガルディアは空に手を伸ばす。まるで誰かに行かないでくれと、こう様に。

〜遺跡内部・最奥部〜

 扉を開き、最奥部に到達した契約者達とクリーゼ、エリィ。
 中央には巨大な円筒状の機械が鎮座している。
 その中心には少女が埋め込まれていた。眠るように安らかに目を閉じている。
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)スベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)が乗るマスティマが装置へと近づいた。
「これは……それに、この女の子は一体……スベシア、何かわかる?」
「……うーむ、生体を使用したコンピューター……という事以外は何とも」
「生体を使用!? それじゃ、この子は……ここで行われた何かしらの実験の犠牲者って事」
「そうですね、そういう事になります」
 突如聞こえてきた声に彩羽は驚いて周囲を見渡す。が、それらしい何かはない。
「……どういうこと?」
 レーダーにも目を走らせるが、特に敵の反応も無ければ味方の反応も増えてはいない。
「私はあなた方の前にいます。その装置が……私なのです」
「え……?」
「私はエリー。生体コンピューターであり、この場所の中枢システムです」
 彩羽はエリーに尋ねる。
「アーヴェントにここに来るように命じたのは、エリーなの?」
 静かな女性の声は告げる。
「そうです。ガルディア――彼の破壊を命じたのも私です」
「中枢システムなら、自分でガルディアを破壊する事も出来たんじゃないの?」
 悲しそうに女性の声は告げた。
「……それはできません。いや、私にはできませんでした。だって……必死に私を守ろうとしている彼を壊す事なんて――」
「でも、エリー。あなたはアーヴェントにそれを命じた」
「……はい」
 さらに彩羽は続ける。
「矛盾していない? 破壊できないのに、命じることはできたなんて」
「そうですね。そう言われても仕方のない事だと思っています」
 一呼吸おいて彼女、エリーは話し始める。
「私は……結局勇気がなかったんです。私は病気がちで、この場所にも治療すると言われ連れてこられました。私は何年たっても結果の出ない治療にもう諦めかけていたんです。でもそんな時、彼……ガルディアに会ったんです」
 契約者達も、アーヴェントに乗るクリーゼとエリィも、静かにその場にいる全員が話に耳を傾けている。
「ガルディアは最初こそ少し怖かったんですけど、話してみるとただ戦いしか知らないだけなんだという事に気づいたんです。部屋を抜け出して毎夜、格納庫まで話に行くのが苦しい治療の中での私の……唯一の楽しみでした」
 静かに語りかける様にエリーは話す。
「でもある日……私は知ってしまったんです。私がここにいる理由が……生体コンピューターにされる為だったという事に」
「そんな……ことって……」
 彩羽は俯きながらそう呟いた。
 エリーは話しを続ける。
「生体コンピューターにされる直前、ガルディアが私の前に来ました。研究員達の制止を振り切って、辺りを破壊しながら。彼は私を守ろうとしてくれたんです。それから彼は私の部屋の前でこの場所を訪れる全ての者から私を守る為に戦っていたんです。戦い以外の事を教えてきた私が、結果的に彼を戦いの宿命に縛ってしまった。私は彼を解放してあげたかったんです」
「エリーが自分で伝えれば……こうはならな――」
 言葉を遮るようにエリーは話す。
「できませんでした。私の声は彼には届かなかったんです。無視されていたのか、彼の通信装置が破損していたのかはわかりませんが」
「……」
「皆さまありがとうございました。彼を戦いの宿命から解放してくれて。後は、最後のお願いです」
 その場にいる全員がその言葉の先を聞きたくなかった。別の言葉があればいいと思った。しかし現実は残酷だった。
「――私を破壊してください」
 それが彼女の願いであり、そうすることが最善であるのは誰もが理解していた。彼女は移動手段を持たない。心無い者がここを訪れればその能力の高さに目をつけ悪用してしまうだろう。
 そうならない為の、破壊。
 誰も武器をあげる事ができずにいると、アーヴェントがブレードを構えた。
「事情は分かりました。私は、ここであなたを破壊するのが最善と考えます。皆様にここまで連れてきてもらったんですから、彼女を破壊する業は……私が背負います」
 アーヴェントは彼女の前に立つとブレードを両手で握り、一気に振り下ろした。刃が生体ユニット部分を貫く。
「これで……いいのです……あとは、あなた方に託します……ここ以外にもまだコピーされた私が残っていると思うのでどうか破壊を。後始末を任せる様な形になってごめんなさ……い」
 静かな口調でクリーゼにエリィが告げる。
「では最後のミッションを開始します」
「……? 今、エリーの破壊で終わったんじゃないんですか!?」
 そういうクリーゼを無視するようにコックピットハッチが解放され、アーヴェントがクリーゼを掴んで彩羽の方に放り投げる。
 クリーゼをマスティマが無事キャッチした。
「何をっ!? エリィッ!」
「今までお世話になりました。あなたが私にくれたエリィという名……割と、嬉しかったんですよ」
 彩羽が声を荒げて彼女に言う。
「ここであなたまで破壊される必要はないでしょっ!」
「そうでござる、その剣を離してこちらに来て一緒に脱出するでござるっ!」
 二人の説得も虚しくアーヴェントは動かない。
「無理です。ここを破壊するには、この機体を自爆させるしか方法がありません。施設の崩壊が始まります。どうか……クリーゼをよろしくお願いします」
「……ッ」
 マスティマは背を向け、脱出する契約者達の方を向く。周囲の壁や天井は崩れ始めており、崩壊まで時間は無いようだった。
 掌の上からクリーゼが彩羽に向かって叫んだ。
「彩羽さんっ! お願いします! 私をアーヴェントの元へ行かせてください! まだきっと方法が……っ!」
「それは……できないわ。だって――」
 クリーゼが自力で脱出できない程度に手を閉じると、マスティマは遺跡の外へと向かった。
 その背後でアーヴェントが爆発する。遺跡の中枢と共に。
「エリィィィィィーーーーッ!!」
 彼の叫びが遺跡に悲しげに響き渡った。