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平行世界からの贈り物

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平行世界からの贈り物
平行世界からの贈り物 平行世界からの贈り物

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 緒方 太壱(おがた・たいち)は両親である緒方 樹(おがた・いつき)緒方 章(おがた・あきら)の代理としてセシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)は父親のアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)の代理として仲良く上映会場に来ていた。

 適当な席に着いた所で
「で、何でツェツェと一緒なん?」
 太壱は同じ席に着いたセシリアに思わず赤面しながら聞いた。
「いいじゃない。わたし、お弁当作ってきたから、食べながら見ようか?」
 セシリアは適当に流し、持参した弁当を広げた。
「弁当? あ、ありがとうって、これって炒り卵のおにぎり?」
 太壱は礼を言ってざっと弁当の中身を確認。そして一際、気になる物体を発見した。
「……薄焼き卵だけどうしても失敗しちゃうのよ! だから、卵そぼろのおにぎりにしたの。イヤなら食べなくていいから!」
 セシリアは黄色いおにぎりの身の上を話した後、負けず嫌いなためかたまらず弁当を引っ込めようとする。
「いやいや、喰うし、それに月見らしくていいんじゃね? というか、このカボチャの煮付けうめーなー」
 太壱はそんなセシリアを止めて宥め、カボチャの煮付けを口に放り込んだ。
「あ、ありがとうって、おかず食べてごまかすなぁ!」
 セシリアは、美味しいという言葉に嬉しくなるもおにぎりを避けられた事に気付き、思わず声高に。
 この後、二人は仲良く流れる親の映像を楽しんだ。

 ■■■

 シャンバラ教導団、訓練所。

「以上で本日の訓練は終わりだ。各自武器の手入れを行って、食事・就寝を取るように、解散!」
 教導団歩兵科の一般兵卒の訓練を終えた堅物そうな男性指導者は樹であった。名字は旧姓のため林田である。

 生徒達が全員出払い、最後の確認を終えた後、
「さて、おれも……」
 樹も出て行こうとした時、それを阻む者が現れた。
「だーあーっりーん♪ 衛生課から今日も貴方のアイドル章ちゃんが来ました〜♪」
 能天気な声と共に登場した女性は緒方章であった。
「……またアキラ、貴様か。何の用だ?」
 樹は鬱陶しそうに訊ねた。
「そんな邪険にしないでよぉ、私泣いちゃうわぁ。と言う事で今日も栄養注射1本行っとく?」
 ショックとばかりに泣きそうな声を出したと思ったら笑顔で注射器を取り出した。立ち直りが早い。
「結構だ」
「それじゃ、私に1本注射打っとく?」
 断られてもめげない章は樹の腕に絡みつき、胸を押し当てる。
「遠慮する……って、胸を押しつけるな胸を!!」
 当てられた胸の感触に女性に免疫がない樹はすっかり茹で蛸。
「やだぁ」
 可愛らしく拒否する章。
「やだぁ、じゃない、離れろ!」
 樹は章の毎度のスキンシップの多さに抗い、脱兎の如く逃げた。
「だーりん、待って〜」
 当然。章は追いかけた。

 章から逃亡後。
「イツキ様、ご機嫌はいかがですか?」
「今度はアルトか、毎度毎度お前も随分暇なようだな。何だ?」
 章から逃げた樹の前に立ち塞がるのはアルテミス・ゾディアック。現実でのアルテッツァだ。しかも性格は、理論派の残念な美女。しかもストーカーで樹のいる所どこにでも現れる。
「本日は普段の訓練疲れを癒して頂けるよう、様々な栄養ドリンクを調合して参りましたの」
 アルテミスは樹の腕に抱き付きながら素敵な栄養ドリンクを樹に差し出した。
「……って、離れろ、胸を押しつけるなって」
 腕に押しつけられた胸にたまらず赤くなりながらも怒鳴る樹。
 しかし、アルテミスは
「本日はこれだけではありませんわ。それを服用した暁には、ワタシがベッドでマッサージを行って、癒して差し上げますわ」
 妖艶な笑みを湛えるばかり。
 その時、
「あ、だーりん、見っけ♪」
 樹を追いかけていた章が追いついた。
 しかし、章が樹に接近しようとした時、
「これ以上、ワタシのイツキ様に近付かないでくれませんか。教導団の腐れビッチ」
 アルテミスが章目がけて拳銃をぶっ放した。
「アンタの手の内はお見通しよ、天学の残念乳牛さぁん」
 馴染みのやり取りなのか章は慌てる事無く日本刀を抜き、銃弾を真っ二つに切断。
「そうそう、きいたわよ。アンタ料理全く作れないんですって? 純和食をがっちり作れる私とは、雲泥の差よね! その上私は夜の鍛錬もしてますし!」
 日本刀を構えながら章は勝ち誇ったようにアルテミスに言い放った。
「今の時代、食事なんか何とでもなりますわ! 近頃はケータリングも充実しておりますしっ! どーせアンタは家もきったないんでしょうねっ! 腐れビッチにはお似合いですわ」
 アルテミスは致命傷を狙って銃を乱射する。
「残念ながらだーりんがいつ来てもいいように綺麗にしています。汚いのはアンタでしょ、乳牛さんだけにワラまみれじゃないの?」
 章は回避や切断で対処しつつ嫌味をたっぷり載せて言い返す。
「ビッチが何を言っても天御柱学院の強化人間主任研究員であるワタシにはまーったく堪えませんから。そこら辺にいる適当なオトコでも漁っていたらどうですの? その方がビッチには、百万倍もお似合いですわ」
 アルテミスは、攻撃の手は緩めない。
「私はだーりん一筋なの、他の奴にこの柔肌は預けまーせーん! あらっ、だーりんがいなくなっちゃってる! だーりんどこぉ?」
 口撃に口撃で返した後、章は樹がいつの間にか消えている事に気付き、周囲を見回した。
「……あら、本当? イツキ様が見当たりませんわ! どちらに行ってしまわれたのかしら、イツキ様! ワタシのイツキ様ぁ!」
 アルテミスも銃撃をやめて周囲に呼びかけるが気配すらない。
 二人はそれぞれ別れ、樹を求めてさまよい始めた。

 二人が攻撃を始めてすぐに樹はあの場を去り、ここまで逃げていた。
「……な、何とか逃げ切れたな。ん、そこにいるのは誰だ?」
 二人の姿が見えない事に安堵すると共に『殺気看破』で付近に気配を感じ取り、呼びかける。それに対して撮影者は姿を現し、事情を説明した。ただし、カメラ越しのためか姿は見えず、なぜか音声も無い。
「……平行世界に映像を送るのか……ならば、この映像を見ているおれと同じ存在の奴に言いたい! というか正確には、『アキラの娘』と『アルトの息子』を名乗る存在と同じ奴だ!」
 事情を飲み込んだ樹は少し考え込んだ後、カメラ線で現実の太壱とセシリアに向かって呼びかけた。
「いいかお前等、どういう経緯でお前等が生まれたかはおれも知らないし、聞くつもりも毛頭無い、だが、今の自分を恥じたり卑下したりするのは断じて許さん! 無理だとか幸せになれないとか言ったらぶっ飛ばす! 少なくとも、この世界の二人に対してはそうしている。生まれたからには、幸せになれ、以上だ」
 長々と真剣な表情で語った。

 そのためか
「だーりん♪」
「イツキ様、見つけましたわ」
 樹の左右の廊下から章とアルテミスが駆けて来る。
「……来たか」
 左右を確認した樹は脱兎の如く逃げた。

 ■■■

 鑑賞後。
「あっちにも俺達いるらしいぜ。しかも俺達も性別変わってるらしい……どうする?」
「どうするって、どうするのよ?」
 妙な事を訊ねる太壱にセシリアは上目でにらみ付けた。
「そりゃ、あーまで言われたら頑張らないといけないでしょ」
 当然とばかりにセシリアに答える太壱。
「頑張るって何を? もし、プロポーズならわたし断った……」
 セシリアは眉を寄せ、少々不機嫌そうに言葉を発する。
 しかし、
「ツェツェ、言われた通り、俺達幸せになろうな!」
 やる気に満ちている太壱の耳には入らない。
「……あの調子……プロポーズ、私が認めるまでする気だったりして」
 セシリアは疲れたように小さくつぶやいた。