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平行世界からの贈り物

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平行世界からの贈り物
平行世界からの贈り物 平行世界からの贈り物

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「平行世界の映像ねぇ」
 誘いを受けた董 蓮華(ただす・れんげ)はよく分からないまま訪問する機会のないイルミンスールにやって来て流れる映像に呆然とし真っ赤になっていた。

 ■■■

 シャンバラ教導団、執務室前。

「……一体何の用事だろう。緊急事は無かったはずだけど」
 鋭峰に呼び出されるものの心当たりが無いまま来た蓮華。
「団長、董蓮華です」
「……入ってくれ」
 蓮華は扉をノックすると奥から鋭峰のいつもと変わらぬ淡々とした声が聞こえてから蓮華は入室した。

 執務室。

「……団長、何かご用ですか?」
「すまないが、この書類を担当の者に渡しておいてくれないか」
 入室した蓮華に鋭峰は机の書類を渡した。
「はい」
 蓮華は言われるまま書類を受け取った。
 次に
「先月開始されたあの計画はどうなっている?」
 鋭峰はまだ気にするには早い計画の案配を訊ねた。
「順調ですよ。締め切りはずっと先ですから何も心配ありませんよ。何か危惧する事でもありますか?」
 蓮華は不審そうに小首を傾げた。締め切りが先の計画の案配を訊ねたり先ほどのどうでもいい書類の事といい、何かがおかしいと蓮華は感じた。
「……いや、順調ならそれでいい」
 答える鋭峰は何か思い煩う事があるのかいつもとどこかが違う。
 鋭峰に恋する蓮華にはそれが分かり、
「何か思い悩んでいらっしゃるのですか? もしかして緊急事があるのですか? もしそうでしたらおっしゃって下さい」
 真剣な面持ちで訊ねた。
「……」
 鋭峰はどうしたものかと口を閉ざし、考えている。
「危険地域の作戦ですか? すぐに出発ですか? それなら準備を整え私も付いて行きます。どんな所だろうと団長のお側でお役に立ちたいですから」
 鋭峰が言葉にためらうほど危険な事だと思った蓮華は力強く言った。軍人として鋭峰の役に立てるのならどこだって行く。
「いや、そうではない……渡したい物がある」
 鋭峰は自分の事を真剣に想う蓮華を一瞥した後、机の引き出しを弄り始めた。
「君はいつもよくやってくれている。今では、個人的に傍らに居てほしい人材だ」
 何やら意を決した鋭峰は取り出した飾り気の無い小箱を蓮華に渡した。
「はい、私は何時までも金団長のお傍におります。それでこの箱はどのような作戦に使用するんですか?」
 何も分かっていない蓮華はいつもの調子。受け取った小箱も仕事関連の物だろうと考えている。
「……開けてくれ」
 鋭峰が発するのはこの一言だけ。
 言われるまま箱を開けた蓮華は
「……はい……あ、あの、団長……これって」
 中身に驚いた。中には、ダイヤをあしらった指輪が入っていたのだ。そして、先ほどの鋭峰の言葉を振り返り、頬が赤らむ。プロポーズだと気付いたのだ。
「見ての通りだ。ただ、パラミタの情勢が落ち着くまで少しだけ待って欲しい。君をずっと待たせ続けたがこれが最後だ。いいか?」
 鋭峰は平時よりも少し緊張を含んだ調子で言った。パラミタに危機がある限り私的な感情を後回しにして来たが、少しすればそれも無用となる。
「……はい」
 蓮華は嬉しさの余り涙が溢れ、頬はすっかり赤く染まっていた。
「……しかし、どんな作戦を指揮するよりも緊張した」
 鋭峰は安堵から幸せに満ちた自然な笑みを浮かべた後、蓮華の薬指に指輪をはめた。
「……団長」
 蓮華が発したのはこの一言が精一杯だった。
 右手は指輪に触れ幸せが確かにあると蓮華に実感させた。

 ■■■

 鑑賞後。
「……あの世界の団長は、とても自然に笑って幸せそうで良かった。それに……」
 映像が流れた当初は呆然としていたが終わると胸には幸せで溢れていた。

「平行世界ってどんな感じなんだろうね、羽純くん」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)と一緒に遠野 歌菜(とおの・かな)はワクワクしながら流れる映像に目を向けた。

 ■■■

 舞台袖。

「……“コンサート、応援しているから頑張れ”か。うん、頑張るよ」
 男性アイドルの歌菜は妻からの応援メールを見て嬉しさと共に良い感じにリラックスしていた。
 その時、
「もうそろそろ、始まるから準備を頼むよ」
 男性スタッフが開演を告げに来た。
「はい!」
 歌菜は準備を始めた。
 しばらくして開演時間となり、歌菜はマイクを手にステージへと出た。

 ステージ。

「みんな来てくれてありがとう!」
 登場した歌菜は大勢のファンに輝く笑みで応えた。
「当然よーー」
「ふわぁ、生はやっぱり格好いい!!」
 歌菜の素敵な笑顔に嬉しくなって涙を流す女の子さえいたり。
「このコンサートの最初を飾る曲は……」
 歌菜は早速、歌い始めた。一曲目を皮切りに衣装チェンジを間に入れながら次々と歌い続ける。熱唱するその姿は、きらびやかで格好良いだけでなく男前でもあった。
 熱唱中、最前列で応援してくれる女性ファンには
「今、今、私にウインクしてくれたぁ、あぁん、っもう」
「もう感激」
 ウィンクしたりシャツをはだけたりして色気で応えた。

 サービスに騒ぐ女性ファンを嫉妬の目で見るのは最前列から離れた席にいる黒髪の女性。
「アイドルだからファンを喜ばせるのは仕事で仕方無いだろうけどサービスのし過ぎ」
 面影からして羽純に他ならない。

 羽純はフイッと最前列から目を離し、携帯電話を取り出し、メール画面を見た。
「…………」
 画面は、今朝、夫に送信した応援メールのお礼メール、“頑張るよ、ありがとう”と短いながらも喜びと感謝が詰まっていた。そんな歌菜を知っているのは自分だけ。その部分に関しては少しだけファンの子に大して優越感を感じていたり。
「……」
 羽純は携帯電話を仕舞い、ステージで輝く最愛の人の姿を見守った。

 コンサートはとうとう最後の一曲を残すだけとなった。
「……コンサート最後の曲は大事な人に捧げるバラードだ」
 歌菜はざっと会場を見回しながら言った後、しっとりと色気を漂わせながら歌い始めた。たった一人のいつも自分を支えてくれる女性のために。
「……大事な人……どの曲も好きだけどこの曲が一番好き」
 歌菜の曲紹介に感動し、歌に聴き入る羽純。
 そして、無事にコンサートは終了し、歌菜は挨拶した後ステージから離れ、羽純は舞台袖へと急いだ。

 舞台袖。

 歌菜が戻って来た時、
「コンサート、お疲れ……」
 タオルを持った羽純が労いの言葉をかけようとするが、それよりも早く
「メール、ありがとう! すごく嬉しかった」
 歌菜が羽純を抱き締めた。
「……分かったから。ほら、タオル」
 少し驚くも嫌がる様子は見せない羽純は手に持っていたタオルを抱き付かれたまま差し出す。
「ん、ありがとう♪」
 歌菜はタオルを受け取るなり、感謝と愛しさで羽純にキスをした。

 ■■■

 鑑賞後。
「私、男性だったよ。格好良くて……色気的な意味で何か私、負けてる気が……」
 歌菜は輝く向こうの自分に少し落ち込んだ。
「そう、落ち込むな。全く持って悔しがる必要は無いと思うぞ」
 羽純は励ました。羽純にとって自分の隣にいるのが歌菜であればそれだけで幸せだから。
「励ましありがと。羽純くん、美人さんだったね。二人一緒だったし、もう少し見たかったなぁ」
 羽純の励ましに元気を取り戻した歌菜は向こうでも最愛の人と一緒であった事が嬉しかった。
「そうだな……向こうもこっちと同じように歌菜に振り回されていたが」
 羽純はうなずき、振り回される自分を思い出しながら小さくつぶやいた。