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リアクション
祭に向けて1
「アテナがラジオのパーソナリティ?」
突然の話にアテナは首を傾げる。
「はい。お祭りでのラジオ番組企画……そのメインパーソナリティをあなたにお願いしたいと思っています」
御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナー御神楽 舞花(みかぐら・まいか)はそう言って頭を下げる。
「えーっと……パーソナリティって何をしたらいいの?」
「お祭り企画の紹介や実況ですね。盛り上げるためのトークをお願いしたいと思います」
「アテナに……できるかなぁ……?」
「私はあなたならできると思ったからこうしてお願いしています」
そう言って舞花は更に続ける。
「何も特別なことをしてもらおうとは思っていません。アテナさんがアテナさんらしくやればそれで成功すると思ったんです」
「……普通でいいの?」
「はい。裏のことはこちらでサポートします。アテナさんには普段通り話しててもらえればそれでいいんです」
舞花の言葉を受けてアテナは深く考えこむ。
「…………瑛菜おねーちゃんも音楽劇で大変そうだし、アテナもライブだけに集中してるってわけにもいかないよね」
瑛菜は気にするなと言うだろう。ライブを楽しみにしている人たちに申し訳ないという気持ちもある。けれど、ライブ以外でも祭の盛り上げに貢献したいというのは確かにアテナの気持ちにもあった。
「…………うん。パーソナリティの話受けてもいいかな」
「村長。アテナさんとの交渉の場、作ってもらいありがとうございます」
アテナとの交渉の後、そう言って舞花はミナホに頭を下げる。
「いえ。こちらこそ、大変なところはそちらに任せきりですからこれくらいは」
当然ですとミナホ。
「それで、サブのパーソナリティの方は決まったんですか?」
「いえ、募集はしているんですけどなかなか……」
ラジオにおけるアテナの相方や不在時の代わりがまだ決まっていなかった。
「サブでしたら村のほうで調整することも可能ですよ。……といっても選択肢は私かお父さんか…………ホナミちゃんくらいですけど」
悩んだ末にホナミの名前を出すミナホ。
「そのあたりは私の方でも考えてみます。……村長、今日は本当にありがとうございました」
そう言ってお礼をする舞花だった。
「た、たすかった……」
ニルミナス。その東側の入り口で綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は安堵の溜息をつく。
「いつものこととはいえ……ハイキングで遭難した時はどうなることかと思いましたが……無事につきましたわね」
アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)もさゆみと同じように溜息をつく。こちらは安堵の中にも少し呆れの色もあった。
「案内してくれて本当にありがとう…………さっきはごめんなさい」
いつも通りの方向音痴で森で遭難していたさゆみたちを助けたのは防衛団の男だ。
「いや、気にすることじゃないですよ。それじゃ、この村でゆっくりしていってください」
それだけ言って防衛団の男は森へと向かっていく。
「いい人でしたわね。……それなのにあなたは……」
「うぅ……だって、どう見ても悪人面だったもの……」
盗賊か何かと思ったさゆみは身の危険を(勝手に)感じて『雷術』まで使って追い払おうとした。誤解は解けたが悪いことをしたなぁとさゆみは思う。
「……それにしても、なんかいい感じの村よね」
平穏な空気とともにどこか活気を感じる。そんな雰囲気と、たまに入り口を出入りしていくゴブリンやコボルト。それらからこの村がいい村なんだろうなとさゆみは思う。
「話を聞いてきましたわ。もうすぐ音楽祭があるようですわね。ライブや屋台と結構大きな祭のようですわ」
「へぇ……ライブがあるのね」
「? それがどうかしたのかしら?」
「ん……少し考え事。それより友好的そうだけどゴブリンやコボルトたちと意思疎通できるの?」
「ジェスチャーで必要最低限の意志疎通はできるみたいですわ」
祭のことと一緒に聞いてきたことをアデリーヌは伝える。
「ほんとに? それじゃ、さっそくジェスチャー覚えてみよっと」
「本当に必要最低限のようですのですぐ覚えられると思いますわ」
ジェスチャーの考案も行っているという話も聞いているアデリーヌはそっちに参加してみようかとも思う。
そうしてさゆみとアデリーヌ。迷い込んだ末辿り着いた村でそれぞれ過ごすのだった。
「これ、もうできているんですか?」
眼の前にある光景を前にミナホはそう聞く。ドリンクスタンド。祭において歌姫たちのためにそれを企画していたネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)はミナホの質問に首を振る。
「シロップ(ドリンクの濃縮エキス)はまだ熟成しきってないよ。祭までにはちゃんと間に合いそうだけどね」
ネージュの言葉通り、ドリンクの濃縮エキスはまだ完全に熟成してはいない。
「けど、すごいですよね。飲み物をこれだけの種類自分で作れるなんて。私が作られるのなんてこの村で作られてるノンアルコールワインくらいですよ」
ネージュは村で採れる作物や温泉水、あるいはネージュが経営する店から仕入れたものを利用して一からドリンクを作っていた。主に村で採れる柑橘系の植物を使ったと見られる熟成中のシロップからは既に美味しそうな香りがしていた。
「歌姫さんたちには最高のコンディションで歌って欲しいじゃない? あたしもオペラとかクラシック系を歌ったりするから分かるんだよ」
「はい。……私も最近少しは分かるようになりました」
「けど……祭が終われば一段落だね」
ここまでのニルミナスの村おこしを思い出しながらネージュは言う。
「はい。……その後は、以前相談した……」
「うん。分かってるよ。でも今はまず祭を成功させようね」
今はそれが第一優先。その後のことはひとまず置いておこうと。
「はい。祭、よろしくお願いします」
ネージュの言葉に深く頷き、ミナホは続けてそう頼んだ。
「うーん……ライブかぁ。どんなライブにしていくべきかなぁ」
ミュージック・フェスティバル。その三日目のライブに関して赤城 花音(あかぎ・かのん)は考える。ステージ作りがされている今、ハード面は着々と形が見えてきている。そのソフト面に関して花音はミナホから相談を受け、どんなライブにするか模索していた。
「花音自体はどんなライブなら参加したいと思いますか?」
悩んでいる様子の花音にそう質問を投げかけるのはリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)だ。
「そうだね……ボクたちアーティストの個性が尊重されるような……そんな演出があるライブがいいな」
個性というのはアーティストにとって替えの効かない武器だ。
「それでその個性を改めて認識したり、新しく発見したり……そんなライブに参加したいよ」
その武器を洗練させるような、そんなライブにしたいと花音は言っていた。
「……つまり花音は、杓子定規なライブじゃなく、アーティストそれぞれにあった形式をとったライブをするべきだと言うんですね」
「うん。……難しいかな?」
「大変でしょうね。……でも、この村でならなんとか可能な気がします」
色のついた紙に絵を描くのは難しい。だからこそ白紙に絵を描く。音楽も一緒だ。この村にはまだ特色といえるほど音楽が方向性を持っていない。それでいて村の根にはしっかりと音楽が根付き始めている。
「ところでさっきから何をしてるの?」
話が一段落ついた所で花音はリュートに聞く。花音と話をしながらもリュートは書類を前に難しい顔をしていた。
「花音のコンプリートアルバム『楽園』発売のための諸手続きに、発売後の収益を村等の基金に利用に関する契約書……正直お金関係は苦手で……」
頭を悩ませているとリュート。
「うん。いつもありがとう。頑張ってね。ボクも頑張るから」
祭りに向け、自分も花音もいつも以上に忙しくなりそうだと。そう予想するリュートだった。
「ライブのステージがあそこだから…………うん。ここら編に屋台でも並べとけばよさそうね」
作成中のステージの場所を確認してコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)はそう言う。ライブのステージから比較的近いが、ライブを邪魔するほどではない位置に屋台を並べて展開する事のできるスペースを陣取る。
「あとはこの位置を村長に知らせれば終了ね。あとは祭本番で私達が出す屋台の準備をしないと」
村長から頼まれていた屋台関係の相談はもうこれ以上はないだろう。コルセアがまとめた屋台スペースを書き込んだ祭の見取り図をミナホに渡せば終了だった。
「ふふ……こんなこともあるかと思っていたのだよ」
コルセアと一緒に回っていたイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)はそう不敵な声を上げる。
「ここが、屋台スペースで一番ライブステージに近い場所であるな?」
「ええそうだけど」
コルセアの言葉を受けてイングラハムは少しその場を離れる。と思ったらぎこぎこととあるものを引きながらすぐに戻ってきた。
「……何してるの?」
そのあるものをライブステージに一番近い屋台スペースに陣取らせたイングラハムにコルセアは聞く。
「このようなことは早い者勝ちなのだよ」
そうしてコルセアとイングラハムは悠々と祭の屋台における一番いい位置を陣取ることが出来たのだった。
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