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リアクション
今日はハロウィン・2
モンスターな人で溢れる通り。
「この姿だと自分達とはバレずにゆっくりと街を歩き回れそうですね。アーデルさん、似合ってますよ」
「うむ。おまえもなかなか面白い物に化けたな」
ハロウィンサブレを使用したザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)とアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)は互いの変身した姿を確認し合っていた。
「変身を終えた所で行きましょうか。問題が起きていないか見回りも兼ねて」
「何か問題が起きている予感はするが、本日はハロウィン寛容になるとするかの」
ジャックオーランタンのザカコとマシュマロみたいに柔らかそうな幽霊のアーデルハイトは仲良く街を練り歩き始めた。
途中、
「トリック・オア・トリート!」
「怖いお化けだぞー、お菓子くれないと悪戯するぞー」
可愛らしいモンスターに変身した園児達に声をかけられた。
「これは、恐ろしいモンスターが来たものだな」
アーデルハイトは微笑ましそうにやって来た子供達を迎え
「あぁ、怖いお化けさん、お願いですからお菓子をあげますので悪戯はしないで下さいね」
可愛い脅かしに驚いてあげてからザカコは用意していたリンゴのクッキーを渡していく。味がリンゴなのはリンゴ好きだからだろう。
「ありがとー」
園児達はきちんとお礼を言って受け取った。
その中にいたパンプキンヘッドの少年が
「同じカボチャ仲間という事でお兄ちゃんにもお菓子をあげる」
クッキーを差し出した。
「ありがとうございます……パンプキンクッキーですね」
ザカコはクッキーの味を確認するなり何とも言えぬ顔になった。あげる人も貰う人もお菓子もカボチャという事に。
「カボチャがカボチャを食べるか」
ザカコと同じ事を考えたのかアーデルハイトがおもむろにつぶやいた。
そして、
「ハッピーハロウィン!」
互いに挨拶を交わして別れた。
その後もハロウィンを楽しみ
「結構、お菓子が集まったの」
大量に集まったお菓子に心無しかアーデルハイトは満足そうであった。
「そうですね。楽しくてこちらも童心に返りますよね」
ザカコは楽しそうなアーデルハイトの様子が嬉しかった。最近は色々と騒ぎがあって大変だったので少しでも息抜きが出来ればと今回誘ったのだ。
「そうじゃな……ん? 楽しむのは少し中止じゃ」
ザカコにうなずいた後、アーデルハイトは困っている様子の参加者を発見した。
「何かあったみたいですね」
ザカコも同じく気付いた。
二人はすぐに困っている参加者、双子の被害に遭った者達の所に向かった。
「さゆみ……どこにいますの?」
雪女に変身したアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は必死に人混み消え行方不明となった綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)を捜し回っていた。
「……楽しいハロウィンのはずでしたのに」
アデリーヌは思い出す。先程までののんびりとした時間を。まさかこんな事になるなど予想外。
アデリーヌは最後に一緒にいた場所を起点にあちこち捜索を始めた。
しかし、見つからず
「……さゆみは筋金入りの方向音痴。動かずにいてくれたらいいのですけど」
焦燥感ばかりが強くなる。
「……儚げな顔立ちの美人に会えるとは……これはもう少し観察するのである」
憂い美人の横顔を見つめるものあり。
「……? 誰かの視線を感じた気が……」
自分を舐めるように見る視線を感じたアデリーヌは瞬時に背後を振り向いた。
すると
「ふぎゃおおぉぉ」
凄まじい悲鳴が飛んできた。
「……一体」
アデリーヌは動かず、何が起きているのか警戒する。すぐに悲鳴はかき消えて代わりに優美な女性が現れた。
女性は長髪に化粧を施し緋色の袴と小袖に薄絹をまとっていた。
「……あの先程の悲鳴は」
「気にする必要はありませんよ。不届きな布切れに思い知らせただけですから。それより何かお困りですか」
悲鳴について訊ねるアデリーヌに女性は黒く染めた歯を見せながら答えた。
「……えぇ、そうですわ。人を捜していますの」
アデリーヌは女性の足元にある白い布切れに視線を落とした後、事情を話した。布切れに見られていたと知りつつも話題にする必要は無いので口にはしなかった。
「人捜しでしたら空から一番ですよ。任せて下さい。私は女天狗の天羅(てんら)です」
女性が背中の翼を広げ、飛び立とうとした時、
「……天狗というと妖怪ですの? てっきり獣人かと」
アデリーヌは天羅の翼に言葉を挟んだ。女性が名乗るまで妖怪だとは思えなかったから。
「えぇ、世俗ではこの姿で過ごすからよく間違えられますけど……とにかく手伝いますね」
天羅は空へとさゆみ捜索に行った。
天羅の力を得て捜索するもなかなか見つからず
「……本当にどこに」
アデリーヌは気疲れして先程まで二人でいたホラーカフェに戻った。
そしてすぐにアデリーヌの気疲れも吹っ飛ぶ出来事に遭遇する。
人通りが少ない通り。
「あれ……ここはどこ……? アディ?」
ハロウィンサブレでかまいたちの女の子になったさゆみは周囲を見回すも先程まで隣にいたはずのアデリーヌがいない上に妙な道に入り込んでしまった事に気付いた。
「さっきまで一緒にお菓子のやり取りしてたのに」
お祭り気分であちこちお菓子交換にうろうろしながら人混みに紛れ込み何とか抜け出した先がここ。
「……これって完全に迷子って事よね。もう我ながら見事な迷子っぷりで笑うしかないわ」
自分の絶望的方向音痴に乾いた笑いしか出ないさゆみ。
今出来る事は
「下手に動いたらヤバイからじっと待っていよう。アディの事だからきっと捜してくれてるはず」
じっと待つ事。アデリーヌなら必ず捜してくれていると信じて。
何事も無く時間は過ぎていくと思いきや
「トリック・オア・トリート!」
背後から元気な二人の少年の声が降りかかってきた。
「……この聞き覚えのある声と嫌な予感は」
さゆみは聞き覚えのある声と迫る嫌な予感に振り向かないでいた。
そんなさゆみに
「ほら、お菓子を出さなきゃ」
「悪戯するぞ。お菓子くれても悪戯するけど」
声の主である双子は前に回り込み、さゆみの様子を伺うのだった。
「……(やっぱり。何でこんな時に厄介な二人に会うかな)」
嫌な予感的中に溜息を吐くさゆみ。
「おーい、お菓子」
「へぇ、かまいたちになったんだ。ハロウィンに和の妖怪って面白いな」
双子はハロウィンという事でハイテンションでさゆみに絡んでくる。
「……(このまま無視)」
双子の騒ぎに巻き込まれた事のあるさゆみは迷わず無視を選択。
「お菓子じゃなくて悪戯が欲しいとか」
「だったら色々……というか、無視すんなよー」
無視されてもまださゆみに絡む双子。
それでも無視するさゆみに何かを感じたのか
「もしかして迷子になってたり」
「そうだろ?」
ヒスミ・ロズフェル(ひすみ・ろずふぇる)は鋭く指摘し、キスミは悪戯な笑みを浮かべながら訊ねる。
そんな双子の言葉にさゆみは思わず
「……それは」
反応して隙を見せてしまった。
途端、
「ハッピーハロウィン!!!」
双子の威勢の良いかけ声と共にさゆみは真っ赤な煙に包まれてしまった。
「ちょ、これ、何よ、目がかゆいし……涙が出る」
さゆみはしきりに目をこする。
「俺作の悪戯はどうだ」
「軽く目がかゆくなって涙が出るだけのちょっとした悪戯さ」
双子は成功した事に上機嫌。
「……今度はこっちも……ハッピーハロウィン!!」
悪戯をされたさゆみは堪らない。何せ迷子で困った所の悪戯なので尚更。
「キスミ、何かヤバイぞ」
「おう、逃げるぞ」
双子は危険オーラを敏感に察知するなり脱兎の如く駆け逃げる。
しかし、
「トリック・オア・トリート!」
さゆみは逃さない。双子をとっちめるためにどこまでも追いかける心積もりだ。すっかり自分が方向音痴である事を忘れひたすら双子を目で捕らえ続けている。
「何、怒ってるんだよ」
「今日はハロウィンだぞ」
必死に逃げながらも自分達を正当化する弁解は忘れない双子。
「逃がさないんだから……さっきより目が……」
目を掻きながらも必死に追いかけるさゆみ。
「キスミ、逃げるぞ」
「おう」
双子はさゆみのペースが落ちた隙を狙い猛ダッシュで逃げた。
さゆみも追いかけようとした時、
「さゆみ」
聞き知った声が付近から飛んで来て足を止め
「あ、アディ」
アデリーヌの姿を確認するなり心底胸を撫で下ろした。いつの間にかアデリーヌがいるホラーカフェに辿り着いていたのだ。
この後、天羅を紹介されたさゆみは自分を捜索してくれた事に感謝を述べ、去る天羅を見送った。
天羅が去り、双子に悪戯を受けた事をアデリーヌに話した後。
「今も目がすごくかかゆくて」
「何とかしないといけませんわね」
堪えられぬさゆみと何とかしようとするアデリーヌ。
そこに
「あの双子は本当に困った奴らじゃ。こんな事もあろうかと用意しておったこの目薬を使うがよい」
アーデルハイトが現れ、いつの間にか用意していた目薬を差し出した。
「助かりますわ」
アデリーヌが受け取り、さゆみに渡した。
「……あぁ、目からかゆみが消えた」
点眼した途端、さゆみの目から強烈なかゆみは消えた。
さゆみの無事を確認後、
「ザカコよ」
「分かっています。行きましょう」
アーデルハイトとザカコは阿吽の呼吸で双子を捜しに行った。
ザカコ達が去った後。
「もう迷子はやめて下さいね。本当に悪い悪戯ですもの」
「心配掛けてごめんね。今日はハロウィン。悪戯の次は甘い物という事でお詫びに何か御馳走するから」
アデリーヌとさゆみは再び楽しいハロウィンに戻った。
一方、ザカコ達。
「普段なら正体明かして説教ですが、今回は悪戯をしましょうか。ある程度の悪戯なら許せましたが、さすがに被害者が出るとなると……」
「悪戯には悪戯、因果応報という奴じゃな。面白くなりそうじゃ」
ザカコとアーデルハイトは双子を追いかけていた。二人にはどこにも焦る様子は無かった。何せ双子の行動は予測済みなので。
そのためすぐに
「アーデルさん」
ザカコは楽しそうに歩く双子を発見した。
「うむ。早速、楽しいお菓子交換じゃ」
アーデルハイトは悪い笑みを浮かべた。毎度頭を悩まされているので発散したくてたまらない。
「そこのゾンビとフランケンよ」
「良かったらお菓子を交換しませんか?」
アーデルハイトとザカコは知らない人のフリをして双子に接近。
「お菓子交換か、いいぜ」
「とっておきのと交換してやるぜ」
ザカコの前言通り正体を見破れないでいる双子はうきうきと交換用お菓子の準備を始める。
「こちらは真っ赤なリンゴ風クッキーと」
ザカコは双子用に用意していた唐辛子を練り込んでリンゴフレーバーで香り付けをしたクッキーを取り出した。
「チョコだ」
アーデルハイトもとっておきのチョコを取り出した。
「こっちはガムと」
「飴玉だ」
双子は当然悪戯お菓子を取り出した。
「ハッピーハロウィン!」
四人は挨拶と共に交換して別れた。
双子と別れしばらく歩いて。
「……バレずに終わりましたね。これどうしますか? 多分、悪戯入ってますよね?」
ザカコは双子に貰ったガムや飴玉を手に困ったように隣のアーデルハイトに訊ねた。
「確実にの。となると食べるわけにもいかぬな」
アーデルハイトは溜息をつきながら貰ったお菓子をにらむ。
「大変な事になりたくありませんからね。ところでアーデルさんが渡した物はどんな物だったんですか? 自分のは唐辛子を練り込んだクッキーですが」
「それはのぅ、食べて口の中で溶けた途端、青くなるほどの味が広がる物じゃ」
悪戯の内容を訊ねるザカコにアーデルハイトは悪戯な笑みを浮かべた。
「そんな事よりもザカコ、お菓子と悪戯、どちらが欲しい?」
突然、アーデルハイトは話題をがらりと変えた。
「唐突ですね。自分はやはりお菓子がいいです」
ザカコはアーデルハイトが発したハロウィンの合い言葉に答えた。
「ふむ。では、これをやろう」
アーデルハイトは、おもむろに取り出したお菓子をザカコに差し出した。
「トリートですね。ありがとうございます。自分もお菓子を」
ザカコはお菓子を受け取り、丁寧にお菓子入れに入れた後、持参したリンゴのクッキーをお返しにと差し出した。
「あぁ、美味しく貰おう」
アーデルハイトは受け取るなり早速美味しそうに食べた。ザカコはその様子を嬉しそうに見ていた。
この後、二人はぶらぶらとハロウィンで賑わう街を歩き回った。
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