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3.

「派手な花火が上がってやがるな」
 テロリストのリーダーは、吸いさしのタバコをコンソールに押し付けて呟いた。
 無能な部下があっさりと陽動に引っかかるのも想定内だ。そもそも自分は――
「リーダー! 交渉役を名乗る者が部屋の前に。指示通り待たせてますが、どうします?」
 益体のない思考を、部下の声が打ち切る。
「ま、そろそろだろうとは思ってたよ。……通してやれ」

「どうも。交渉窓口のトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)だ。色々と聞きたいこともあってね、直接伺わせて貰ったよ」
「は、窓口にしてはぞろぞろと引き連れてらっしゃるじゃないか。後ろのそいつらは飾りかい?」
「一応、身の安全を確保くらいは考えるんだ。テーブルにつくのは僕一人でいいよ」
「武器を構えながら話し合いもなにも無いと思うがな」
「そこはお互い様さ。それに僕は非武装だ。なんなら確認してもらってもいいよ」
「ふん……いいだろう。言ってみろ」
「そうだな、じゃあまずは要求の再確認からさせてもらおうか――」

 トマスは質問を重ねる。
 要求が過大であることを理解しているか。譲歩の余地はないか。
「君達の要求によって発生するのは法の破壊、ひいては国家の破壊だ。はいそうですかと呑む訳にはいかない」
「法ってのは人を守るモンだろう? それに俺達は拾い物を預かっただけだ。ささやかな駄賃くらいは貰ってもいいだろう?」
「駄賃にしては要求が高すぎる、って言ってるんだよ」
「そうか? 都市一つに対して五十人。規模から考えれば一割にも満たないぜ?」
 リーダーは口も頭もよく回る人間のようだった。
 ただ、観察しながら会話するトマスからすれば、言葉の端々に嘘臭さがにじみ出ているのが読み取れる。

「……『同志』を解放し。その先にあなた方は何を求めるのです?」
 トマスから少し離れた位置に立ち、沈黙を守っていた魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が口を開く。
「おいおい、話すのは一人じゃなかったのか?」
「…………」
 茶化すようなリーダーの言葉に対しても、子敬は正視したまま眉一つ動かさない。
「まあいいか。大したことじゃない。そうだな――お前たちは家族や恋人を助けるのにイチイチその後のことを考えるのか?」
「法を犯すのであれば。その先に幸福があるとお思いですか」
「さてね。こいつらはそう信じてるんだから、あるんじゃないか」
 リーダーは嘲るような笑みを浮かべたまま、自分の部下達を見回す。

「お前達は何の為にこんな事をしたんだ? その兵器を起動させたとしても発動までにはかなりの時間がかかるらしい……その間に民間人を移動させる事は容易い事だ」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)もまた問いかける。
「しかし、お前達は俺が此処に居る様に、既に包囲されている。兵器を起動したのなら真っ先にその餌食になるのは、逃げ出す事の出来ないお前達自身だぜ?」
「……ふむ。なるほど、道理だな」
「悪い事は言わない。大人しく投降するんだ」
「投降か――しかしそれこそ俺達の行動が無駄になる。それなら置き土産くらいは残すべきかもしれないな?」
 夕食を決めるかのような気軽さで、リーダーはそう口にすると小型の機械を取り出す。
 起爆装置か。
「――ッ」

「待ちなさい! あなたたちの『同志』はヒラニプラへと移送されています。起動させれば彼らも被爆することになりますよ!」
 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)が声を上げた。
 この情報は教導団からも公式発表として発せられている。
 ただ、テロリスト達がそれを聞いたのはこの瞬間が初めてだった。
 動揺が広がる。
「つまり、あなたたちの行為はどちらにせよ無駄に終わります。これ以上テロを続けたところで何も得るものは無いんです」
「そもそも、やり方としては下策中の下策よね? 本気で解放させるつもりなら、自分たちの命まで危険に晒すべきじゃないわ。
 ……初めからそのつもりがないとしたら別だけど、ね」
 マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)が言葉を引き継ぎ、テロリスト達に視線を向ける。
 彼らの表情に浮かぶのは動揺、不安、疑心暗鬼。
 自分たちのやっていることは、本当にただ無駄死にでしかないのではないか。
 ないまぜになった感情が、リーダーに向けられる。

「やれやれ、まだそいつがハッタリである可能性も残っちゃいるが、そうだな。確かに面倒な状況だ」
 リーダーはその視線を受けて大仰に肩をすくめる。
 ただ、その口元は相変わらず歪んだままで。

「それじゃあこうするか。我ら鏖殺寺院の崇高なる理念のために。シャンバラ王国を討つため、その命を捧げろ、とな」

「何を――」
「我々が解放を望んだ『同志』は、その理念に沿って捕らえられた。そして、彼らを救出することは困難となった。
 ならば我々は彼らの意志を尊重し、彼らが信じた理想に殉じよう。それが彼らに報いる唯一の方法だろう」
 狂っている。
 この男には初めから、物の道理など関係なかった。
 ただ、人が命を捨てるに足るだけの――そう『勘違い』できるだけのロジックさえあれば良かった。
 それでも、テロリスト達の一部にはその狂気に浮かされる者の姿もあって。

「――鏖殺寺院、万歳」
 リーダーは舞台役者を気取るように、大仰な仕草で銃爪を。