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学生たちの休日12

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リアクション

 さて、そのころ、ティア・ユースティの連絡で風森巽を待ち構えていたゴチメイの一人、リン・ダージ(りん・だーじ)はといいますと……、地下大浴場にいました。
「おかしい……。全然やってこないじゃない、なんでよー!」
 ぷかぷかと流れてきたザンスカールの森の精 ざんすか(ざんすかーるのもりのせい・ざんすか)を脇に追いやりながら、リン・ダージが叫びました。
 ……んでよー、……でよー。……よー。……。
 お風呂なので、エコーがかかります。
 リン・ダージがのぼせかけたころ、風森巽はやっと校長室のあるフロアまで上がってきました。
「待っていましたよ。ここから先へは進ませません」
 その場に待ち構えていたペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)が、すらりと大剣を抜きました。
「だから、ゴチメイの皆さんとは戦いたくないんですったら。見逃してください」
 後生だからと、風森巽がペコ・フラワリーを拝みました。
「それはできません。リーダーに会いたかったら、最後の関門であるこの私を倒してから進みなさい」
「最後? リンさんとマサラさんはどうしたんですか?」
 まだゴチメイは他にもいたはずだと、風森巽が訊ねました。
「リンちゃんは、下の方を守っていたはずですが。マサラは……で・え・と、に行きました」
 なんだか、グッと拳を握りしめながら、ペコ・フラワリーが言いました。なんだか、最近一人だけあぶれているような気がします。
「ですので、あなたをリア充にはさせません。もし、リア充になったら、それは爆散するときです」
 そう言うと、ペコ・フラワリーが、高く掲げた大剣に炎を纏わせました。
「ご、御勘弁を……!」
「問答無用!」
 まさに、ペコ・フラワリーが風森巽を一刀両断にしようとしたときです。
『こら、学園内で何を騒いでいるですぅ。ここは、校長室の前ですぅ!』
 突然、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の声が響きました、次の瞬間、床から生え出たウォールオブソーンの蔓がペコ・フラワリーを絡めとりました。
「し、しまった、動けな……」
「ぢゃ、そゆことで」
 その隙に、風森巽がそそくさとその場を逃げだしていきました。なんとか、展望台へと続く枝の上にまで辿り着き、バイクから降ります。
「やっとここまで来られたか。待っていてください、ココさん、今行き……」
「そこまでよ!」
「そこまでだよね」
 もう大丈夫と展望台への階段を見あげた風森巽の前に、再びアルディミアク・ミトゥナが立ち塞がりました。その後ろには、こそこそっとティア・ユースティの姿もあります。
「そんな、追い越されたはずがないのに、どうやって先回りを」
 風森巽が、唖然として言いました。
「エレベータを使ったんだよ」
 あっけらかんと、ティア・ユースティが言いました。
「しまったあ、その方法があ!」
 一生の不覚と、風森巽が叫びました。最初からそれを使っていれば、こんなに苦労することはなかったはずです。
「さあ、今度こそ止めです!」
 ウイングシールドからウイングソードを引き抜くと、アルディミアク・ミトゥナが風森巽に突っ込んできました。
「お願いします。どうかお義姉さんとの交際を認めてください!」
 その瞬間、風森巽が土下座して頼み込みました。
「えっ!? あ〜れ〜」
 予想もしなかった動きに、アルディミアク・ミトゥナが風森巽に蹴躓きました。そのまま、世界樹から落下していきます。
「あっ、ヤバいかな。じゃあね、ばいばーい」
 それを見たティア・ユースティが、そそくさとエレベータに飛び乗って下へと下りていきました。
「ありがとう、義妹さん、あなたの貴い犠牲は忘れません」
 な〜む〜と両手を合わせると、風森巽は展望台への階段を駆けあがっていきました。
「生きてるわよー!」
 遥か下の方から、ウイングシールドにつかまってゆっくりと降下していくアルディミアク・ミトゥナの声が聞こえてきます。
 それを無視して、風森巽は螺旋階段を上っていきました。
 遥か下には、世界樹イルミンスールを美しく飾った立体魔方陣や光の精霊たちによるクリスマスイルミネーションが見えます。
 空には満天の星、シチュエーションは完璧です。
「ココさん!」
 ついに展望台に辿り着いた風森巽が、ココ・カンパーニュの姿を見つけて叫びました。
「おお、よく来たな。ゴチメイのみんなを倒してここまで辿り着くとはさすがだけど、なんだかぼろぼろのようじゃないか。そんなんで戦えるのか?」
「俺は、いつだって戦え……いやいやいや、戦いに来たわけではありません。今日は、ココさんに、大事なお話が……」
「えっ、だって、この果たし状、拳で語り合おうということじゃ……」
 グッと、星拳スター・ブレーカーを輝かせながら、ココ・カンパーニュが言いました。完全に勘違いしています。しかも、この狭い展望台では逃げる場所がありません。
「違います。これからも、あなたと肩をならべて一緒に歩いていきたいのが本音です。いろんな所へ行って、いろんな物を見て、笑って、泣いて、怒って、また笑いあいたい」
「おう、ここまで辿り着けた腕っ節なら、まあまあ一緒にどこへでも行けそうだな」
 シュッシュッと軽くパンチを繰り出して、ココ・カンパーニュが言いました。その手をさっと、風森巽が両手でつつみ込むように掴みました。
「ココさん、結婚してください」
 持ってきていた婚約指輪をさっとココ・カンパーニュの薬指に填めて、風森巽が言いました。さすがに、状況を察して、ここは一つがかーっと顔を赤らめます。
「本当は、デートの最後にしたかったんですけど、ちょっと無理っぽい……」
「て、照れるじゃないかあ!」
「うぼあ!?」
 照れ隠しに、ココ・カンパーニュが放ったパンチが、まともに風森巽を捉えました。勢いで、風森巽が展望台から吹っ飛んで落ちます。
「えっ、あ、おい!?」
 ココ・カンパーニュが驚いて見下ろすと、風森巽は勢いよく落下していくところでした。さすがに1000メートル以上ある世界樹から地上に落下したらぺちゃんこどころではありません。
「まだまだ……、えっ!?」
 ウイングシールドに乗って展望台を目指していたアルディミアク・ミトゥナでしたが、そこへ頭上から風森巽が落ちてきました。
「うげ、た、助かった……。むっ、この感触は……」
 何か柔らかい物を手のひらでむにゅむにゅしながら、風森巽が言いました。アルディミアク・ミトゥナの上にのしかかるようにして、なんとか落下をまぬがれたようです。しかし……。
「こ、殺す……。今度こそ、原子分解して、殺す……」
 まだむにゅむにゅと胸を揉まれながら、顔を真っ赤にしたアルディミアク・ミトゥナが唸りました。風森巽、終わりました。
 そのときです、遥か上から何かが落ちてきました。
「ひゃっほー」
 ココ・カンパーニュです。みごとに、風森巽の背骨にドロップキックを決めて止まりました。
「くぼあ!」
 いけません、風森巽、白目をむいています。やはり終わったようです。
「ありがとう、OKだよ」
 風森巽にだきつきながら、ココ・カンパーニュが言いました。けれども、本人は気絶しているので、聞いちゃいません。
 ええっと、これでいいのでしょうか。何か忘れているような気がします。
「落ちてくわね……」
 エレベータで下へむかっていたティア・ユースティが、何か叫びながら自分を追い越して落ちていく風森巽とココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナを見てつぶやきました。定員オーバーです。