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「OGのお姉さんの差し入れでーす!」
 陽気な声と共に、セクシーな女性雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が入って来た。
 差し入れの中身は、レモネードと飴のセット。相手に気遣わせずに差し入れができるのがやはりいい女、というところか。
「お疲れ様。喋りすぎてのど痛めないようにね」
 レモンスライスの爽やかな香りに、蜂蜜のとろーり甘い味。少し熱くなった喉と肌に、グラスの中の氷がひんやり、気持ちいい。
 へらへらしたり、ピシッとしていたり、なよなよしたり、獲物を狙う猫のようだったり。女の子は色々な表情を見せるが、リナリエッタは得にそんなギャップが強い印象がある。
 女王の名を冠したドレスを背がすらりと高いリナリエッタが着ると、より大人っぽく見えた。
「ありがとうございますわ。ラズィーヤ様と校長には、もう?」
 生徒会執行部『白百合団』OGであり、OG会『白ゆる会』のお茶会――と言う名の合コn――セッティング担当でもある。
 とはいえ、アナスタシアとはあまり接点がなかった。どちらかといえば二人の方と積もる話がありそうだ。
「ええ。飴はここに置いとくわ。……あ! ついでに、ちょっと貴方とお話ししたいのよ」
 軽く笑って、リナリエッタはアナスタシアがレモネードをテーブルに置いたのを見計らって、その手を取る。
「ごめんなさいね。といっても大した用事じゃないわ。私この春で短大を卒業するんだけど。そのままいったん自分探しの旅にでも出ようかなーと思って」
 手を取ったままテーブルを挟んで座って、勢い顔が少し近づいた。
 ……百合園の乙女たちは皆、こんなに積極的だったかしら? などとアナスタシアはちらりと思った。契約者の相談者は多かれ少なかれそうなのかもしれない。
 リナリエッタはそんな内心を知らず、アナスタシアに聞こうと思っていた質問をぶつける。
「で、まずは超大国エリュシオンに行こうと思ってるの。女が一人でいって仕事とか大丈夫か、とかどんな場所なのか女性の目線からお話聞きたいのよ」
「……エリュシオン……ですの?」
 ――確かに。アナスタシアはエリュシオン帝国出身だ。こういう話なら、実際に住んでいた人間に聞いた方がいい。
「私は帝都ユグドラシルから殆ど出たことがありませんし、貴族社会しか見ていませんから、それ以外には詳しくないのですけれど……」
 彼女は少しずつ、エリュシオン帝国について語り始める。
 エリュシオンは全体的に言えば、男女同権の意識が強い。貴族や派閥、樹隷などがいるため一概には言えないが、能力の高いものが率先して上に上がっていく傾向があること。
 契約者は能力が高いため、いわゆる冒険者のような仕事があるということ。シャンバラの学校を辞めた者たちがエリュシオンに流れて、冒険者紛いのことをしている者もいるという話を聞いたことがあること。
「魔法が多用されていますから、文明レベルはシャンバラより高くて生活は便利ですわね。治安という面でも、私の住んでいたユグドラシルは安全に感じましたわ。でも、他の帝国領は場所によって安全な場所も、危険な場所もあるみたいですわね……」
 それに、と付け加える。
「エリュシオンは大国故に、多くの人がいますわ。力の強い人が。多くの人がいるという子とは、多くの思惑があるということ。たった一滴の水が大河の流れを変えることはできませんわ。でも流れのどこを行くか、どの岸にたどり着くかを決めることはできると思いますの。
 どうか無事に、楽しい日々を過ごせるように、微力ながら祈っていますわ」
 頷くリナリエッタは楽しげに、気楽そうに見えたが、それはただの観光やモラトリアムだけではないことはアナスタシアにも分った。
 ただその理由を、彼女は知らない。