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ゾンビの館! 救出を求む調査隊

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ゾンビの館! 救出を求む調査隊

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 第 3 章

「気に入らんな」
 スノー・クライム(すのー・くらいむ)を纏い、仮面で素顔を隠した佐野 和輝(さの・かずき)の呟きにスノーも怪訝な声を隠さない。
「和輝? いきなりどうしたの……あの魔道書君達なら軟禁されているようだし、私達の事気付かれる事はないと思うわよ?」
「そうじゃない……」
 ゾンビの研究に協力するという契約で、禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)にサポートをさせるという話であったが和輝が引き合わされたのはこの研究の主任ではなく、直属の下っ端研究員であった。
「研究だけならそれでもいいだろう、だが教導団の調査員とあの魔道書の双子がこの洋館に居る事自体、教導団の連中を呼び寄せる事になる。その事を警告したにも関わらずこの研究を始めたという主任とやらは何の対策も講じようとしない、魔道書達も既に救援を出したというのに」
「……確かに変ね、教導団の調査員も閉じ込めただけで特に何かするわけでもないし……リオンのサポートで生きた人間をゾンビに仕立て上げる事は出来るようになったらしいけれど、その実験に彼らを使おうとでもいうのかしら」
 研究機器を前に、リオンの展開する理論が研究者達によって纏め上げられた。本来、アンデットとなれば身体は腐乱し脆くなるため数が居てもそれを上回る殲滅者が居れば戦力としては頼りない。
「あとは医学分野に類する事だ、生きた人間を使うのであれば肉体の増強は容易いであろう」
 結論付けるリオンの傍では、難しい話に段々付いていけなくなっているアニス・パラス(あにす・ぱらす)が欠伸をしてしまう。ゴシゴシと目を擦っているとリオンが手にした本で頭の上を叩かれては抗議していた。そんなアニスに和輝は【精神感応】を使ってテレパシーを送る。
(アニス、あの時の魔道書達がこの洋館に居る事は知っているな? じきに教導団から救援も来るだろう。というか、既に侵入しているとみていい……撤退の頃合いを図っていてくれ、なるべく間違えないようにな)
 壁に寄りかかって両手を組む和輝は、研究者達の動向を観察しつつ撤退時の戦闘をどうするか――と、軽く頭の中でシミュレートを始めていた。


 ◇   ◇   ◇


 ゾンビの研究は直属の部下に任せ、1人――大きなモニターを前にコンピューターのキーを叩き続ける研究者が座っていた。
「フン……まさか、イーシャンとシルヴァニーがここにやってくるとはね。何れ誰かに拾われると思っていたがシャンバラ教導団とは……」
 気配と姿を消したまま、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は黙って研究者の独り言を耳にしていた。護衛の仕事を請け負ったのはファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)がゾンビの研究に興味を示し、研究者が彼の観察力を買い、共同研究が出来そうだと研究者が判断したのだった。
「ファンドラ君、ゾンビ製造の過程でそれ以外にも製造できる可能性を見出せるかもしれない。このデータは君の協力で得たものだ、コピーを取ったから空いてる機器で自由にシミュレートしてみるといい」
 渡されたディスクを受け取ったファンドラは、刹那が姿を隠す位置へ一度目を向けると小さく頷いてディスクの解析とシミュレートに入った。既に教導団が動き出している事は容易に解るものの、目の前の研究者は一向に慌てる様子がない。
(考えている事が読めぬ依頼主じゃな……だが、あの魔道書達と何らかの関わりがある事は確かなようじゃ……ふむ、まあファンドラが目的を果たせそうなら、今はそれで良しとしておくべきじゃのう)

 無機質な機械音が鳴る室内には、研究者と気配を断った彼の護衛が立ち並ぶ。壁際に設置されている小さなモニターが並ぶうちの1つには、何とか扉を開けようとしているイーシャンとシルヴァニーの姿が映り込んでいた。刹那はそのモニターへ一度目を向けると、静かに戦闘準備を始めるのだった。