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音楽学校とニルミナスの休日

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音楽学校とニルミナスの休日

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先を見つめて


「竜の所にはきっとお宝が有るにちがいないであります」
 ネコミナスで手伝いをしている穂波のもとにやってきた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はいきなりそう言う。
 前回はバイコーンの監視をしていた為関われなかったが、古代竜の巣にはお宝が眠っているんじゃないかといろいろと話を聞いていた。
「えーっと……ないと思いますよ?」
「!?……な、なぜそう思うのであるますか?」
 希望が断たれない様に吹雪は聞く。
「巣を見ましたけどそういうものがある様子はありませんでしたし……宝を溜め込むタイプの竜でしたら五千年かんのまず食わずと言うことはないと思います」
「……希望が断たれたのございます」
「え、えーっと……普通の金銀財宝はないかもしれませんが、あの古代竜さんは全身がお宝のようなものかもしれません」
 魔法的な価値も絶滅したと思われていた希少種としての価値もそこらの金銀財宝などとは比べ物にならないだろうと穂波。
「手に入れられたら一生遊び放題でありますか?」
「量にもよるでしょうが……仮に牙の一本でも手に入ればそれくらいは余裕じゃないかと」
 そこまで言って恐る恐る穂波は聞く。
「……古代竜さんを狙いますか?」
「少し考えるのであります」
 そう言って吹雪は穂波に別れを告げてネコミナスを出る。
「うーん……湯るりなすにでも行くでありますか」
 ゆっくり考え事ができそうな場所ということで吹雪は行き先をそう決める。
「こうして考えてみるとこの村をいろいろと変わったのであります」
 最初この村に来た時、この辺りには何もなかったことを思い出す。
「……きっとこの村はまだまだ大きくなるのであります」
 そんな予感がする吹雪だった。


「ふぇ? このペンダントを隠せばいいの?」
 アニス・パラス(あにす・ぱらす)佐野 和輝(さの・かずき)のお願いに不思議そうな顔をする。
「ダメか?」
「えっと……取り上げるって話じゃないなら和輝のお願いを断る理由がないよ」
 アニスはそう言って服の中に隠すようにペンダントを付け直す。
「これで、無用な注目は避けられるか。……アーデルハイトに接触する前に切り札を隠すこともできるな」
「アーデルハイトに会うの? あの人、この村に何か関係あったっけ?」
「スフィア」
「分かっています」
 和輝に名前を呼ばれたスフィア・ホーク(すふぃあ・ほーく)は和輝の意図を理解する。
「ちょっと『皆』に聞いて……スフィア?どうし――ありゃ? 何か、凄く……眠く、なって……うにゃぁ〜……」
 スフィアのヒプノスで深い眠りについたアニスの体を和輝は背負う。
「……あの人の話をするのをアニスに聞かせるわけには行かないからな」
「かといって、置いていくというわけにもいきませんからね」
 アニスの精神は一先ず安定しているが、それも前村長の話を聞くとなるなら別だ。
「スフィア。俺が交渉を引き受ける。スフィアは情報の記録を頼む」
「了解です」

「やれやれ……今日は色々聞かれる日のようじゃの」
「休暇中申し訳ない。ただ、この村の今後に関わることだ。できればご協力願いたい」
 アーデルハイトに和輝はそうお願いする。
「して、何を聞きたいのじゃ?」
「四つしかない特別なペンダントを持っていると聞いたが……それについて何か知っていることを教えてもらいたい」
「ふむ……これのことかの?」
 そう言ってアーデルハイトが取り出したペンダントは確かにアニスが持っているものと一緒だ。
「そうです。それについて何か隠していることはありませんか?」
「ふーむ……これが四つしかないということをなぜ知っているのかは知らぬが、私が知っていることはだいたい一緒に話したのじゃ」
「では、なぜ四つしかないペンダントをあなたは持っているのですか」
 そこに意味があるのだろうと和輝は言う。
「ふむ……お前はミナスのことを過大評価しているようじゃの」
「……それは、どういう意味ですか?」
「繁栄の魔女、大魔女と呼ばれたミナスじゃが……その本質はただの寂しがりやの人見知りじゃ」
 だから
「心を許したものには忘れ去られたくないと……そう思っただけじゃよ」
「寂しがりやの人見知り……ですか?」
 その言葉に和輝は背中にある重みを思い出す。
「お前は若いころのあの男に似ておるの。目的の為なら自分の手をためらいなく汚す」
「……俺たちのことを知っていたんですか」
「お前たちが何を思いどんな行動をしているか私は知らぬよ。聞きもしない」
 じゃが、と。
「あの男のことを私は最後まで信用はできなかった。じゃが、信頼はしていた」
 だから、と。
「もしもお前らがあの男に後事を託されたのなら、私は信用はしない。……じゃが、信頼はしよう」
 さて、と。
「お前らはあの男とどういう関係あるのかの?」

(やれやれ……食えない人だ)
 協力が欲しければ自分たちのことを話せといっている。
(情報を持っていないということに嘘はないようだが……今後のことを考えるなら選択肢はないか)
 冷静に判断し和輝はそう思う。
「俺たちは――」

 そうして和輝は自分の立場を明らかにすることでアーデルハイトの密かな協力を約束された。



「四つのペンダントの一つは村長があのゴブリンに渡した……と。持っていないがために村長は色々と抜けてたりなんやりと……。何か理由があったのかしら」
 ネコミナス。店主である奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)は仕事の合間に今までに集めたペンダントに関する情報を思い出す。
「あのゴブリンと村長には何か繋がりがあった。大事なペンダントを渡すほどの繋がり……。それとなく村長に聞いてみる他ないかしら。覚えているかわからないけれど」
「ミナホお姉さんに聞くのは難しいと思いますよ。十年前……ミナスさんが死ぬ以前の記憶は忘れていますから」
 あくまでそれは精神的ショックからくる記憶の忘却であるから、繁栄の魔女の呪いとは違い、思い出す可能性はあるけれどと穂波は言う。
「行き着く先は闇……なんちゃって。冗談だって冗談」
 沙夢が悩んでいる様子を見て雲入 弥狐(くもいり・みこ)は冗談めかして言う。
「沙夢は考え過ぎると深く深く考えちゃうから、深く入りすぎないようにってね」
「そう……かもしれないわね」
「もう少し情報集めてみようよ。まだ答えを出すには早いって。ね?」
「答えだけを目指していたら周りは見えない、と。もう少し周りも見ないといけないわね」
 はぁと息を吐いて沙夢は言う。
「弥狐に諭されるなんてね」
「むぅ……沙夢酷い」
 ほほを膨らませる弥狐。
「いつもつまみ食いしてる自分の行動を考えなさい」
 そう思うのも仕方ないだろうと沙夢。
「でも、弥狐さんって、物事の本質を見るのが上手いと思いますよ」
 穂波の言葉。
「さすが穂波ちゃん! ね、ね。これ食べてみてよ。いちご春巻き! パリパリと甘いデザート!」
 嬉しさを表現するように弥狐は自分が考えたデザートを穂波に食べさせる。
「小腹にちょうどいいと思うんだけど……どうかな?」
「美味しいですよ。いちごの甘さがちょうどいいですね」
 優しい笑みで穂波は言う。
「えへへ、つまみ食いを何度も経験したあたしの自信作だからね」
 誇らしそうな弥狐。
「……なんで誇らしげなのよ。穂波ちゃん。これも味見できるかしら? 新メニュー、蜂蜜レモン珈琲。蜂蜜漬けのレモンを少し入れた珈琲……ってだけなんだけどね。少し改良が必要かしら」
「うーん……そうですね。この際レモンをジャムにしてみたらどうでしょうか?」
「ジャム……ね。面白いかもしれないわね。試してみるわ」
「それとですね、ペンダントのことですけど……ミナホお姉さんに聞くのは難しいかもしれませんから、もう片方の当事者に聞いてみることをお勧めします」
 穂波はそう提案した。



「お久しぶりです、舞花さん、エリシアさん。古代竜の件はお世話になりました」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナー、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は話があるとウエルカムホーム内にある一室に穂波を誘った。そして席についてすぐに穂波にそう言われた。
「穂波さん。それはこちらが先に言わないといけないことです。古代竜の防御壁の問題を解決してくれてありがとうございました。
「わたくしからも礼を言わせてもらいますわ。わたくしたちだけでは古代竜の防御壁を無効化することはできませんでしたわ」
 その上でと舞花は言う。
「助けてもらった私たちが言うべきことじゃないのかもしれません。……それでも、あの力を使うのはやめてくれませんか?」
「あんな芸当、普通に考えれば不可能ですわ。それ相応の代償が必要に思えてなりませんの」
 舞花とエリシアは穂波が使ったあの力を使うのを控えるようにお願いする。
「大丈夫ですよ舞花さん、エリシアさん。あの力は恵みの儀式のように対価を要求するような力ではありません。正確には『力』ではなく単なる『技術』です」
「技術……不可思議な力もなく単純な技量のみであの芸当を起こしたというのですの?」
 信じられないとエリシアは呟く。
「じゃあ、なんで、防御壁を無効化したあとに倒れたんですか?」
「仕方ないんですよ。あの時古代竜さんの防御壁を無効化させるには自分自身の力がなければ『理論上不可能』だった。特別な力を持たず、魔力さえも持たない私は数少ない生命力をかけるしかなったんです」
「それじゃあ、あの時感じたほんの少しの力、わたくしが感じられなかったわけでなく、本当にあれだけの力であの現象を起こしたと言うのですか」
 エリシアは思う。契約者ではなく、そのような現象を起こせる穂波は何者かと。
「穂波さん……あなたはいったい……」
 舞花の疑問。古代竜とのやり取りから穂波が『創られたもの』であることは舞花もエリシアも想像がついている。けれど、それはどういう存在なのか。
「『器の魔女』……繁栄の魔女と衰退の魔女の代わりにその力を振るう存在として作られたのが私です。……そこまで言えば、私がどういった存在かは分かりますよね」
 つまりは、繁栄の力と衰退の力を効率的に使う為に『力を扱う技術』のみを極限にまで高められた存在。
「ただ、古代竜さんでの件で分かるように私は私自身の力を全く持っていません。ほんの少しの生きるための力しかためることができず、それはある方法でしか補給することができません」
「その方法というのはもしかして……」
 予感はあった。穂波のあの力は恵みの儀式となんらかの関係があるのではないかと。
「はい。恵みの儀式……繁栄の魔女から与えられる繁栄の力で私は生かされています」
「……もし、仮に恵みの儀式が終わったら……」
 穂波はどうなるかという質問をエリシアは飲み込む。それは聞くまでもないことだ。
「だから、安心してください。私の技術はミナホお姉さんのように使いすぎれば破滅を導く力ではありません。……もちろん、ミナホお姉さんから生きる為以上の力を借りれば話は別ですが」
 それをするつもりはないと穂波は言う。
「『恵みの儀式』を終わらせるため、私はまだ『生かされ』続けないといけません。だから……」
 それまでは私の存在を見逃してくださいと穂波はお願いする。

 そのお願いになんと答えるか。舞花とエリシアはまだ答えを持っていなかった。