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第四回葦原明倫館御前試合

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第四回葦原明倫館御前試合

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準決勝


   審判:プラチナム・アイゼンシルト

○第一試合
セリス・ファーランド 対 ダリル・ガイザック

 ダリルはちらりと観客席に目を向けた。カルキノスはまだノビている。淵とルカルカが手を振っているが、返したりはしない。
 これに勝てば決勝である。俺が優勝すれば、ルカに続いてとなるな、とダリルは考えた。

 ダリルの狙い澄ました一撃を、セリスは一刀両断にした。さすがにここまで勝ち残ったわけのことはある。だが、隙は誰にでも出来る。それを待てばいい。
 セリスが間合いを詰めてくる。武器が木刀なのだから、当然だ。こちらは冷静に、距離を取る。
 ふと、セリスの動きが鈍った。どうやら凹んだ土に足を取られたらしい。今だと思う間もなく、ダリルは狙いを付けていた。
 だがその一瞬後、セリスの姿は消えていた。
「何――!?」
 背後に気配を感じたとき、ダリルの両肩に衝撃が走った。何が起きたのか分からなかった。プラチナムが勝者を告げ、自分が負けたのだとようやく理解した。
「負けた――か」
 欲を出したのがいけなかったのかもしれない。
 だがこれで、残る試合の記録を取ることが出来るな、とダリルは考えた。何が勝敗を分けたのか、決勝を見て分析しなければなるまいと思った。

勝者:セリス・ファーランド


○第二試合
エメリヤン・ロッソー 対 緋柱 陽子

「お、っっっす! よろ、しく、お願いし……まっす!」
 これまた返事がない。エメリヤンはちょっと凹みそうになった。
 エメリヤンは【超感覚】を使うと、今度は上へ飛ばず、素早い動きで陽子の後ろを取った。だが、渾身の後ろ脚蹴りは、陽子の武器で絡め取られた。更に彼女の拳が腹部にめり込む。
「がふっ……!!」
 脚を取ったまま、陽子はエメリヤンの顔面目掛け、殴りつけた。だがマフラーが陽子の拳を優しく包み込む。
「まっ……けな、っいぞー!」
 こんな状況だというのに、エメリヤンは楽しかった。
 ほとんど間合いがないのは、幸いだ。エメリヤンは、頭突きを食らわそうとした。だが陽子は、その動きを読んでいた。――先程の試合を見ていたのだ。
 エメリヤンの攻撃を避け、陽子は縄を引っ張った。よろめいたエメリヤンの膝目掛け、彼女の肘が落ちて行った。

「ありが、とうっ……」
 エメリヤンの笑顔に、陽子は面食らった。怪我をさせて、礼を言われたのは初めてだ。この男は、どうかしているんじゃないかと思った。
 一人では歩けないほどの重症だったが、それでも、エメリヤンは楽しかったのだ。全力を尽くせたことが。全身を使って、自分という感情を表現できたことが。
 陽子には知る由もないことであったが。

勝者:緋柱 陽子


○第三試合
カタル 対 北門 平太(宮本 武蔵)

 二人が出てきたときの声援は、凄まじいものがあった。
 カタルは前述の通り、葦原島を救った英雄であったし、平太もまた、知る人ぞ知る救世主であったからだ。
 カタル自身、平太が何をしたか知ってはいた。だが、まだきちんと話をしたことがなかった。この試合が終わったら、結果はどうあれ、話してみたいものだと思っていた。

 足元を狙った攻撃を、平太(武蔵)は踏みつけることで躱した。カタルの棒は、びくともしない。平太(武蔵)はにやりとした。
「この小僧は、伊達に太っとるわけではないのでな」
 平太(武蔵)の木刀に冷気が集まる。
「一瞬で昇天させてくれる」
「そうはいくか!」
 カタルは棒を手放した。踏みつけていた平太(武蔵)は、思わずよろける。そこにカタルの拳が入った。
「チッ!」
 舌打ちした平太(武蔵)は、しかしカタルの手首を掴むと、
「甘いわ坊主!」
 思い切り蹴り上げた。カタルの身体が高く高く宙に舞った――。

 カタルが目を覚ましたのは、医務室だった。高峰結和は、席を外している。だが代わりに別の人間が傍に座っていた。――カタルは、この光景に見覚えがあった。
「またどこかの里に篭っているかと思いましたが、こんな所で会うとは奇遇ですね」
「……お前は!」
 カタルは上半身を起こそうとして、痛みに顔を顰めた。
「何も無理をすることはない。今の僕は、君を傷つけるつもりはない」
 しかし、そうと言われてすんなり信じられるはずもなかった。カタルはその男――高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)を睨みつけた。しかし、当の玄秀は気にも留めていないようだ。
「まさか明倫館に入るとはね。折角、鳥籠から逃げ出す機会があったのに、自分から籠に戻る選択をするとは馬鹿な奴だ」
 カタルは眉を寄せた。嫌味を言っているようだが、口調はそれほどでもない。この男は、何を言いたいのだろう?
「ちょうどいい機会だから、尋ねたい。――君は今、幸せなのか?」
 カタルは玄秀の顔をしばらく見つめた。そして、いや、と答えた。玄秀の顔が一瞬、険しくなる。
「でも、不幸せでもない」
「――そうか」
 その答えを玄秀がどう受け取ったのか、表情からは分からなかった。
「もう、会うこともないだろう。君は君の道を行くがいい」
 自分にとって、カタルとは何だったのだろうと玄秀は思った。またカタルにとって、自分は何かでありえたのだろうか。――今となっては、もうどうでもいいことだ。
 カタルは「ここ」に留まり、玄秀はティアン・メイの待つ「外」へと向かったのだった。

勝者:北門 平太(宮本 武蔵)