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パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 

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パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 
パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~  パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 

リアクション

 十階・赫空の間


――契約者たちが辿り着く少し前。
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が、儀式を行う八紘零に近づいていた。
 彼女は以前、零から秘密兵器を譲り受けている。その時のコネでこっそりと発電所に侵入した吹雪。もちろん、教導団側には内緒の単独行動であった。
「これはこれは。精が出るでありますな」
 ギフトの右腕は三角を描くように並べられており、その中心で座禅を組んだ八紘零は、鬼のような形相で詠唱をつづけている。そんな彼へ吹雪は秘密兵器を片手に語りかけた。
「――ほう。誰かと思えば、あの活きの良いテロリストか」
 詠唱を終えた零が、近寄ってくる吹雪を見やる。
「時に八紘零。ちょっと訊きたいのでありますよ」
 吹雪は手に持った秘密兵器を掲げた。それは一見すると小型の時限爆弾のようで、タイマーの他に、赤と青のボタンが一つずつ付いている。
 貰ったのはいいものの、使い方や効果は不明であった。
「せっかくなら最も効果的に使いたいであります。この兵器は、いったい何でありますか?」
「そういえば詳細を教えていなかったな」
 零は顔中に流れる汗をぬぐい、血走った目を吹雪に向ける。
「そいつはUltima Ratio Regum(ウルティマ・ラティオ・レーグム)という兵器だ。ラテン語で『王の最終議論』を意味する名だが、まあそんなことはどうでもいい」零はふたたび汗を拭った。「まだ試作品なので大した効果はないがな。タイマーをセットした後、赤いボタンを押せば、この発電所を半壊させるくらいの威力で爆発する。青いボタンを押せば、使用者とそのパートナーのクローンが発生する」
「クローンでありますか」
「それもただの複製ではないぞ。身体能力は大幅にアップするのだ。――だが、何度やっても人格が反対になってしまうんだがな」
 零は苦笑しながら告げた。
「説明は以上だ。あとは、君の好きなように使うがいい」
「了解であります! ところで八紘零」
「なんだ?」
「自分、借りは作らない主義でありますので。いざという時のために逃走経路を用意したでありますよ」
 吹雪があらかじめ調べておいた契約者側の布陣を伝えようとする。
 しかし、零は彼女の申し出を拒んだ。
「いや。それには及ばない。ここまでくれば、私は逃げも隠れもしないさ」
 零は立ち上がると、下の階とを繋ぐ通路の方へ向きなおった。彼の視線の先には、遺伝子操作で筋肉が増強された陽鴻烈が、壁のように立ちはだかっている。
「――今回は団長が来てるので、見られると流石にマズいであります。自分は他の連中が来る前に消えるでありますよ」
 そう言って吹雪は、他の契約者とは違うルートから帰ろうとする。
 立ち去る直前。吹雪は八紘零にむかって敬礼をした。
「では。幸運を祈るであります」


 吹雪と入れ違うようにして、契約者たちが最上階に到着する。