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【アガルタ】御主の企み、巡屋の葛藤

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【アガルタ】御主の企み、巡屋の葛藤
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●いつか夢見た未来を抱いて●



「ああ、ようやく来てくれたの?」
 悪世は独房の中で笑ってその人物と応対した。
 その人物は無言のまま、拳銃を悪世へ向けた。悪世の目が輝く。

 そう。それでいい。
 自分(いもうと)を殺せば、あなたもあなたでいられなくなる。

「あの子が私を殺そうとして、あなたがそれを防ぐために、その前に私を殺してくれるはずだったのに……あの子ったら本当に期待はずれね」
 その人物、ハーリーは何も言わない。
「でもいいわ。最後が一緒なら、やっぱり最高の日曜日だもの」
 悪世は、顔を輝かせ、その時を待つ。最後まで、ハーリーの顔を目に焼き付けようとして……首をかしげた。

 おかしい。銃口が震えている。

 また、理解できないことが目の前で起きていた。

 ハーリーが、目から水滴――涙らしきものを流していた。そしてその涙が、悲しみからではないのを、悪世には分かった。
 昔から、ハーリーが悲しみで涙を流す時は、手で顔を隠す。しかしそうでないときは

(喜んでる? なぜ?)

 自分を殺せる喜び? いや違う。彼はまだ彼のままだ。そんなことで喜びを感じることは無い。
 おかしい。理解できない。

「――っ」

 ハーリーが小さく、震える声で何かを言った。小さすぎて聞き取れはしなかったが、唇の動きで意味は分かった。
 分かったが、理解は出来なかった。

『生きていてくれて、良かった』

 そして銃口は下げられ、ハーリーもまた独房を去っていった。

「さっさと頭冷やせ。
 外で『妹』が待ってる」

 そんな、さらに悪世を混乱させる言葉だけを残して。



* * * * * * * * * *




「みなさん、今回は本当にご迷惑とご心配をおかけしました。ささやかながら、お礼の宴をさせていただきたく思います。
 どうか、ゆっくりしていってください」

 巡屋の本拠地では、今回巻き込んでしまった人たちを可能な限り招待し、宴を開いていた。
 美咲はその中で参加者に楽しんでもらおうと、せっせとカラになった皿を提げたり、新しい食事を運んだりしていた。

 厨房へと入ると、そこにはドラゴニュートの男と、着物の女性がいた。
「……すみません、竜さん。料理手伝ってもらって」
「気にするな。むしろ頼ってもらえたことは嬉しく思うぞ」
「そうそう、美咲ちゃんって、一人で抱えすぎるから」
「そんなことはな……ひゃあっ」
 慌てて首を振った美咲は、腕にたくさんの食器を抱えていたことを失念していた。そのまま倒れかけたのを、女性が支える。

「すみませ……あれ?」
 その腕は、女性にしてはたくましく……。女性がしーっと指を立てた。

『みんなには、内緒だよ?』



* * * * * * * * * *




「わーっおいしい!」
「今日の料理は武流渦さんの料理人さんに頼んで作ってもらったんですよ」
「……たしか、この地区にある料亭でしたか。ドラゴニュートの板前がおられる」
「あっ知ってる! 女将さんが美人だよね」
「そ、そうですね」
「本当に美味しい……どうかしたのですか、美咲さん。声がうわずって」
「ななな、なんでもないです。あ! ヤスが今から一発芸をしますよ」
「……お嬢。いきなり無茶ぶりせんでくだせぇ」
「お嬢は昔から無茶な要求しますからねぇ」
「ああそうそう。前なんかさ」
「わわわっちょっと。それは内緒だって」
「なんだか楽しそうな話ね」
「……あまりからかっちゃだめよ」
「お、お姉さん助けて」
「あら。わたくしも知りたいわ。ね、三人も知りたいでしょ?」
「いや、俺は別に」
「知りたいわよね?」
「あ、うん。そうだな」
「みゅ〜!(こくこく」
「あたしもどうでも……か、帰っていい?」
「だめ」
「まあ、一応問題解決したってことで……そういう働き賃代わりにでも情報もらっておこうかしら」
「そうねぇ。いざというときの弱みとして使えるかもしれないしねぇ」
「(うわー、すっげー楽しそうだな。じゃあ俺も楽しませて)なあ美咲ちゃ」
「ハイハイ、エロ鴉は寝る時間よー」
「ちょ、俺の扱い雑すぎるだろ」
「見てください、凄く綺麗な料理ですね!」
「なんだか食べるのがもったいないね」
「だなぁ……写真だけでもとっておくか」
「そうですね」
「ならあとでみんなで写真も撮ろうか。もちろん聞いてからだけど」
「いいわねそれ! もちろんNo1アイドル(自称)のあたしが真ん中よね?」
「ふむ。写真か。私は構わない。ああそれと、真ん中はやはり巡屋の方がいいだろう」



 そんな賑やかな声が外にまで聞こえてきて、思わず彼は苦笑した。
「……行くか」
 しばらく建物を見上げた後、きびすを返し、同行者に声をかける。

「入らなくていいの?」
「ああ……もう大丈夫みたいだからな」
 微笑む彼に、同行者の女性が「もうっ」と声を出した。

「どんなに拗れてしまった関係だって、素直にぶつかって繋ぎ直せるものなんだよ?」
「いや、だとしても。それに甘えるわけには」
「……あなたの望みは、コレなんでしょ?」
「っ!」
 女性が取り出した鏡が、幻を生み出す。彼の願い――3人兄弟で笑いあう幻を。

 彼が押し黙る。
 もう一人の同行者である男性が、そんな幻に微笑む。
「なんとまあ不器用な奴だろう」
 と。

「だけど俺には」

「なんだか外が騒がし……あ」

 彼と美咲の目が合った。途端、この街で一番偉いはずの彼は、まるでいたずらが母親に見つけられたかのように動揺し、目をきょろきょろさせた。
 そしていつのまにか、同行者は姿を消していた。

 驚いたのは美咲も同じだったが、彼女は彼の慌てぶりにくすりと笑う。


「一発殴らせてくれるなら、中に入ってもいいよ?」


 彼はしばらく答えに窮し、回転が速いはずの頭を重たい音を立てて回して最良の答えを探したが、まったくそんなものは見つからず。
 最終的に白旗を揚げた。


「……できればお手柔らかに頼む。お前の全力は、まじで死ぬ」

「失礼な! 今はちゃんと加減できるように……なったと思うよ?」
「不安すぎるだろ、それ」









* * * * * * * * * *




「なんということだ。御主悪世がつかまってしまうとは。アガルタ征服が少し遠のいてしまったな」
 まあいい、と白衣をなびかせた男はめがねに触れた。
「我らオリュンポスだけでもアガルタを征服するなどたやすい……ん?」
「ああ、背後からすみません。私は暗殺組織[月の棺]のファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)と申します」
 ゆったりとした衣服を身につけた男、ファンドラは穏やかな顔をして名乗った。
「オリュンポスの幹部、ハデスさんとお見受けしますが」
「そうだ。それで ファンドラ・ヴァンデスとやら。俺に何か用なのか?」
「いえ、簡単なお話です。
 あなたたちが目指しているのは世界征服をすることだ、とお聞きしまして、ぜひ手伝わせていただきたい、と思いまして」
 ファンドラはここで、やや悲しげな顔をした。
「今の暗く辛い世界よりも、あなたたちに支配していただいた方が素晴らしい世界になるでしょう。
 私はそんな世界を見てみたいのです」
 どうか、と頭を下げた先で、ファンドラの頭には様々な計算が浮かんでいた。

(互いに協力し合えば、自分(ファンドラ)の目的、パラミタ崩壊を早く進めることができるかもしれませんからね)

担当マスターより

▼担当マスター

舞傘 真紅染

▼マスターコメント

 どうも、舞傘です。

 というわけで、真実を知らせる+条件クリアと判定させていただきました。
 とりあえず今回の話で巡屋関連は終わりとなります。
 終われてよかったです。

 こういったやり方は初めてではありましたが、どうだったでしょうか?
 思い描いたエンドとは違ったかもしれません。
 ですが美咲はこれからもっと強くなるでしょう。ハーリーは強くなった妹に喜ぶべきか嘆くべきか悩むかもしれません。
 悪世の今後は、ご想像にお任せします、とだけ。

 ご参加いただきまして、ありがとうございました。